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10年後のウェブ業界で生き残るのは、きっと「人間くさい」会社だ

ウェブ業界はどんどんコモディティ化しています。

20年前のインターネット黎明期に比べて、ウェブ会社の数は爆発的に増えました。コーポレートサイトがあることは、もはや当たり前。初心者が簡単にサイトを制作できるAIなどのツールも、どんどん登場しています。

もはや、単なるウェブ制作だけでは生き残れない。この業界にいる人なら、みなさん感じている課題だと思います。

ぼくは名古屋で20年以上続くウェブ会社を経営しています。

これまでデンソーさんやソフトバンクさんなど、大手企業のウェブサイトを数多く手がけてきました。社員数はもうすぐ100名を超えます。

実績には自信がありますし、デザイナーやエンジニアの質も高い。国内外のデザインアワードも多数獲得してきました。

でも「このままでいいのだろうか?」という不安は、常に感じていたのです

それで昨年の6月ごろから、クライアントを直接訪問してインタビューを始めました。「ぼくらが磨いていくべき価値ってなんなんだろう?」というのを、改めて考えてみようと思ったんです。

今回はそのなかで見えてきた「10年後のウェブ業界で生き残るために必要なこと」を、ぼくなりにまとめてみました。

同じ悩みをもつ業界の方にとって、なにかヒントになれば嬉しいです! よろしければぜひ、みなさまのご意見も聞かせてください。

お客さんの「いちばんの理解者」に

クライアントインタビューで、ぼくらを高く評価してくださったお客さんとのお仕事には、ある共通点がありました。

それは、ぼくらがウェブサイトだけでなく、お客さんの「事業」にまで深く踏み込んだ話をできていたことです。

「採用がうまくいってないですね」「社内のコミュニケーションがうまくいってないですね」「営業とうまく連携できてないですね」など。そういった部分を含めて課題を解決しようとしていたんですよね。

それをやるためには、お客さんの状況や、業界の状況、それを取り巻く市場の状況について、誰よりも知っていないといけません。

たとえば、半導体を扱っている会社なら、半導体の業界構造はどうなっているのか、コロナによる影響はあったのか、競合他社と比べてどうか、みたいな情報を知っておく。

そのうえで、お客さんと一緒に「よりよい未来像」を考えていくんです。

それができていないと、お仕事が単発で終わってしまったり、なかなか次の大きな案件につながらなかったりします。

会社としても、常にそういう仕事をするのが理想です。でも現状は、できている案件もあれば、そうじゃないものもまだまだある。そこが、今のぼくらの課題だと思っています。

デザインの力で「産後うつ」を解消する

最近携わったデジタルコンテンツのお仕事で、お客さんの事業に深く入りこむことで、大きな結果につながったものがありました。

妊婦さんの「産後うつ」を解消することを目的とした、サービスデザイン開発のお仕事です。これがとても好評で、テレビでも特集していただけました。

この取り組みの目的は、十月十日間の病院と妊婦さんのコミュニケーションをサポートして「幸せな出産だったな」と思ってもらうこと。

具体的には、まずアプリを使って、妊娠中の記録をとっていきます。アプリ内で「いまの気持ちを入れてください」とか「写真を送ってください」みたいなガイドが走るようになっていて。

最後は「出産式」をやって、妊娠中の思い出を動画で流すんです。

ぼくらは、タイガアソシエイツさんという会社から受託して、コンセプト設計やコミュニケーションデザインを主に担当しました。

結果としては、大成功でした。

導入してくださった病院の患者数は、この取り組みをやる前と比べて2倍に増えたのです。

本当の意味で「お客さんのためになる」ものは何か?

