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短編小説

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2021年3月の記事一覧

雑工

 職安の認定日だったので職安に行きたくさんの認定者に辟易しつつも小説を読んで待っていた。なんでこんなにたくさん無職の人が……。と毎回行くとおもい、仲間じゃんという同志感もあり、しかし密過ぎるから大丈夫か? という不安もまた拭えない。
 待っている最中、目の前にあった【最新 建設関係 求人情報】が目に留まり、急に修一さんにあいたくなり、メールをした。メールをしてもすぐに返事などくれたことなど今まで一

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オトコを買う

オトコを買う

 2万円で男を買った。男の体を買った。男の時間を買った。2万円が高いのか安いのか相場がわからない。けれど男は店には内緒でいいからと笑い、時間をかなり延長してくれた。
「こうゆうの、」
 ベッドに先に入っていたわたしの横に来た男が声をかける。こうゆうの? わたしは続きを待つ。
「こうゆうの。男をこんなふうに呼ぶことってよくあるの?」
 好きな声だとおもった。好きな顔でもあった。
「ううん。ないよ。…

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つくし

つくし

「あのね、聞いて、聞いて!」
 日曜の昼下がり。わたしは徒歩3分のところにあるローソンでたまごサンドとハムサンドと豆乳と鬼殺しとから揚げくんを買ってうちに帰る途中とんでもないものを見つけてしまい慌てて直人に駆け寄った。
「なに? なんなの?」
 メガネを掛け、ジャージ姿の直人がソファーから体を起こしわたしの方に顔を向ける。不思議そうに。
「つ・く・しを発見しました!」
「……」
 で? そんな感じ

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空の旅へ

空の旅へ

 自転車で一番最寄りの駅にいき、そこからひとつだけ向こうのちょっと大きな駅に行き、あるかも! とおもいつつ、金券ショップでセントレア空港行きの切符があったので往復で買う。時刻は午前10時。曇り。わたしは今から旅に出る。ひとりで行く旅が好きだ。やはり旅はひとりがいい。セントレア行きの名鉄に乗り、途中で乗り換えて終点であるセントレアに着く。
 空港はあれ? 今日休みか? というほど人がいなかった。コロ

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体力と気力と……

体力と気力と……

 やられたわぁー、マジで、まずいって、マジで、本当に、やられたわぁー。
 それらの単語を何回もなにかのおまじないみたいにひたすらと連呼する修一さんにわたしはなにそれと顔をのぞきこみつぶやく。薄暗い部屋であたりまえのようはじまった行為。修一さんはまだ肩で息をしながら、まだ同じ単語をつぶやいている。口が勝手に動くみたいに。
 なんなの? わたしは小さな声で修一さんの耳元でささやく。ん? と顔を向けやや

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わたしの顔 2

わたしの顔 2

「あれ? なんか顔、変わった? 浮腫んでるのかな? ってゆうか泣いた? あ、いいよ。別に話したくなければさ……」
 薄暗い照明の薄暗い部屋で薄ぼやけた顔をした男の顔がわたしをじっと見つめ続けている。いつもよりも3割増くらいで照明は落としてある。わたしはうつむきながら重たい扉を開くように口を開く。めんどくさそうに。
「……そ、そうですかぁ? そうみえますか? じゃあ、そうなんですよ。きっと……」
 

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雨

 入り口で100円を入れ、ゲートをくぐり、目の前にある階段の脇にあるいくつかの新聞を掴み、出走表を掴み、階段を上る。エスカレーターの方はたくさんのおじさんに陣取られていて、乗れないというか乗らなかった。おじさん、わたし、おじさんというふうに挟まれてしまう。階段を上り切ると息が切れ、はぁ、はぁと声にならない声が出、心臓がバクつき目の前にある椅子に腰掛ける。お惣菜の匂いが鼻の中で暴れ出し、ふと、横を見

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もう3月

もう3月

 金曜日に直人のうちに行くとちょうど会社から帰ってくる時間と重なりわたしが車を停めていたら(何度も切り返して)直人が帰ってきて慣れた感じでさっと車を停め、わたしを一瞥だけしすぐにうちの中に入っていった。来て、あ、何も買ってきてないことに気がつきうちの中に入る前にローソンに歩いていく。直人のうちには何もない。お腹も空いていたのでホットミルクとから揚げくんとハイボールを買って帰る。ポンタカードはスマホ

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