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自分ひとりの人生では得られなかった貴重な発見 ~レイモンド・カーヴァー『大聖堂』

 ひさしぶりに、ハッとさせられる短篇集に出合いました。村上春樹 翻訳ライブラリーのレイモンド・カーヴァー『大聖堂』(中央公論新社)です。

 翻訳が素晴らしいのはもちろんですが、たぶん元々の英文も簡潔ですごく素敵なのだろうなと想像させられる、切れ味のいい文体でした。ドライな日常風景を描いている場面でも、どこかスリリングで先へ先へと読み進んでしまいます。

 作品によって味わいが異なっているので、どれが好きかは人それぞれでしょう。私は表題作の「大聖堂」と、ほかに「ささやかだけれど、役にたつこと」「熱」が好きでした。
 特に「大聖堂」「ささやかだけれど、役にたつこと」は秀逸。
 どちらも最後に、私自身の人生では得られなかったかもしれない真理が提示され、冒頭で書いたとおりハッとさせられて、貴重な発見となりました。「熱」にもそうした部分はあるのですが、瞬間的に刺さってくるというよりも、プロセス全体でじわじわ伝わってくる感じ。これはこれで「そうだよね…」と共感できました。

 心から「読んで良かった」と思える作品に出合えるのは、幸せであり恵みです。

 世界と時間の広がりのなかで、自分ひとりの人生で経験できることは限られているけれど、だからこそ、このような発見を与えてくれる小説を読みたくなります。視野を広げ、感覚を磨き、思慮を深める、そういう機会やヒントを与えてくれるから。

 加えて、本書の場合は巻末の訳者による解題が読みごたえたっぷり。本編と二度楽しめるような短篇集です。


◇見出しの写真は、みんなのフォトギャラリーから
kuwagatg_bassさんの作品を使わせていただきました。
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