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短編小説

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#日記

5月5日

 祝日あるいは日曜日は嫌いだ。彼にあえないからだ。
けれど、メールを打つ。
『あいたいよ』
 もちろん、返事はこない。めんどくせーな。そんな顔をし、舌打ちでも鳴らしているだろう、彼のことがみなくてもわかる。
『仕事で、うちでたからどう?』
 電車に乗っていた。けれど、まだ発車前で寸前で飛び降りた。
 ヘルスのバイトに行くところだった。
 ホームに立ち上がり、階段を猛ダッシュであがり、改札口にある案

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ミシン

ミシン

「うそだろ?!」
 料理もできず、片付けもできず、愛想もうまくできず、なにもかもうまくいかない絶望的人種なわたしにもひとつだけ特技がある。その特技を吐露すると
「うそだろ?! 想像もできないし」
 だれしもがそう信じられないとばかりな口調でそういう。
「ほんとうだよ。これ、このバックわたしがつくったんだ」
 どこにでもありそうでなさそうなトートバックをみせながらどうだというようにみせる。どれどれ。

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Warmth 

 雨が降っている。車のなかにいるけれど、雨はどうしたって憂鬱と頭痛を連れてこなくてもいいのに連れてくる。
 約束の時間になってもこない。メールも送信できない。電話も電源がはいっていないか電波のどとかないところにいてかかりませんと機械的にいわれて閉口をする。
 どうしよう。
 雨がフロントガラスをこれでもかと叩くように打ちつけてくる。
 途方に暮れるしかなかった。
 なおちゃんは来なかった。
 『ホ

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青い鳥

青い鳥

「俺の一番好きな生き物ってさ、ほんとうは犬じゃなくて野鳥なんだよね」
 昼ごはんをいっしょに食べよう。と誘われてあわてて支度をし(起きたのが10時半を過ぎていたし、誘いの電話があったのが11時ちょっと過ぎだった)支度といっても軽くお粉をはたき、眉毛の足りない部分を描くだけなのだけれど。
 それでもなにを着ていこうかということだけは迷い迷ったあげく、細身のスキニーのジーンズに茶色の毛玉のないセーター

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アイコス

アイコス

『ハッピーバースデー』
 修一さんが誕生日だったのでメールでそれだけ送り、プレゼントも買ってあったけれどそれは送らず、あっけなく12日が終わってしまった。

「50歳だし。俺。まずいな」
 昨日たまたまあったので誕生日おめでとうイブということでそういうと、まずいし、なんか実感がないよといいながら苦笑をした。
「あのさ、」
 ベッドの中にいた。きょうは元気がない。ということでただベッドの上で裸で並ん

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雪だるま

雪だるま

 さむい。すごくさむい。
 わたしはさむいさむいといいながら直人の足に冷たい足をくっつける。わっ、冷たいっ。とても大げさに叫び、そんなにぃ? とわたしはクスクスと笑う。寝入り端。
 明け方。薄っすらと空が白み始めてきたころ、直人カーテンをあけ、ほら、みてみ。といいまだはっきり目があいていなくそして夢うつつのわたしに声をかける。ゆさゆさと肩を揺らして。
「わっ、」
 おどろいて、振り返り直人の顔をみ

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どうしたの?

どうしたの?

 いつもならもうすでに泥酔しソファーでうなだれているか、はたまた布団のうえで裸になってよだれを垂らし眠っているかのどちらかのはずなのに、なぜか、このひの夜にかぎって直人はうちにいなかった。
『いまからいきます』
 急にいくと部屋がきたないからだめといわれていたので事前にメールをしておいた。返信はやっぱりなくて、ああ絶対に泥酔だと決めつけて直人のうちにいくと車がなく、あれでも玄関の電気はついてるしな

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糸

『はい。お待たせいたしました。やまぐち皮膚科です』
 電話をうけた受け付けの女性の声はひどくあせっているように感じたのはやはりあせっていたわけでどうしてそれがわかったかといえば、ちょっと待ってくださいね。と告げてから待つこと8分。眠たくなるようなオルゴール音がやみ
『お、あ、お待たせしてすみません』
 えっと、という声がし、もうなんでこんなに忙しいのくらいの声であやまりの言葉を告げたからだ。
『明

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飢餓

飢餓

「きたよ」
 夕方6時ちょっと過ぎ。車の中で本日最後の取り組みを観たあと(直人のうちに上がる前に制限時間いっぱいになり車内で観ていた)ガチャと玄関のドアをあけ音を立てずにそっと中に入る。まずテーブルをみてから布団をみやる。そして台所。
 キョロキョロと2度だけ目をまわすと直人がテーブルの下で鉄砲で撃たれたクマのように横たわっていた。
 電気は『団らんモード』の設定になっており、暖房はさほど寒くもな

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相撲

相撲

 おふくろが入院したんだ。あうなり修一さんが肩をがくりと落としそう口にした。俺があのとき病院に連れていっていれば。なんでもっと早く気がつかなかったんだろう。ひどく自分を責めていたので、それは違うよ。と切り出し、弟さんいつも側にいたのにね。そうそう。弟さんだって気がつかなかったんだから。という全くもって慰めになっていないことを口走ってしまった。
 修一さんは長男だけれど上にお姉さんがいて下に弟がいる

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箱ヘル

箱ヘル

「あけましておめでとうございます〜」
 フロントのおじさんと目があいいつもは、おはようございますというけれど新年そうそうだったので新年の挨拶をするも
「あ、おめでとうっていうか部屋2番で。お客さん待ってるから」
 焦った声でせわしなくいわれ、あ、はいといいすぐに部屋に入る。
 去年は2日から営業をしていたけれど今年は4日からだった。お正月。暇。パチンコ。風俗。長期休みになると風俗は忙しくなる。それ

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いぬと一緒に

いぬと一緒に

 あけましておめでとう。三ヶ日を過ぎ仕事始めのころ修一さんからメールが毎年届く。仕事始めのころというところが重要で三ヶ日はよき夫。よきお父さんを演じているのだから仕方がない。話しを聞くかぎりは『よき』なのだろう。
「年末にさ、家族で犬と一緒に泊まれる宿にいってきたんだ」
 久しぶりにあったのだった。たしか10日ぶりくらい。あうとあってない間に起きた出来事を話す習慣になっているのだけれどわたしはまる

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ふたりだけの夜に

ふたりだけの夜に

 おじゃましまーす。なのか、ただいまー。なのかいつも部屋にはいるたびに考えてしまいそうこうしているうちに玄関でサボを脱ぎきちんとそろえついでに直人の安全靴もそろえて無言のままリビングに上がりこむ。ソファーにはいなくテーブルに座っているのでもなく直人は万年床のぺちゃんこの布団の上でまるで子どものように丸まって眠っていた。ゴルフウエアのままだったから、ああまたゴルフだったんだなとおもいつつ直人から視線

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飢え

飢え

「え? よかったよね?」
 中にたっぷりと出してから事後報告をするお客さんに2人つき
「外に出すからね」
 お腹の上にまたたっぷりと出してから優しさなのか罪悪感なのかティッシュで拭ってくれるお客さんに3人ついたところで7時間の出勤時間が終わる。
 乳首を舐められ、陰部をよだれなのかわたしの愛液なのかわからない汁を垂らされ、声を控えめにあげるわたしをもうひとりのわたしがいつも俯瞰をしている。
『だれ

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