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確証バイアスや、有害な脳内のおしゃべりの影響に気づき、成長するための内省力を手に入れる

内省力 (Reflection) は、感情知能の四つの領域の中の最初の領域である自己認知を高める際の、感情認知力と並ぶ重要な柱の一つです。内省は、自分の内的状態に継続的に注意を向ける行為で、自己反省的な気付きの中で、感情によって引き起こされる体験、例えば、怒りで顔が紅潮し目を見開くとか、緊張で心臓が高鳴り手に汗をかく、などを観察し改善することです。

マインドフルネスによって自分の「現在」を意識できるようになり、感情認知力の高い状態を引き出すことができれば、内省力によって自身の潜在的なバイアスを認識し、成長させることができます。今回は内省力に関して TED の動画などを参照しながら理解を深めたいと思います。動画を見る際には日本語の字幕を活用してください。

感情知能の四つの領域と14の特性

内省の落とし穴

この動画では、多くの人が自己認知やそれを支える自己反省的な内省の大切さを認識していながら、それを正しく行えている人は驚くほど少なく、逆に内省が人生に悪影響を与えていると述べています。自己認知には、人間関係の強化、職場でのパフォーマンスの向上、効果的なリーダーシップなど、数え切れないほどの効果があることが証明されています。

しかし、彼女の研究によれば、95%の人が「自分は自己認知ができている」と思っているが、実際にできているのは10%にすぎないと主張しています。あなたはどちらでしょうか?自己認知ができると考えていますか?もしくは、本当にできていますか?彼女の研究によれば、80%の確率であなたは前者のようです。

内省をしている人ほど自己認知が出来ていないという矛盾する研究結果が示す通り、内省のやり方を間違えると、逆に自分自身を望ましくないバイアスへ釘付けしてしまうために、そこから抜け出せなくなるという問題が発生します。このバイアスによる負のスパイラルは、一方で、真の内省の力強さを示しているとも言えます。つまり、本来内省で行いたいことは、より適切なバイアスを自分自身に植え付けることであり、それに成功すれば力強い好循環を導けます。

動画の中で語られている内省の失敗パターンは、「なぜ(Why)」を考えるアプローチです。別の言い方をすれば、因果律的思考や論理的思考です。例えば、「Aの結果、私に怒りが生じた」のように、怒りが改善したい「結果」であれば、その「原因」に着目するという方法です。皆さんはどうでしょうか?「なぜ」を考える因果律的思考や論理的思考に対して、理にかなった方法だという理解を示す人は多くいるのではないでしょうか?

このようなアプローチを自己認知に応用することの問題点は、怒りのような感情を感じている理由や動機を探ることが求められることです。そうすることは、起きている状況に対する判断や自己正当化の試みにつながりかねず逆効果になりかねないのです。

自己認知の重要なプロセスは、怒りを感じてしまっているという否定しがたい脳からの結果を自分の現実として受け入れることから始まります。つまり、「なに」を考えるアプローチです。一切の判断を排除し、起きていることをありのままに受け入れることから始めるのです。自分の感情を尊重し、それに寄り添うのがよいでしょう。感情に好奇心を持ち、その時感じた「なに」を日記のように記録していけば発見があるでしょう。

事実はデータとは限らないし、データは証拠とは限らない

ある考えを検証する際に、その考えに有利な情報だけを集め、それに反する情報を無視する心理的傾向のことを「確証バイアス」と呼びます。この動画では、確証バイアスの危険性と、間違っている可能性に耳を傾け、そこから学ぶ心構えの重要性を伝えています。

昨今フェイクニュースなど、あふれる情報の中で何が正しく、何が間違っているのか、悩ましい時代になりましたが、動画の中では人々がよく陥る三つの罠を紹介しています。

  • 物語は事実とは限らない。

  • 事実はデータとは限らない。

  • データは証拠とは限らない。

「証拠」や「データ」の危険性に関しては以前の記事でも触れましたが、内省においては自身の確証バイアスをうまく扱うことがとても重要になります。それには、他の意見からの学びに対する好奇心、成長思考が有効です。

