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アイコス

『ハッピーバースデー』
 修一さんが誕生日だったのでメールでそれだけ送り、プレゼントも買ってあったけれどそれは送らず、あっけなく12日が終わってしまった。

「50歳だし。俺。まずいな」
 昨日たまたまあったので誕生日おめでとうイブということでそういうと、まずいし、なんか実感がないよといいながら苦笑をした。
「あのさ、」
 ベッドの中にいた。きょうは元気がない。ということでただベッドの上で裸で並んで天井を見上げている。あのさ、と切り出したのはわたし。なに? 修一さんはわたしのほうに顔を向けてあのさ、のづづきを待つ。
「43歳のときも、同じこといってたよ。修一さん」
 実は、毎年歳をとるたびに、そういっている。とはいわなかった。あえて大昔のことだけを優先していう。
 修一さんははっという顔をし、口を開き、なにかいおうとしてやめ、はぁとため息をついた。
「最近、なんか朝起きるのがつらいんだよね。昨日さ、3時半に起きちゃって、5時までまだあるからまあ寝よってつい寝ちゃったら、おや? なんか明るいぞとおもってはっと起き上がって時計みたらもう6時半過ぎてて急いでうちでたんだけれど、」
 そこまでいっきに喋り、疲れたのか唇が乾いたのか舌をだして唇を濡らす。そしてまたづづける。
「そのあと、嫁さんから電話あって、なんだろうとおもって電話に出たら『玄関が開けっぱなしだったよ。全開に』っていわれて。まあ大笑い。てゆうか笑えないけどさ」
 笑えないわりに笑って話してから、なんかサザエさんみたいだねとわたしもそういいながら笑う。
「コントかとおもったよ」
 いいながらわたしを横向きにし、背中から抱きつく。修一さんはわたしを背後から抱きしめるのが好きらしい。よくやる。顔をみたくないのかもしれないけれど。それはまあ置いといてわたしは背中からゾクゾク感が溢れだし、つい、あ、と声をだす。
「いや、しねーし」
 そんなことをいいつつも下半身にあるものが屹立をしている。まだ、わたしで勃つ。ことが歯痒い。
 もう濡れているわたしの中に横からおじゃますますという感じで入り、なんどか腰の運動をし、それがいつの間にか本気になっていて猛ダッシュをし結局最後まで走りきった。
「もう、限界です」
 限界ですというほど稼働時間は短かった。
「かんべんして」
 かんべんするほどしてないじゃんか。とはいわない。
「ははは」
 笑うしかなかった。わたしは頭から修一さんを抱きしめる。いとおしいって感じがし、おかあさんにでもなった気がした。母性があまりにも強いのも考えものだなとわたしは心の中で自虐的に笑った。
「いったい、わたしたちはどこに向かっているんだろうね」
 部屋は静寂だった。おもてからはなにひとつ音を拾えない。ラブホは窓がない。異空間のでもきたかのようだ。時間も曖昧だし明るいのか暗いのかすらわからない。わからなくしているちしたら。ラブホにはだいたい時計がない。意図的に時間を忘れさせようとしているのだろうか。
 時がとまればいい。そうおもっている女はきっとこの世の中たくさんいるに違いない。少なくともホテルを使っている自体、怪しい関係が多いのだから。まあわたしたちもその一員なのだけれど。
「1年ってあっというまだね」
「あ、ああ……」
 そのご、少しだけうたた寝をしてしまい、また慌ててホテルからでるはめになり、また慌てたしと修一さんは車の中で、サーザエさんザザえさん〜、と急に歌いだし、サザエさんは愉快だなぁ〜とづづきをわたしが受けとり最後まで歌ったら、音痴じゃね? とケラケラと修一さんは大笑いし目を細めてわたしの顔をじっとみていた。
 そして信号が青になる。


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