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私の〈理想のモンブラン〉は、マロンが優しく香る“軽くてなめらかフワフワ”モンブラン。甘さは控えめ。中にも飾りにも“栗1粒”は要りません(笑)。


進藤洋菓子店のモンブラン

シェフの進藤です。
今回のケーキは、皆が大好きな〈モンブラン〉。
〈好きなケーキランキング〉では、いつもショートケーキやシュークリームと肩を並べて、常に上位に入る人気者です。
それは当店でも変わらずで。

期間限定で販売している為に年間販売個数では〈しんどうロール〉〈いちごのパフェ〉には敵いませんが、もし1年を通して販売したとすれば、もしかしたら1位に躍り出るかも?というくらいよく売れるケーキ。あ、最初に書いておきますが、以前から「通年販売して欲しい」とのご要望が多いこの商品。申し訳ありません。当店を始めた時からの決め事として《“よく売れるから”という理由だけで、ダラダラと一年中売る事はしない》方針に変わりありません。
なぜなら、当店には〈四季を通じ、その季節毎に移り変わっていく美味しさを楽しんで欲しい〉という思いがあります。
なので〈季節限定商品・期間限定商品〉を数多く取り揃えるようにしているんです。
「よく売れるなら一年中売って!」の声も分かりますが、〈その時にしか食べられない〉という価値感もご理解頂けると幸甚です。なので、今年の〈モンブラン〉も、やはり変わらず〈期間限定〉という事で。

その〈モンブラン〉。
名前の由来は、フランスとイタリアの国境にそびえる、ヨーロッパアルプスの最高峰 、標高4807.81 mの山〈モンブラン〉から。
ちなみにMont Blanc〈モンブラン〉はフランス語です。フランス語に忠実に発音すれば〈モンブロン〉。そう言えばフランス人に通じます。
イタリアからもアプローチできる山なので、イタリアではMonte Blanco〈モンテビアンコ〉と呼ばれています。

双方とも意味は〈白い山〉

もう23年も前の懐かしい記憶ですが、フランス・アヌシーの語学学校に通っていた頃、その学校が主催するレクレーションに参加し、フランス側からモンブランを望める〈シャモニー 〉に行きました。
バスに揺られて数時間の小旅行。その日は運良く晴れ渡り、更に空気が澄んでいたので、遠くまでとっても綺麗に見える日で。
〈シャモニー 〉に到着してバスを降り、周りを見渡してみてビックリ。まだ町の入り口にも関わらず、最初っから眼前に巨大な山々がそびえ立っていました。絶対に日本では見ることができない、外国映画の中に迷い混んでしまったかの様なその景色に、一瞬で圧倒されてしまって。

出典:www.france.fr © Atout France 
シャモニー市街の様子

その〈シャモニー〉の一つめの見所は、ロープウェイをいくつか乗り継いで辿り着くエギュイユ・デュ・ミディ(Aiguille du Midi)展望台。そこでは、壮大なる〈モンブラン〉が目の前に。

その光景は、まさに神々の世界

大迫力、そして圧巻でした。
その名の通り、モンブランを含め、連なる山々は雪化粧で真っ白=白い山。
これぞ〈脳裏に焼き付いて離れない景色〉と言うヤツかと。その景色は私に〈こういった物を見る為に、わざわざ日本を離れて外国に来たんだよね!〉と語りかけている様でした。

もし気になった方がいれば、街の様子やシャモニーの観光について、以下に貼り付けたリンクをご覧頂ければと思います。

〈モンブラン〉からは少し話がズレますが、そのシャモニーツアーにはもう一つの見所があり、それは

〈メール ドゥ グラス〉氷河

直訳すれば〈氷の海〉。いわゆる〈万年氷でできた氷の洞窟〉の中に入り、内側からそれを鑑賞出来るというもの。

青く澄んだ氷のトンネル

〈巨大な天然氷のトンネルに入る〉なんて経験は、生涯もう二度とないでしょう(笑)。そこに辿り着くまでに、トロッコやとてつもなく長い階段やら色々大変なのですが、一見の価値は大いにありました。
ネットで見ると、近年は温暖化による影響から難しい問題に直面している様ですが、もしフランスに滞在する事があれば、ぜひとも訪れてみてほしい観光スポットの1つです。
あ、その際は一つアドバイスを。夏の暑い時期に行ったとしても、山に入れば急激に気温が下がり、もちろん〈メール ドゥ グラス〉内は氷点下です。コート、手袋必須(笑)。この場所について、詳しくは以下のリンクをご覧下さい。写真だとしても、〈メール ドゥ グラス〉氷河は必見です。

何故モンブラン観光の話?
別に深い意味はありません(笑)。
本物〈モンブラン〉を直に見れば〈そのご利益でモンブラン作りに開眼する〉なんて事もありませんし…。
ですが1つだけ。
あまりに〈モンブラン=白い山〉が強烈に脳裏に焼き付いているので、以前は忘れがちだった
“〈モンブラン〉を作る際の最後の仕上である雪化粧→〈粉糖〉をかける作業”
それを忘れる事は無くなりました(笑)。
今ではあのモンブランとこのモンブランが、私の頭の中でちゃんとリンクしているのです(笑)。

