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バニラ!バニラ!バニラ!感動のバニラ体験。名バイプレイヤーが、主演の舞台で華麗に舞う!


新作のバニーユ


シェフの進藤です。
上記の写真は当店人気商品〈バニーユ〉。
期間限定商品です。 
 味の構成は基本的にバニラのみ!潔し。

まずは、ケーキの説明の前に、今日の主役である〈バニラ〉について少し説明を。製菓材料には〈バニラビーンズ〉と呼ばれる天然バニラと、〈バニラエッセンス〉〈バニラオイル〉と呼ばれる人工的なバニラがあります。なので、「バニラの香り」と言っても話は少々複雑で。昔から製菓の世界で使用される〈バニラエッセンス〉や〈バニラオイル〉といった人口的に作られた香りは、似せて作った物とはいえ、本物の〈バニラビーンズ〉の香りとは〈全くと言って差し支えない程違います〉。ですが、面白い事に両方共〈バニラ〉と認識されています。
製菓学校の教員時代、担当していた《製菓理論》の授業の中で、学生達にこの両者の香りを交互に嗅がせると、一様に「別物です」との感想が上がりました。で、普段慣れ親しんでいるバニラの香りはどっち?と質問すると、ほぼ100%〈バニラエッセンス〉や〈バニラオイル〉の人工的な香料の方を指します。天然物より人工的な物を、ある意味〈本物〉と感じる訳です。食育的にはとても残念な話ですが、本物の〈バニラビーンズ〉が製菓材料の中でも〈とりわけ高価〉で、原価やその他の問題からそれを大量生産菓子に使う事が不可能な為、安価な〈バニラエッセンス〉や〈バニラオイル〉が多用されるのは仕方がない気もします。
その甘く香る〈バニラ〉は、洋菓子作りには欠かせない〈スパイス(香辛料)〉の1つです。ちょっと不思議な感じもしますが、カテゴリーは〈スパイス〉なんです。本物の香りを知れば納得して頂けるのですが、本物のバニラの芳香は〈バニリン〉と呼ばれる香気成分を主とする複雑で甘い香りです。確かにスパイシー。昔、私がまだパティシエとして駆け出しの頃、最初のお店で使っていた〈本物バニラ=バニラビーンズ〉はマダガスカル産の〈ブルボンバニラ〉と呼ばれる品種でした。その後ホテルに転職して間もない頃、また別の品種の〈バニラビーンズ〉が市場に出回るようになります。世界中の一流料理人や一流パティシエが揃って絶賛した、タヒチやパプアニューギニア産の〈タヒチバニラ〉です。元々〈ブルボンバニラ〉に慣れていた私にとって、〈タヒチバニラ〉の香りは衝撃的でした。特徴として、香りの強さもさることながら、ブルボンバニラには無いフローラルな芳香の中に、微かに〈お香〉の様なアロマも混ざっていて。複雑ですがとても魅力的な香り。世界のバニラの1割にも満たない流通量なので、ビックリする程高価なのもその特徴の一つです(笑)。当店では、〈私のこだわり〉の1つとして、その〈タヒチバニラ〉をメインに使用しています。
この様に、一口に〈バニラ〉と言っても〈ブルボンバニラ〉〈タヒチバニラ〉〈エッセンス〉に〈オイル〉、そして当店では自家製〈バニラシュガー〉なる物(使用済みの“バニラのさや”を洗浄・乾燥・消毒・粉砕し、粉糖と1:1で混ぜ合わせたもの)も使用し、更に最近では、バニラビーンズをリキッド化した使い勝手のよい〈バニラペースト〉なんてのもあったりして…。
なので、現代のパティシエは、多種多様なバニラ系製菓材料1つ1つの特徴をしっかりと理解し(“焼き”にはオイル、“生”にはエッセンス等)、自分のケーキに纏わせたい〈香りのイメージ〉に合わせ、〈種類・量・単体・複合〉等を考えながら使い分けているんです。〈複雑で大変だけど、そこが面白い〉といった所でしょうか?(笑)。

バニラ系の製菓材料いろいろ

ようやく本題に。
バニラを主役にした〈こんなケーキを作りたい!〉と思い立ってから、かれこれ10年以上。いや~、遂に完成! 長年かけてようやく辿り着いただけあって、自画自賛。
とっても美味しいケーキができました! 大いに期待して頂いて大丈夫だと思います。
いつも新作を作る時の目標は〈長く愛されるロングセラー商品を!〉なので、とりあえずは期間限定で販売してお客様の反応を伺い、反響が大きければ通年販売のラインナップに加える。毎回そういう流れを期待していますが、結果、そうなるのはほんのひと握りで…。しかし、今回のこのケーキ。私的には、メジャーリーグでいうところのNo.1プロスペクト(将来有望な大型新人)。密かに、しかしながら大いに期待しているので、皆様どうぞ宜しくお願い致します(笑)。繰り返しになりますが、このケーキの販売予定期間は6・7月中です(→その後、9月現在、レギュラー商品に昇格しました!)。

