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旅の荷造りで生活のミニマムを知る。

旅に出るのは楽しい。特に、泊りがけの時は。
泊まるところを決めて、新幹線の指定席を購入するところから、もう楽しい。

ここ10年ほど、ごく稀に行けるひとり旅では東海道新幹線ばかり乗っている。

くだりは、富士山が見やすい右側座席の窓際。
のぼりも、富士山が見やすい左側座席の窓際。ただし、帰りが夜だとよく見えないから通路側もアリ。

幼いころから、遠出の旅行といえば、母の実家へ向かう東海道新幹線だった。
富士山はいつ見えるのか、雲がかからず無事に見えるのか、と毎回そわそわしながら乗っていた。
自由席限定だったから、窓際に座れないと、ものすごくつまらなかった。

今は位置情報で自分がどの辺りにいるのかわかる。
富士山を見逃すことなく眺めることができるのは、大変に素晴らしい。

わたしにとっては、東海道線イコール富士山である。





そんな旅に向かう前には、荷造りが必要。
お決まりの黒のトランクと、荷物を小分けにする大小の定番ポーチが合計三つ。

どれも、いつまでも気軽なひとり旅に行けるのを祈って、10年近く前に購入したもの。
60歳になるまで持っていても自分が恥ずかしくないデザインを選んだ。


旅は間違いなく楽しい。
が、荷造りしてると、もやもやしてくる。

最初はすごくはりきって準備するのだ。
ところが、毎回毎回、だんだんと同じような気分に陥ってくる。

生きているだけで、一泊するだけで、
どうしてこんなに物が多いのだろう、と。

たった一泊二日のための荷物がこれでもか!というくらい思いつく。
歯ブラシ、アメニティにタオルもドライヤーもある宿なのに。

洗顔・基礎化粧品とメイクグッズ、
冬以外は日焼け止め、
ヘアワックスとスプレー、
下着類があれこれ、
服、
場合によっては現地で履き替える靴、
モバイル端末の充電ケーブル、
メガネと明日の分のコンタクトレンズ、
毎朝飲む血圧の薬、
冬以外は虫さされの薬と虫除け、
肩こりの薬、
目薬、
新幹線での乾燥防止用のどあめ、
時間ができた時に眺める本、
家の鍵、
財布、
ティッシュ、
二日分のハンドタオル、
スケジュール帳、
ICカード、
お天気次第で折り畳み傘、
カメラ関係の物、
洗濯物を入れるビニール袋、


………そんな感じだろうか。
もちろん、旅でなくても普段から持ち歩く物も含む。

旅先では、ちょっとでも見栄えよく、そして元気なわたしでいたい。
だから薬やメイクグッズの類いの用意に手抜きをしない。ちょっとした不調もすぐに取り除きたいし。
よって、細かい物が増えがちなのだ。

こうして文字にするとたいしたことがない気もするけど、いざ準備していると、ああ、あれも必要、これも用意しなきゃ、と家の中を右往左往。

たかが一泊、居場所を移すだけなのに、こんなにも物がないと生きていけないのだろうかとモヤモヤしてくる。





そうして、宿についてトランクを広げる。

逆に錯覚し始める。

これだけあれば生きているんじゃないか?と。

それは、ホテルに、タオルもシャンプーリンスもボティソープも、ティーバッグもカップもケトルもテレビもミニ冷蔵庫も備わっていて、さらにキレイに掃除されているからなんだけど。

家に置いてきた、持ってこなかった多くの物達。
その中で、追加で必要な衣類とお医者さんから欠かすなと言われている血圧の薬、本当に本当に愛おしい本と雑貨と預金通帳をこの部屋に持ってくれば、わたしのこれからの人生は成立するんじゃないだろうか?なんて思えてくる。


雨露をしのぐ部屋、プラス旅の荷物。
それが生きるのには適量なのかもしれない。
物が少なければ、管理にとらわれることも、片付けに時間を割くこともない。
ストレスは格段に減る。

普段はポーチなどで保管、小分けしながら使い、旅に出る時はそのままトランクにさっと入れられる。
そんな最低限の量の物と日常での使い方をホテルで夢想してしまう。

本当に、今の自分に必要な物だけを残す。
本当の断捨離の極意がきっとここにある。





旅から帰ると荷ほどきをして、数々の物たちをドレッサーや引き出など元の居場所に戻す。トランクとポーチを拭いて、乾かしてからしまう。

そうして、あらゆることが日常へと戻ってゆく。

例えば、8畳のベッドルームの白いフローリングでトランクを飾るように置きっぱなし、というシチュエーションへの憧れにちょっと悲しくなりながら。


おみやげの物をダイニングテーブルに広げる。
ここのところ、食べ物や飲み物などの消え物しかお土産で買わない。
何か飾る物を得ても、そのうち処分するハメになるのだろうなとわかっているから。


あらためて家の中を見ると、いろいろな物に囲まれて暮らしているのを嫌がおうでも実感する。

長年生きていると物が増えすぎて、なかなかばっさり捨てきれない。
洗濯機、掃除機、台所用品など、暮らしには必須で、簡易なものじゃ足りない物もある。



それでも、引き続き断捨離に励むことをあらためて決意した次第。

出来る限り物を持たず、いつでも身軽に旅に出られる。
そんな暮らし方を目指して。


いろいろと降って来た出来事に邪魔されて、なかなか予定どおりに進まない片付け、でも、全然できていないわけじゃない。

強烈な太陽と突き抜けた青空と陽射しを受ける木々の緑がまぶしい季節がやってきたら、また東海道新幹線で旅に出る予定。

その時には、今より心穏やかに旅の荷造ができるわたしになっているはず。



【車窓からの富士山】





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