すみません。モンブラン(山)の話はここまでにして、話をケーキの〈モンブラン〉に戻します(笑)。

調べてみると、ケーキとしての〈モンブラン〉は、その昔(フランス側ではなく)アルプス山脈のイタリア側、その裾野にあるイタリア・ピエモンテ州で作られたケーキが起源との事。ケーキを作る際、そこの名産である〈栗〉が使われた事が、現在のモンブランの始まりのようです。

フランスでは、パリ〈アンジェリーナ〉の〈モンブラン〉がオリジン。サクサクのメレンゲ土台に無糖のクレムシャンティーをモリモリと絞り、その上をたっぷりのマロンクリームで覆う、といった構成。
現在の日本でも、この構成を真似ているモンブランをたくさん見かけますね。
ちなみに〈アンジェリーナ〉とは、パリにて1903年創業のとっても素敵なサロン ドゥ テ(喫茶)。パリに住んでいた頃、友人がパリの観光に来る度に何度もそこへ案内し、お茶しました(笑)。

もしまだ〈アンジェリーナのモンブラン〉を食べた事がない方は、百聞は一見に如かず。日本にも支店がありますので是非とも味わってみて下さい。濃厚で香り高く、とっても美味しいです。私は大好き!
ちょっと甘過ぎる?との意見もありますが、甘党なら大丈夫。フランス パリの本店では、その甘さも相まって1人で食べきれない程BIGなモンブランを提供(笑)。
安心して下さい!流石に日本では、日本人向けに小さな〈モンブラン〉が販売されていますので(笑)。

そろそろ当店の〈モンブラン〉の説明を。

当店の〈モンブラン〉は、普通のモンブランではありません!

当店にしかない、オリジナルのモンブラン。原形は一番最初の修業先、心斎橋〈パットオブライエン〉で作っていた物です。

パットオブライエン(現在閉店)のケーキ達。
モンブランは何処でしょう?

私はこれまで様々なモンブランを食べ、また、働いた各店でも色々なモンブランを作り、今に至ります。

その中で一番の好みは?

と聞かれれば、即答で以前に働いていた〈パットオブライエン〉の物と答えます。
しっかり焼かれたサクサクメレンゲの土台に、フワフワのマロンクリーム、それを無糖の生クリームで覆ってから、その上に〈クレム シャンティー オ マロン〉を絞る。その構成が大好きでした。
後々先輩から聞いて分かったのですが、そのパットオブライエンのモンブランは、東京 等々力の名店〈オーボンヴュータン〉河田シェフの本から、レシピを踏襲して作られていたとの事。

引用:柴田書店MOOK ケーキングvol.3 オーボンヴュータンの〈モンブラン〉photo.越田悟全

そのパクり疑惑に、“完全なオリジナル”だと思い込んでいた私は当時のシェフにすこぶるがっかりしましたが、その反面、その〈素晴らしい美味しさの理由〉が分かった気もして、とっても複雑な気分になったのを覚えています。
で、そのモンブランの印象をそのままに、その良さを生かしつつオリジナルのモンブランを作る!と心に決め、何度も試作を重ね、ようやく完成したのが今日ご紹介する当店の〈モンブラン〉。

ちなみに、当店のケーキは全て、私がこれまでにパリ・東京・大阪で培ってきたフランス菓子の知識や技術を使い、《日本人の口に合う様にアレンジした洋菓子》です。当店の評価サイトに

「あんなのはフランス菓子ではない」

と書いた方がいらっしゃいますが、その通り(笑)。以前はフランスで働き、フランス人に喜んで貰える〈本物のフランス菓子〉を追求した時期もありましたが、今は違います。
そう、今は

日本人に「美味しい」と言って貰いたい

ですので、試行錯誤・紆余曲折、色々ありましたが、結果当店のモンブランの土台はメレンゲではなく、タルトやパイでもなく、進藤洋菓子店特製〈フワッフワしっとり米粉のスポンジケーキ〉に決定!
〈メレンゲ〉の食感は大好きなのですが、やはり甘すぎて、全体の甘味のバランスを崩すのでNGに。更にメレンゲを使うと、その乾燥させたメレンゲの湿気りを気にする余り、賞味期限を購入後〈1~2時間〉と設定せざるを得ず。その事を毎回お客様に説明する作業が、販売員の過度な負担にもなってしまいます。
それらの理由により、メレンゲを選択肢から外して考えた結果、やはり日本人には〈フワフワしっとりなスポンジケーキ〉が一番しっくりくると結論付けました。

