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「好き」を叩いて伸ばした |光文社新入社員けーきちの出版就活

 出版志望で「本好き」は没個性になる。 
 面接にいる人、説明会に入る人、どの人も本が大好きだった。その上で自分の他の一面をアピールしてくる。
 しかし、私は「本好き」以外がなかった。
 そこで開き直った

1 大学生活から就活まで

 大学時代、読書系のサークルに所属した。とりわけミステリー小説が大好きで、有名なミステリー作品を読み漁った。読書会で喋り過ぎるので、しばしば順番を後ろに回された。

好きな国内ミステリー
1 天藤真『大誘拐』
2 京極夏彦『魍魎の匣』
3 泡坂妻夫『乱れからくり』
好きな海外ミステリー
1 アガサ・クリスティー『そして誰もいなくなった』
2 アントニー・バークリー『毒入りチョコレート事件』
3 ディクスン・カー『緑のカプセルの謎』
最近の注目ミステリー作家
阿津川辰海、鵜林伸也、片里鴎、エイドリアン・マッキンティ……etc

好きな国内SF
1 小松左京『日本アパッチ族』
2 伊藤計劃『ハーモニー』
3 半村良『戦国自衛隊』
好きな海外SF
1 チャイナ・ミエヴィル『都市と都市』
2 ブライアン・オールディス『寄港地のない船』
3 クリストファー・プリースト『双生児』
最近の注目SF作家
 石川宗生、柞刈湯葉、 郝景芳、マーサ・ウェルズ……etc

 好きな短編についても語りたいが、長くなるので省略!

 読書だけでなく、創作にも手を染めた。同人誌を作成したり、短編を毎月ネットにあげた。反応をもらえることもあり、そのたびに嬉しく思った。

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 数年前、同人誌になった紙束。手で製本し、文学フリマで頒布した。日程調整がうまく行かず、イベント当日まで徹夜で作業。ひどい思い出。

 読んでいたのはミステリーばかりではない。中世和歌史のゼミに所属していたので、研究書や論文も読んでいた。
 卒論で扱った歌人は、多岐の分野にまたがる興味深い人物だった。しかし、その歌人を専門としている研究者がいない。また、同期や大学院生と和歌の話をするのはとても楽しかった。
 このまま大学院に行くのも良いかも、とぼんやり考えていた。

2 幕張メッセで途方に暮れる

 就活を始めようと思ったのは、3年の2月のこと。
 
 まず、幕張メッセで行われた合同説明会に行った。有名企業が並び、チラシがたくさん配られる。ブースに溢れんばかりに人が詰めかけ、スーツ姿の同世代が並んでいる。「夢」「将来」という単語が会場中に溢れていた。

 困った。

 「働きたい」という気持ちが湧いてこない。
 興味・関心がないと、行動に移せないのが私の欠点だ。志望理由も働くイメージも全く掴めなかった。ESや面接で嘘を書くことはできない。

 幕張メッセで途方に暮れた私は、あらゆる業種を「自分に向いていない」と諦めた。

 興味があるのはフィクションだ。

 そこで出版をメインに受けることにし、受からなかった場合は考えなかった。

3 装備0

 
 実際、グループ面接を受けてみると、きらびやかな経歴を語る人が多かった。

 例えば「世界一周」、「留学」、「大学時代に経験した○○体験」などなど。

 ない。

 「出版 就活」と検索すると、「インターンシップには参加しよう!」「OB訪問は絶対しよう!」「ESは他人に添削してもらおう!」などと書いてある。就職ゼミのようなものも多く催されている。

 しなかった。
  
 OB訪問やインターンシップはした方が良いことだが、マストではないと判断した。ESもほぼ通過していたので、これ以上直す必要がないと判断した。あとから思えば、自信過剰なだけだ。

 装備0

 これが現状だ。出版志望が本を読むことは当たり前。さらに+αがあった方が絶対に有利だ。
 とはいえ、+αがないことははっきりした。

 ならば「本好き」を押し通せば良いのではないか。
 
  そこで就職活動中も本を読んでいた。

当時読んでいたのは、
 デイヴィッド・イーリイ『タイムアウト』、ジーン・ウルフ『ケルベロス第五の首』、カトリーヌ・アルレー『わらの女』、スティーヴン・ミルハウザー『バーナム博物館』、ニール・ゲイマン『墓場の少年』、フィッツ=ジェイムズ・オブライエン 『不思議屋/ダイヤモンドのレンズ』……。

 就活に直結しなさそうな本ばかりだ。  
  しかし、これが意外と役に立った。
 例えば、他社の筆記試験で企画立案という課題を出されたが、苦労しなかった。「この作者の本をもっと読みたい!」という熱をそのまま書けば良かったからだ。

