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不思議な帽子が、人びとの人生を変えていく ~アントワーヌ・ローラン『ミッテランの帽子』

 パリのブラッスリーで、ある日ミッテラン大統領が、黒いフェルト帽を置き忘れた。隣のテーブルにいた男が、その帽子をかぶって帰る。うだつの上がらない会計士だった男の心に、その日から小さな変化が。
「帽子は帽子をかぶる人にそれをかぶらない人以上の威厳を与える」と彼は思う。そして――。

アントワーヌ・ローラン『ミッテランの帽子』(吉田洋之・訳 新潮社)

 大統領の帽子は、必然のように次々と持ち主をかえていき、手にした人の人生に素敵な変化をもたらしていきます。軽やかで、洒脱で、気持ちよく読める物語でした。

 パリから始まり、フランスの街を巡り、ヴェネチアまで。
 帽子の移動にともなって、背景の景色も変わっていき、それもまた楽しめました。なんとなく旅した気分を味わえるというか。
 舞台は1980年代なので、スマートフォンは出てきません。だからこそといえる静謐な時間が、随所で物語に深みを与えているように思えました。たとえば、妻のある男に恋をした女が、ひとりで待ち合わせ場所に向かうまでの心理など。その彼女も、ミッテランの帽子を拾って、自分の中の勇気に気づいていきます。
 はたして帽子は、大統領の手に戻るのか。締めくくりのオチもいい感じでした。

 映画化されたら観たいなあ、と思える小説です。

◇見出しの写真は、みんなのフォトギャラリーから、
point2vue410さんの作品を使わせていただきました。
ありがとうございます。

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