まずはネーミング。
〈バニラ〉は英語。フランス語では〈バニーユ〉。なので「なんだよ。何の捻りもないネーミングじゃん」と思われるかと(笑)。ですが、時には考えに考えた挙げ句、結局振り出しに戻る事ってありませんか?  このケーキはまさにそれ。色々な名前の候補を考えてはいましたが、最終試作品(完成形)を食べた瞬間、その余りの美味しさに〈格好を付けたごちゃごちゃしたネーミング達〉が一気に吹き飛び、「これ、単純明快に〈バニーユ〉で良くない?」となりました(笑)。

実はこのケーキ。〈超有名店の、とあるケーキ〉を食べ、その時の〈大きな感動〉と〈少しの嫉妬〉から開発に取り掛かったものなんです。ですが、決して〈完コピ〉を目指した商品ではございませんので。
こういった〈リスペクト商品〉について、例えるなら〈オペラ〉。〈オペラ〉とは、言わずと知れたフランス〈DALLOYAUダロワイヨ〉のオリジナルケーキ。ですが、昨今では世界中のパティシエが、そのオリジナルをリスペクトしつつ、自分なりのアレンジを加えて販売しています。それと同じ。そう、その〈オペラ〉の様に、この〈バニーユ〉を作る動機になったその《オリジナル》が、発想・味わい共に名作なんです。

今から15年ほど前、私がまだ製菓専門学校で教師をしていた頃、以前フランスで一緒に働いた友人が東京に遊びに来ました。そして、当然の流れですが「東京の有名ケーキショップ巡りをしたいので、お勧めのお店を案内して欲しい」との依頼が。彼に余り時間が無い事もあって、考え、地理的にも近くて素晴らしい3店『オーボンビュータン』『モンサンクレール』『パリセヴェイユ』を提案。まず最初の2店『オーボンビュータン』『モンサンクレール』では、店内を案内しながら、そのお店のオーナーパティシエの事やそこを代表するケーキの説明をしたり。どちらも昔から憧れている名店です。昔読んだ雑誌やテレビ等で知ったトリビア(うんちく)を、少しくらいは披露したくもなります(笑)。
そして、3店目の『パリセヴェイユ』。そこでは〈歩き疲れたので、ちょっと座ってお茶でもしよう!〉となり、せっかくなので自分も「何か食べよう」とショーケースを眺めていると、以前から私のお気に入りケーキ〈ムッシュ アルノー〉の隣のとなりに、それまで見たことのないシンプルでスタイリッシュなケーキを発見。ちょっと気になったので、店員に訊ねると「バニラを全面に押し出したケーキ」との事。

その名も〈ガトーバニーユ〉

バニラは〈バニラアイスクリーム〉の時のみ主役になりますが、2層3層の複雑なケーキを作る時は大抵〈名脇役〉。そんなバイプレイヤーを〈ケーキの主役に抜擢する?〉と、その事に興味が湧いたのと同時に〈その配役はかなり難しい。気になるから一応食べてみるけど…〉な気持ちでチョイスしました。友人も気になったようで同じものを選んでいて。
いざ、実食!  一口食べて固まりました。

「めちゃくちゃ美味しい!」

想像を遥かに越えてきた、そのケーキの美味しさにビックリしちゃって。1つのケーキの中に、いろんな食感、いろんな味わいがあるんですが、全て綺麗に〈バニラ〉でまとめられているんです。今まで有りそうで無かったケーキ。確かに主役は〈バニラ〉。言うなれば、主役に大抜擢された〈バニラ〉が、その舞台上で堂々と歌い踊っている感覚。そして〈拍手喝采〉が見えるようで。その時、隣で同じケーキを食べた友人が「やっぱ東京、レベルたけぇー!」と唸っていたのが印象的で。いやいや、レベルが高いのは東京ではなく〈シェフパティシエの金子さん〉なんだけど…って心の中でツッコミました(笑)。