子供の頃の学校での教育の影響などで、どうしても答えを出す、成功する、誰かに勝つことに対する喜びが忘れられない方もいるかもしれません。しかし、内省において大切なのは、「失敗」や「学び」から得られる成長です。「失敗」と「学び」は本質的に同じ意味であることに気づき、そこから成長するという考え方に転換することで、効果的に内省に取り組むことができます。

有害な脳内のおしゃべりの影響を無視しない

脳の基本的な機能として、実は、起きている時間の約半分は、脳内で自分とのおしゃべりに費やされているそうです。例えば、シャワーを浴びているときや散歩に出かけているときに、いいアイデアを思いついた経験があるかもしれません。あるいは、寝ようと床についても、その日の出来事が頭から離れず、なかなか寝付けないという経験があるかもしれません。そのような時は、嫌な感情なども一緒に何度も蘇ってくることもあります。本を読んでいると、ある言葉や描写に反応して、本の内容とは関係ないことを考え始めてしまうこともあるかもしれません。

そのような時、あなたの脳内では様々な考えが駆け巡ると思いますが、そのような状態が脳内のおしゃべりです。一日24時間のうち、1/3は睡眠時間だとすると、1/3は自分とのおしゃべり、残りの1/3は本当に外界と接して「現在」という時間を過ごしていることになります。わずか1/3の時間しか「現在」を認識していないとしたら、脳がどれだけ人生に影響を与えているか、人生とは何かを改めて考えさせられると思います。大胆に表現すれば、脳を制する者は人生を制するのです。

この動画では、脳内のおしゃべりでは、あたかも他人と会話しているかのように言語を使い、そうすることで脳内の記憶を整理し、それによって自分自身のアイデンティティを構築していることを指摘しています。その一方で、脳内のおしゃべりには否定的なものがそれなりに占めていて、そうした否定的な発想が自分自身のアイデンティティとして、健康面を含め、さまざまな悪影響を及ぼす可能性があることも指摘しています。

この脳の働きについては、以前別の動画でも紹介したので、覚えている人もいるかもしれません。実際、この否定的でストレスのかかる脳内のおしゃべりは、集中力を奪い、内省の大きな妨げとなります。また、ストレスが健康に悪影響を及ぼす可能性も指摘されており、単に集中できない、内省ができないという単純なことではなく、非常に深刻なものであることが理解できます。

さらに、言語能力が与える影響も無視できません。脳内のおしゃべりは、実際に自分の話す言語(手話を含む)を使って脳の整理整頓を行うからです。前向き(ポジティブ)な言葉を使う人とそうでない人では、結果は大きく異なるでしょうし、多言語多文化に触れる機会がある人は、多様性を考慮して記憶を整頓することができるでしょう。

バイアスは、否定するのではなく、成長させる

この動画では、感情に対する自分自身の反応を、自分が思っている以上にコントロールすることができる可能性を説明しています。感情と向き合うという行為は、自分の内的状態に注意を払い続けることが必要です。マインドフルネスによって感情認知力を高めることができれば、そのような自分の感情に向き合うことが可能になります。

脳内の偏桃体として知られる部分は、自分自身への脅威に反応すると考えられています。そして、怒りなど偏桃体に関連する感情は、自分にとって大切な価値観と関連している可能性があります。それは自分の過去の経験や思考傾向を問い直すきっかけになり、自身の価値観や認知バイアスを振り返るきっかけになります。例えば、ある人の行動を好ましくないと感じた場合、それはあなたにとって大事な価値観を脅かす行動が含まれていたのかもしれません。

子供の頃は、家庭や学校生活という狭い世界の中で自分のバイアスが構築されるため、環境の変化によっては辛い感情に悩まされることがあるかもしれません。しかし、感情認知力と内省力による自己認知によって、人はバイアスを成長させることができます。バイアスを克服することは、バイアスを否定することではなく、バイアスを成長させること、つまり自分の感情を成長させることなのです。

昨日の私には知恵があったので、世界を変えたいと思った。今日の私は賢明なため、自分を変えようとしています。
(Yesterday I was clever so I wanted to change the world. Today I am wise so I am changing myself.)

Rumi


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