なぜ、こんなに成果が出る施策になったのか。

実はこの案件、初めて受託先からお話をいただいたときは「アプリ開発をしよう」という話すら存在していませんでした。

当初のお話は「病院のリブランディングのために、受付にプロジェクションマッピングを設置して、待合室が退屈にならないようにしたい」というもの。

でもぼくらは「それだけでは、病院にくる妊婦さんに、本当の意味で寄り添うことはできない」と思ったんです。

最初はかなり議論になりました。何度もアイデアを出しては、ボツになって。

そんなとき、受託してくれた会社の社長さんと話していると、たまたま奥さんが出産された直後だとわかったんです。それでふと「嫁がめちゃくちゃ産後うつになって、大変なことになってるんだよね」とおっしゃっていて。

「それこそ、ぼくらが解決すべき課題なんじゃないか?」と思ったんです。

そこから「産後うつの解消」という方向で、体験デザイン全体を作り込んでいきました。

有識者の茂木健一郎先生にもお話を聞きました。先生によると、十月十日のポジティブな経験は、その後の育児にもいい影響を及ぼすそうなのです。

「じゃあ、そういう体験をつくればいいんじゃないか」と、企画が進んでいって。コロナ前から3〜4年かけて準備して、やっと完成しました。

テレビの特集で取材されたご家族は、リピーターの方です。出産式も2回目。これは取材した方に聞いた裏話なのですが、1回目の出産式のときは、お母さんがもう大泣きだったそうです。

「すごくよかったから、もう一回その病院で出産したい」とおっしゃってくれたらしくて。

あと、予想外だったのは「出産式で流れる動画を見て、旦那が泣くんですよ」という反響でした。出産式で感動して泣いた旦那さんは、そのあとの子育てにもすごく協力的になるそうです。

もう1つおもしろいのは、病院の内部にもポジティブな効果があったこと。

「出産式」は、今回の体験デザインの目玉となるイベントです。

女性が結婚式で華やかなドレスを着て、みんなに祝福される。それと同じような経験を、出産のタイミングでもしてほしい。生まれてきた子どもだけでなく「おかあさん」も主役になれる文化をつくりたい。そういう思いで設計しました。

だから、院をあげて「出産式」を盛り上げているんですよね。

看護師さんや先生だけでなく、清掃員の方や受付の方まで、一緒になってお祝いするんです。これまでは、清掃や受付の方はバラバラで仕事をしていました。でも出産式では、そういう裏方のみなさんが主体となって場をつくります。

すると、病院全体がポジティブになって、組織の雰囲気もすごくよくなったのだそうです。

病院のお客さんの数が2倍になって、リピート率も上がって、組織の雰囲気もよくなって。クライアントのためにもなりつつ、妊婦さんやご家族のためにもなって、社会課題の解決にもつながっている。

これはぼくらにとって、とても理想的な成果でした。

WEB制作は「プロセス」自体に価値がある

この業界で20年やってきて思うのですが、WEBサイトやデザインって「制作のプロセス」自体にも、すごく価値がある気がするのです。

お客さんのことを深く理解する手段として、WEB制作がある。

「サイトをリニューアルする」というのはもちろん大事ですが、それはあくまで「スタート地点」なんですよね。

制作プロセスの中で、社内の人間関係や価値感などを、お互いに深く理解して。そうすることで、本当にやらなきゃいけないことが見えてくる。

解決すべき課題や、目指すべき未来がわかってくるんです。

今回の妊婦さん向けの取り組みも、開発のプロセスを通して「病院が、お客さんである妊婦さんにとって、どんな存在であるべきか?」を深く考えることができました。

表面的なデザインだけをキレイにするのではなく、本質的なところのリブランディングができた。

アプリやコンテンツ単体の効果だけでなく、一緒に悩んで紆余曲折を経た、あのプロセスやコミュニケーション自体に価値があったと思います。

WEBサイト制作の役割は、そんなふうに「未来を描くための出発点」をつくることなんじゃないかと思うんです。

人を育てることがいちばんの社会貢献であり、成長戦略

10年後のウェブ業界で生き残るために必要なこと。

それは、お客さんのことを深く理解し、一緒に「よりよい未来」を描いていくこと。さらに言えば、そういう仕事ができる人材を育てていくことなんじゃないかなと思います。

10年後の業界や会社が、具体的にどうなっているかなんて、正直ぼくにもわかりません。もっとビシッと言えたらいいんですけどね。

ただ、不確実な未来予測をするよりも、大事なのは「メンバーのみんながきちんと成長できること」だと思っています。

会社は、そのための器として機能し続けていけばいい。

10年後、ぼくらがかかわった人も会社も、みんな「社会に求められる存在」になっているのが理想です。

うちで学んだ人たちが、会社を離れた後もずっと、社会に貢献できている。さらに、彼らが関わったお客さんも、社会に必要とされる会社になっていく。ぼくらのサービスを導入した病院が、妊婦さんにとって「安心して子供を産める場所」になったように。

