【小説】ドブネズミみたいに(3)
翌朝起きるとすぐに、5つのネズミホイホイを確認したが、ネズミは捕まっていなかった。
夜中、ロフトの下からガサゴソする音は聴こえていたから、ネズミはやってきたのにネズミホイホイに掛からなかったことになる。
「賢いのか。それとも、はじめは様子を見てるのか……」
ガッカリと安堵した気持ちが入り交じった。安堵したのは、朝からネズミを見たくはなかったし、処理するのはもっと気が進まなかったからだ。
その日は仕事から帰ると、ネズミ避けスプレーに手を伸ばした。
「どれどれ。……へえ!」
思わず声を挙げてしまった。化学物質でネズミを寄せ付けないのかと思いきや、有効成分は、天然ハッカ、香料(琉球ハーブタイプ)のみしか書かれていなかった。
15㎝くらいはある極細のノズルをつけて、まずは1プッシュしてみた。
ジュボーッ
思っていたよりも大きな音がして驚いたが、二度三度と噴射するうちにだんだんと楽しくなって部屋中に撒いてまわった。
スプレー缶には、ネズミを睨み付けるネコのイラストが描かれていて、何だかはじめは恐ろしかったが、ハッカやハーブの清々しい香りが溢れ、気持ちまで爽やかな気持ちになっていくのがわかった。
その晩、ロフトの下からネズミのガサゴソいう音は聴こえなかった。
いつのまにか、数日振りにグッスリと眠りについていた。
翌朝、当然のようにネズミホイホイにネズミはいなかった。
「ネズミ避けスプレー、凄い!」
意気揚々と仕事に出掛けた。
仕事から帰ってドアを開けると、匂いは薄まっていたが、ハッカやハーブの香りがほのかにしてきた。
「フフフフ。部屋に香るハーブが、アロマを炊いたわけじゃなくて、ネズミ避けスプレーってのがわたしらしいや」
その晩も、ネズミ避けスプレーを撒こうとした。
プシュー、プシュー、シュー、シュー
「えっ!? 嘘でしょ?」
ネズミ避けスプレーはすぐに空になった。
「ええーっ! 1本1,000円もしたのに、2日ももたないの?」
それから1週間は、ロフトの下からガサゴソいう音は聴こえてこなかった。
「ネズミさんは、別のアパートに引っ越したのかも」
そう思った晩、
ガサゴソガサ
またロフトの下からあの音が聴こえてきたのだ。
「いやー! ネズミ避けスプレーの効果は、1本で1週間しかもたない。っていうことは、1,000円×4,5本として、1ヶ月で5,000円近くかかっちゃう! いやー!!」
(つづく)
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