なので、当店の〈モンブラン〉の構成は、その柔らかフワフワスポンジケーキを2枚重ねた上に、ラム香るオリジナルふわふわマロンクリームを乗せ、超ミルキーな濃いめの無糖純生クリームでそれを覆ってから、全体にクレム シャンティー オ マロン(マロン生クリーム)をまとわせています。
モンブラン=白い山なので、粉糖の雪化粧も忘れずに。
最近は作業性を優先し、表面に固めのマロンペーストを絞るのが一般的ですが、これはこれで甘くなり過ぎる要因となる為NGに。
私は、モンブランには〈クレム シャンティー オ マロン(マロン生クリーム)〉が絶対に美味しいと思っていて。マロンが優しく香り、なめらか。その部分はオーボンヴュータンの構成を踏襲。
〈クレム シャンティー オ マロン〉とはマロンクリームと純生クリームを1:1で混ぜ、それを泡立てた軽いクリームで、口に入れると“栗と乳の香り”を残してスーッと消えていく感じがたまりません。
更に、このクリームの扱いづらさが私の職人魂をくすぐります。生クリームにはボソる(分離)という性質があり、泡立て器による衝撃、口金を通る時の圧力、更には絞り袋を持つ手の熱によっても分離が進む事から、経験値を基に絞り袋に入れるクリーム濃度を事前に整え、更に手早く綺麗に絞らなければなりません。

絞るのは一発勝負

やり直しや手直しは不可能。なので、毎日その作業はピリつきます。職人にしか分からない、楽しい緊張感(笑)。
以前は本物のラム酒をたっぷり使っていましたが、当店のお客様はアルコールの使用を嫌う方が多い為、今はラム酒の香料にレシピ変更しました。よって、アルコールは不使用です。
当店のモンブランを『世界一美味しい!』と仰ってくれる方もいますが、それはまぁ言い過ぎとしても、私のかなりの自信作ではあります。あ、1ついい忘れが。〈私のこだわりの大きな柱〉の1つが

《味わいのバランス、甘味のバランスをしっかりと考えたケーキ作り》

でして。そのこだわりから、私のモンブランには飾りにも中にも〈栗1粒〉は入っていません。あの糖分の塊(甘く煮た栗)を1粒丸々入れてしまうと、せっかく綿密に計算した味のバランスが必ず〈甘い〉に傾いてしまいます。何故わざわざこんな説明をするかと言うと、ご年配の方に多いのですが〈栗が1粒入っていないと、これはモンブランと言わない〉と仰る方が結構いらっしゃって(笑)。なので〈後からガッカリする〉というミスマッチを防ぐ意味でも、ちゃんと事前にお伝えしておきます。

〈栗1粒は入っていません〉

あと、出来るだけ〈作りたて〉をお届けしたいので、1度に大量に作る事は致しません。が、今年もたくさんのお客様に召し上がって頂く為に、無くなれば追加追加で対応します。頑張ります!
いつも書くのですが〈どうしても欲しい〉という方は、前日までに〈ご予約〉を。複数個から受付可(1ケだけは✕)。
当日ショーケースに入っていれば〈お取り置き〉という選択肢もあります。
※当日予約は出来ません

今日の〈モンブラン〉も【違いの分かる大人】に向けて作ったケーキになりますので、ご了承下さい。
では、いつも通り〈論より証拠〉。
ご来店をお待ちしております。

よければ〈スキ〉〈フォロー〉を宜しくお願い致します。次を書く励みになりますので(笑)。

番外編として、1つマニアックな豆知識を。
私達が普段から聞き慣れている〈マロン〉。フランス語で〈栗〉を表す言葉です。私達日本のパティシエも〈マロン=栗〉だと思っております。
でも、実はフランス語にはもう1つ〈栗〉を表す〈シャテーニュ〉という単語があるのをご存知ですか? 
私もフランスに行くまで知りませんでした。
そこで詳しく調べると、植物〈マロニエ(セイヨウ栃の木)〉からできるマロン(セイヨウ栃の木の実)〉は、じつは、若い実は有毒で成熟しても苦くてマズイ為、食用ではないんです。
一方、植物〈シャテニエ(ヨーロッパ栗の木)〉からできるシャテーニュ(ヨーロッパ栗の実)〉は、食用でとっても美味。

なので結論としては、日本で〈マロン〉と呼んで食べている物は〈マロン(セイヨウ栃の木の実)〉ではなく、全て〈シャテーニュ(ヨーロッパ栗の実)〉なんです。

ですが、更にこの〈マロン・シャテーニュ〉問題をややこしくしているのが、
〈シャテニエ〉から取れた食用の〈シャテーニュ〉の中で、殻に1粒しか入っていない大振りな栗を〈マロン〉と呼び〈マロングラッセ〉の材料としていて、殻に2~3粒の小振りな栗を〈シャテーニュ〉と呼んでいるとの事。
つまり収穫された〈シャテーニュ〉を、その大きさによって①大きい物を〈マロン〉②小さい物を〈シャテーニュ〉と呼び分けているんです。
お分かり頂けましたか?
あーややこし。

パリの〈シュクレ カカオ〉に勤めている頃、シェフのベルティエ氏が私にこの〈マロン・シャテーニュ〉問題を一生懸命私に説明してくれたのですが、全く理解できずで…。「フランス語は理解できてるんだけどなぁ」って思って、ずっとモヤモヤしていて。
日本に帰国して、調べて、本当にスッキリしました!
以上になります。

以下は〈モンブラン〉と一緒に、今の時期限定で絶賛販売中の新作〈バスクチーズケーキAMF〉と、最近のイチオシ〈バニーユ〉です。こちらも宜しくお願い致します。


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