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2−青


白木希美は早熟でした
他人を見下しました
善人ではありませんでした
でも彼女は綺麗でした
話術に長けました
身体が大人びてました
だから愛されました

柿崎早苗は未熟でした
他人を見下したりしません
柿崎早苗は基本的には善人でした
語るに及ばない少女でもありました
一つの症状を除いては

症状は白木希美にもありました
それは少しずつ彼女を蝕みました
彼女は蝕まれるほどに輝きました
事ある毎に胸に手を当て
己の虚無に爪を立てていました

二人は執着しました
二人は固執しました
理由は分かりません
必要だったんでしょう
二人には二人が

白木希美は青ばかり描くようになりました
柿崎早苗は青ばかり愛すようになりました
白木希美は次第に愛されなくなりました
柿崎早苗は次第に愛されるようになりました
白木希美は目指しました
究極の青を
柿崎早苗は求めました
究極の青を

そして究極の青は完成しました

白木希美は喜びました
柿崎早苗も喜びました
私一人が冷めてました

白木希美は言いました
「どう思う?」
柿崎早苗は言いました
「この青は希美そのものだよ」
白木希美は言いました
「出来た。究極の無垢」

二人は抱き合いました
涙を流して淑やかに
白木希美は囁きました
「じゃあ、究極の芸術になるね」
私に向かって言いました
「忘れないよね」
今度は早苗に言いました
「忘れないでね」

そして白木希美は消えました
軽やかな足取りで退場しました
開け放した窓からは吹き込むのは
あたたかい風と
金切り声でした

私は早苗の腕を掴みました
深淵を覗かないように
彼女の肉に爪を立てて
艶やかな赤を滴らせても
彼女は歩みを止めようとしません

私は彼女の首を絞めました
肘を首に巻き付けて
床に押し倒しました
沢山の色が飛び散りました
動かなくなるまで絞めました
窓の向こうの騒然と裏腹に
教室に差し込む橙の日差しは
とても綺麗でした



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