風情なる銘
夜の闇に浮かぶ梅の花~
「夜の梅」ーとらや 羊羮菓銘
ご存じの方も多いかと思いますが、
「羊羮の切り口の小豆が、夜の闇にほの白く咲く梅の花を思わせることに由来します。」
ーとらやより
この季節になると、必ず思い起こさせられる趣きある風景です。
和菓子は五感の芸術と言うそうです。
(視覚・味覚・嗅覚・聴覚・触覚)
視覚・味覚・嗅覚・触覚は言うまでもありませんが、聴覚とは?
それは「銘の響き」です。
美しいですね。
感性豊かな日本人の心に感心します。
和菓子の生菓子の多くには銘が付けられていますが、私は中を見てはじめて出会えるこのとらやさんの「夜の梅」の、隠された奥深い風流さに一番趣きを覚えます。
夜の闇に浮かぶ梅の花~
春の夜の 闇はあやなし 梅の花
色こそ見えね 香やは隠るる
「古今和歌集」
(春の夜の闇は無意味だ 梅の花の色が見えなくなってしまうが その素晴らしい香りだけは 隠れようもない)
ーとらやHPより
闇夜に遠くからではほのかに淡くおぼろげに見える梅の花。
はっきりとは見えないがゆえに、香りと言う目に見えぬ誘惑に引き寄せられ、近くまで行き姿を見たくなる。
現代においては、自然が織り成す世界を感じるのは難しくなりつつありますが、たまには耳を澄ませ、やさしく触れ合う木々の葉の囁きでも聴いてあげられるようになって欲しい。
この歌が詠まれた時代のように、本来人間が持っている五感とともに、そこから生まれる感性を失うことのないようにしたい。