「社会をよりよくできる人」を育て続けていくことが、ぼくらにできるいちばんの社会貢献であり、生存戦略だと思います。それをずっと続けられるように、会社の地盤をつくっていきたい。その結果として、会社自体も成長していければいいと思っています。

クライアントワークと人材育成は両立できる

だからこそ、人材育成には会社をあげて力を入れています。

制作会社の仕事って「やりたいこと」ではなく「クライアントから言われたこと」をやらないといけなくて、キャリアに結びつけづらい……みたいに思われがちなんですよね。

でも、そんなことはないとぼくらは思っていて。

組織的にちゃんと設計すれば、クライアントワークと個人のキャリア形成は両立できると思うんです。

うちの会社では、案件の受注、アサイン、制作、フィードバックまで、すべての工程が「よりよい人材育成」につながるように設計しています。

もちろん、まだまだ完璧に実行できているわけではなく、改善中の部分もたくさんあるのですが、各プロセスで気をつけていることをいくつかご紹介します。

「誰も幸せにならない仕事」は受けない

まず、受注のときに意識していることです。

いちばんは、ぼくらのミッションである「仲間となって未来の輪郭をデザインする」に合う案件かどうか。単なる受発注の関係ではなく「仲間」としてモノづくりができるかどうか、受注前に確かめるようにしています。

また「大きな予算をとってくださっていること」も大切です。

それは、単に売り上げのためではありません。デジタル分野に大きな投資をされているお客さまは、単なるWEB制作にとどまらず、経営に対してのインパクトも期待してくださっていることが多いからです。

「とりあえず安く早く作ってくれ」という関係ではなく、「一緒に経営課題を解決するパートナー」としてお付き合いできる。

経営や事業にまで深く入り込むとなると、対応すべき領域や、時間的リソースもどんどん大きくなっていきます。それなのに予算がぜんぜんないと、絶対にやっていけません。

よりよい価値を出すためにも、そこをちゃんと重視してくれる会社さんと取引するのは、とても大事なことだと思います。

だから、たとえ予算が大きくても、会社としてデジタルを重視していなかったり、「一緒に作っていこう」というスタンスになっていただけないときは、お仕事をお断りすることもあります。

「やっても誰も幸せにならない仕事」はなるべく受けない。入り口の大前提として、そこはかなり重視しています。

キャリアを見通すための「マップ」

メンバーのアサインも、できるだけ丁寧にやっています。100%は難しいとしても、なるべく本人の目指すキャリアにつながる案件を担当できるようにしたい。

そのためにやっているのが次の2つです。

・キャリアを考えるための「スキルマップ」の共有
・それを踏まえた「半年に5回」のキャリア面談

まずは、それぞれが「自分の目指したいキャリア」をイメージしやすいように「スキルマップ」を共有しています。

実際のマップには「新卒」から「その領域のスペシャリスト」になるまでのステップと、それぞれのフェーズで必要なスキルが細かく示されています。これをヒントにして「自分はいま、どのフェーズにいるのか?」「次のステップに進むには何が足りないのか?」を考えてもらうんです。

また「ポータブルスキルマップ」と「テクニカルスキルマップ」という、2つのマップを用意したこともポイントです。

ポータブルスキルは、マネジメントやコミュニケーションなど、社会人の基礎になるようなスキル。テクニカルスキルは、デザインやプログラミング、営業など、専門分野にまつわるスキルです。

ただ言われた通りにモノをつくるのではなく、お客さんのことを深く理解し、圧倒的な専門知識によって、想像もできなかったようなモノをつくる。

そういう人材になるためには「ポータブルスキル」と「テクニカルスキル」の両方を、職種に関わらず意識しておくべきだと思っています。

100人のメンバー全員と、半年に5回、直接面談

いまは、社長のぼくと副社長2人、計3人の役員が、すべてのメンバーと直接、キャリア面談をしています。

しかも100名近くいるメンバー全員と、半年で約5回。

半期の目標を決めるために、メンバー1人あたり2〜3回面談します。さらに3ヶ月たったタイミングで、現時点での達成具合をきく面談をして、半年が終わったら最後に振り返りの面談をします。