勿論、今までもそういった経験は幾度もあり、当店の〈ラ フォレ〉はパリの〈ル ストゥブリのフォレ ノワール〉の感動をアウトプットしたケーキですし、〈メルヴェイユ〉は、別の友人がコンクールの決勝用に作っていたケーキを試食した時の、〈その忘れられない素晴らしい味わい〉を自分なりに表現したものであったり。
その〈ガトーバニーユ〉も同様に、その時に受けた〈感動〉と同業者としての〈悔しさ・嫉妬〉を原動力に、自分のフィルターを通して形にしたくなりました。
一応昔から、他店のケーキを食べる時には〈マイルール〉を設けていて①〈味のイメージだけを頭にインプットする〉②〈メモはとらない〉③〈写真もNG〉に。何故かと言うと、余りにしっかりと形に残してしまうと、自然と〈形・構成・ヴィジュアル〉を〈真似〉してしまうから。既に感動させられたケーキなので、それを頭が〈ベスト〉だと思ってしまうので。
なのでいつも、一番最初の試作品は〈確かこんな感じだったよね~〉を形にしてみるんです。そして、試作第1号完成→全然ダメ、一体感がない。ボトムのダマンドが重すぎる。上のバニラのムースが軽すぎ。底のクッキーは本当に必要か否か。本家のようにホワイトチョコガナッシュを合わせてみる、違う気がする→じゃ、どうする?→また配合や構成を変えて試作。試作も回数を重ねると飽きてくるので、日を改めてまた試作。
そんな試行錯誤を定期的に繰り返し、結果、気付けば10年以上。
そして、ようやく→ダマンド?フランジパンヌ?でも自家配合のフワフワ〈アーモンドバニラスポンジ〉の方がしっくり。本家はもっとシャンティ感が強かった気がするが、そこは進藤必殺〈バニラのババロワ〉で。底面のクッキーはやはり食感的に必要不可欠との考えに至り、新たに開発した特製バニラクッキーをホワイトチョコレートで接着して…etc。
結果、最終的な構成は下から、ホワイトチョコで接着したサクサクのバニラクッキー、極厚アーモンドバニラスポンジ、バニラのババロワ、サイドにホワイトチョコ、上面にナパージュ+金箔となりました。

今回のこのケーキの様に〈複雑な構成で、“シンプル”な味を表現する〉。こういったレシピの作成はとても難しいと実感しました。食感・味わい・構成、全てのバランスを取るのが本当に大変で。勿論作る事に関しても、クッキー、スポンジ、ババロワ。全てにおいて難しい配合を組んだので、どの部分も気を抜けない…。結果〈自分自身としては〉ですが、負けず劣らずの美味しいケーキに仕上がったと自負しております。
このケーキを召し上がった皆さんが、どのような印象を抱くのか、大変興味があります。主役の座を勝ち取った〈バニラ〉が、その舞台上で堂々と歌い踊っているでしょうか?
販売期間内に是非ともご賞味頂ければと思います。宜しくお願い致します。
勿論、このケーキも〈違いの分かる大人向き〉。

では、いつも通り〈論より証拠〉。
ご来店をお待ちしております。

追伸。
私が製菓専門学校の教員だった頃、2年生を対象とした『パリセヴェイユ』オーナー・シェフパティシエ〈金子美明氏〉の特別授業があり、当時私は外部講師の担当だった為、事前のやり取り、そして授業の助手につかせて頂きました。確か当日は、コンベクションオーブンを使った〈フルーツパウンドケーキ〉制作、そして併せて、学生への指導もお願いしました。落ち着いた口調での授業運び、デモンストレーションの手際のよさ、指導の的確さは素晴らしく、そして休憩時には、気さくに〈イデミスギノ〉氏の店舗ロゴに関する裏話等をお聞かせ頂いたりして、その日は、教員でありながら学生以上に勉強になり、記憶に残る1日になりました。
知っている方もたくさんいらっしゃるかと思いますが、その金子氏のパティスリー『パリセヴェイユ』の最寄り駅は自由ヶ丘。駅からそれ程離れていない場所にあります。元々行列店ですが、〈情熱大陸〉の放送後は更にお客様が増えたと聞いています(笑)。もし、まだ行った事が無いという方は、その辺りにお出かけの際は是非とも。私は、パティシエの友人をそこに案内するくらい〈わざわざ遠くからでも行く価値のあるお店〉だと思っています。


『note創作大賞2023』エッセイ部門にエントリーしている、上記の投稿【憧れのフランス。そこから見た~】。お陰様で現在約900名を越える方に読んで頂いております。ありがとうございます。中々上手に書けていると思います(笑)。もし、まだの方がいれば是非。既にお読みになった方は、更にもう1度(笑)。私がフランスで体験した色んな出来事を、1万字の中に詰め込みました。読んで面白ければ〈スキ〉〈フォロー〉を頂けると幸甚です。宜しくお願い致します。


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