  もし本好きで押し通したい就活生がいれば、趣味の読書は変わらず行うことをおすすめしたい。

4 就職活動中の試行錯誤

 
 面接対策、筆記試験対策はあまりやらなかった。**

 **周りは公務員志望が多く、出版希望もいなかった。「聞かれたら答えよう」と諦めに似た楽観を抱いていた。

 面接は終えるたびに軽く反省し、次回への課題とした。

 筆記試験は就活初めで大失敗したので、その反省を踏まえた。ニュースサイトで時事ネタを拾い、単語帳のようにまとめた。答えられなかった部分を記憶しておき、その都度追加した。筆記試験はその対策で通過した。

 企業研究もほとんどしなかった。書目は毎月確認しており、各社どのような出版物があるか知っていた。書店も気晴らしによく行っていた。

 ただ、ファッション誌はそれまで無縁だった。読んだこともなければ、ファッションに興味のない自分には遠い存在だ。『CLASSY.』や『JJ』がどの会社なのかも分かっていなかった。家族に聞き、書店の売り場を見に行き、実際に買って読んでみた。

 今思い返すと、採用サイトを読みこむべきだったと反省している。採用サイトを眺めただけで満足していた。

  例えば、採用サイトに光文社の試験形式が公開されていたが、私は確認していなかった。おかげで見当がつかないまま、準備不足で試験に臨んでしまった。

  また、光文社が面接を2回ずつ行うことを知らなかった。当日の説明で知り、内心焦りながら面接に臨んだ。

 採用サイトを隅々まで読んでいれば、この無意味な緊張は生じなかった。落ちていたら、後悔してもしきれなかっただろう。 

5 私が光文社を志望した理由

 光文社で何がやりたいか、面接ではっきりと話すことができた。 

 出版希望だったが、全ての出版社に応募したわけではない。ESを書いても気分が乗らず、結局取り止めた会社もある。
 
  光文社を志望したのは、3点理由があった。

①アンソロジーや短編集を手掛けたいから

 小学生の頃、東野圭吾『犯人のいない殺人の夜』『怪しい人々』といった短編集に感動した(最近、新装版が出ました!)
 高校生の頃、連城三紀彦『戻り川心中』『変調二人羽織』に感心した。
 多くのミステリ作家を輩出した『本格推理』シリーズも好きだった。
 光文社はアンソロジーや短編集が充実しているイメージがあった。光文社の編集者になれば希望が叶うのでは、という期待があった。

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『本格推理』『新・本格推理』・・・鮎川哲也が編者を務め、のちに二階堂黎人が担当した文庫版の雑誌。  青木知己、大山誠一郎(『アリバイ崩し承ります』)、東川篤哉(『謎解きはディナーのあとで』)、加賀美雅之(『双月城の惨劇』)、三津田信三(『首無の如き祟るもの』)などが活躍(敬称略)

②ジャンル分け隔てなく本を編集したい
 ミステリーとSFが特に好きだが、他のジャンルも好きだ。恋愛小説やキャラクター小説を読むのも楽しい。光文社は総合出版社なので、自由度が高いだろうと考えた。

③光文社に馴染みがあった
 大学時代、光文社の「Yomeba!」(旧・web光文社文庫)というサイトにショートショートを応募していた。大学2年生のときに採用されたのが最初で、作品に丁寧なアドバイスをいただいた。そのため、光文社を特別意識するようになった。

 「本好き」であれば、推しの出版社があるだろう。その「推し」のどこに惹かれるかを考えることが志望理由や企業研究に繋がると思う。

6 現在の所感

 最初にwebエントリーし、最初に説明会を受けたのが光文社だった。その光文社から内定をいただくことができたので、就職活動は成功したと思う。
 
 ただ、最終面接は手応えがなく、運良く引っかかったという思いは拭えない。すでに諦め、他社の筆記試験通過を喜んでいたときに内定の電話をいただいた。
 
 改めて「なぜ出版社だったのか」と問われると、答えに困る。言葉に表すと、「なんとなく」になる。

 ただ、他業種での面接では「弊社が第一志望か」と問われ、「出版に行きたい」と咄嗟に答えてしまった(絶対に真似しないでください)。

 周囲に「将来について決まっていない」と言いつつ、すでに希望があったのだ。

 「本が好き」だけで全然構わない。面接時に「もっと本について詳しいと思った」との言葉を面接官に掛けられ、落ち込んでいた志望者を見た。私の場合、そう言われたことはなかった。
 「好き」を一点突き詰める。それも武器なのだと思った。

 「やってみたい」「好き」のノリも就活では大切だ。
 
 
そのノリを忘れずに就活に挑んで良いと思う。


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