……正直、超大変です。

でも、それだけの労力をかける意味はあると思っています。こうすることで、現場の声がダイレクトに経営陣に届くので。

メンバーがきちんと成長を実感できているのか、心理的安全性は担保されているのか。面談のたびにぼくらのほうがフィードバックを受けている感覚です。

評価のためにマップを作るわけではない

ちなみにスキルマップは、評価制度には一切結びつけていません。

スキルマップのようなものが、評価に結びついている会社もありますよね。設定された等級資格を身につけて初めて、役職に就くことができる……という感じ。それだと、メンバーはマップの内容を「達成要件」みたいに捉えると思います。

でも、ぼくらがこのマップを作ったのは、評価のためではなく、メンバーのみんなに「自分の現在地」を把握してもらうためです。

このマップをベースに、メンバーと話をしたうえで、案件のアサインを判断するための材料にしています。

そうやって、みんなが働き甲斐を持てるような環境を、できる限り作っていきたい。

極端な話ですが、本人が望んでない仕事ばかりをよかれと思ってアサインしていたら、お互い時間の無駄になってしまいます。

もちろん全員に対して、つねにやりたい仕事をアサインするのは難しいでしょう。そうだとしても、ひと手間の配慮を入れたいんです。

成熟した業界だからこそ、早く成長できる

先日のキャリア面談で、入社して1年が経った新人メンバーについて、とてもうれしい話を聞きました。

「まだちょっと難しいかな?」というレベルの、ランディングページのディレクションとデザインを、新人2人に初めて任せてみたそうなんです。「ちゃんとやり切れたんですよ!」と、先輩ディレクターが嬉しそうに話してくれました。

本人たちもすごく達成感があったみたいで、キャリア面談でぼくに報告してくれました。

他にも「このままだと全然だめなので、とにかく勉強しています」といって、毎日自主勉強をしているメンバーもいます。いつもユニットリーダーの横に座って、先輩がやってることはすぐに盗む。そのハングリーさがすごく頼もしいんですよね。

そんな新人メンバーたちの様子をみて、ぼくはちょっと羨ましくなりました。

ぼくがWEB業界に入りたてのころ、勉強するモチベーションは「自分で勉強しないと、何もわからなかったから」というのが大きかったんです。

急成長する業界のなかで、お手本になる人はもう本当にスーパースターみたいな人で、身近にはあまりいなかった。自分で試行錯誤して、とにかく本や参考サイトを見て学んでいました。

でも、いまは業界が成熟したからこそ、お手本になる先輩が身近にたくさんいる。だからこそ「負けたくない」という言葉が出てきたんですよね。

業界がコモディティ化していることは、決して悪いことばかりじゃないんです。

成熟しているからこそ、目指すべき先輩がたくさんいて、成長のスピードも本人次第でどんどん早くなる。長く会社をやっているからこそ、そういう環境が生まれている。

ぼくはそれが、すごくいいなと思ったんです。そういうことが当たり前にできる、ラーニングカルチャーがある会社になっていけたらなと思います。

スーパースターに負けない「泥んこ野球チーム」に

ぼくらは、決してキラキラした会社ではないと思います。

クライアントさんごとに、やることも必要な背景知識もまったく違う。職種ごとのテクニカルなスキルも高めつつ、人として深くお付き合いできるような「人間力」も高めないといけない。みんな、いつも必死で食らいついてくれています。

スーパースターばかりを集めたキラキラチームというより「泥んこ野球チーム」という感じ。

ただ、目指すゴールは甲子園優勝。スーパースターに負けないチームです。そのほうが単純におもしろいし、いい成果も出ると思っています。

それに、仕事って案外、泥んこ野球ばっかりです。笑

ひとつの仕事で成功したとしても、それで終わりじゃありません。時代やニーズはどんどん変わっていきます。

プロフェッショナルだからこそ、常に泥臭く、変化し続けないといけない。

20年以上「WEBサイト制作」で成長してきたぼくらも、今まさに変化すべきタイミングです。「お客さまと一緒に未来を描く」というコアの価値を生かしながら、より幅広い提案ができるチームにならなきゃいけない。

まだ道半ばではありますが、10年後にこのnoteを見返したとき「間違ってなかったな」と思えるように、これからも進化していきたいです!

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