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【ハーブ天然ものがたり】やどりぎ
地に足をつけない樹木
学生時代はやどりぎを鳥の巣と思って見ていました。
じっさい鳥たちにとっては棲家に最適な形状なので巣にすることが多いといいます。
緑の葉が生い茂っているときにはわかりませんが、冬になり樹木の葉が落ちると、まあるい鳥の巣みたいな葉がぼんぼりのように枝にくっついているのを見ることができます。
原産はヨーロッパからアジア大陸、名の通りの寄生植物です。
ヤドリギ科に分類されるのは、世界にざっと1300種ほどあるそうです。
生薬名ではソウキセイ(桑寄生)といい、利尿効果や、頭痛の緩和、リウマチ、神経痛によいとされています。
セイヨウヤドリギエキスはサプリメントもあり、日本では市販されていませんが、とくにドイツでは、やどりぎの薬効に熱い注目が集まっており、宿る木によって効能がどうちがうか、という研究も進んでいるようです。
早春に小さい黄色の花を咲かせ、ついで小さい果実を実らせます。
果肉はおもちみたいな粘り気があるので、細いさおの先に付着させ、小鳥や昆虫をとる鳥黐として使用されてきました。
いまは法律で禁止されていますが、むかしは駄菓子屋さんでも販売していたといいます。
やどりぎの実を鳥たちが食べて樹上で糞をすると、その粘り気で木の枝に種がついて、新しい宿り木に根をはることができます。
やどりぎは地面に根をおろさず、宿り先の樹木の幹や枝に根をつけて1年中緑の葉を茂らせます。
一部すべてをお任せする全寄生性種もいるようですが、ほとんどの種は養分や水を宿り先からいただいて、光合成は自ら行うので正確には半寄生です。
樅の木、からまつ属、松、トウヒに宿るもの。
リンゴ属、ポプラ、シナノキ属に宿るもの。
楓やクマシデ属、くるみ、サクラ属、ナナカマド属に宿るもの。
やどりぎは世界じゅうに分布し地域によって宿り樹もいろいろです。
日本では北海道から九州まで広範囲に分布し、主に榎や欅などの広葉樹、栗、赤四手、柳、ぶな、みずなら、桑や桜にも宿るといいます。
日本では古い時代に、人と神のあいだにある山人が、暮れと初春に里に下りてくるとき、やどりぎを土産として持ってきたという説があります。
古名は、ほよ。
山の神にお仕えする神人(山人)は、暮と初春に里へ降り、土地を祝福して歩き、山から土産ものを持ってきて里と交易したといいます。
山人が持ってきた土産に、寄生木ホヨ、シダの葉、削りかけ、削り花などがあり、それは山人の祓いをうけたしるしとして、正月の飾り物となりました。
北欧神話のやどりぎ
西洋でのやどりぎは、日本以上に親しまれており、伝統や神話にもたくさん登場します。
クリスマスリースに使用されたり、ぼんぼり型のまま吊るしたり、やどりぎの下で愛を誓うと一生幸福なカップルでいられるとか、やどりぎの下にいる女子はキスを拒めないとか、ロマンチックな伝統を物語や映画で見ることも多いです。
神話の影響が強いと思いますが、ヨーロッパではとくに神聖な木とされ、幸運を呼ぶ特別な木と伝承されてきました。
地に根を下ろさないことや、粘り気のある果実をもつエーテル的な側面、常緑という植生も絡めて、東西を問わず神が宿る木と考えられてきました。
古代ケルト族の神官ドルイドは、やどりぎの下で聖なる儀式を行っていたと伝えられています。もっとも神聖視されているのはオークの木に宿るもので、なにより珍重されていました。
スノッリ・ストゥルルソンは1220年ごろのアイスランドの詩人。
誌の教本「エッダ」に記されている北欧神話にやどりぎが登場します。
神々の王オーディンの息子、光の神バルドルは
母神フリッグが四大精霊と交わした契約によって
いかなるものにも傷つけられない存在となります。
ただヤドリギだけは「小さくて幼いもの」という理由で
契約から外されていました。
この秘密を知った、いたずら好きのロキ神は
光の神バルドルの兄弟である闇の神ホズルをそそのかし
ヤドリギの矢をバルドルに向けて射らせました。
ヤドリギの矢によってバルドルは死にました。
バルドルはこの世の終わりの日に再臨する救世主でした。
北欧では冬至祭でバルドル人形とヤドリギを
火のなかに投げ入れ救世主の再臨を願う儀式があります。
バルドルはヤドリギとともに冥界に落ちてのち
再生することをあらわす神の象徴です。
こうしてヤドリギの下を通るときは争いをしない
愛に満ちた口づけを交わすのみ、と定められました。
光の神バルドルと、闇の神ホズル、光と闇の均衡を崩すロキ神の三つ巴は、世界を分岐、創出するクリエイト・システムのようです。
光と影が、互いににらめっこした膠着状態では、なんにも生まれることはありません。互いを貫き、アンバランスな状態をつくりつつ、もとに戻ろうとする力によって、うごきがはじまり、生まれたり死んだり、つくったり破壊したりという世界線が登場します。
光の神を傷つけないと契約を交わした相手は四大精霊、火と風と水と土の精霊です。
契約などしなくとも、基本、上位存在である神々を傷つけることはできないと思いますが、神が受肉したなら話は別でしょう。
光の神バルドルは、やどりぎに貫かれて肉体が死ぬという貴重な経験を地上で獲得したという風にも読めます。
神仙や精霊たちが創造降下することを「自己分割してたましいを増やすこと」と考えてみます。
火元素界をぬけて風にのり、途中水の精霊と融合すれば、雨となり雪となって、地上に降り注ぐこともできます。
幹や茎が空洞(うつほ)になっている植物などは、分岐した神々のスピリットを受け入れ、地上に適応できるまで胞衣として機能し、まもり育みながら、やがて花や果実を結実させます。
うつほのいれものに宿った魂は胞衣のなかで枝をのばし、分岐がはじまり、冬期間のじっとしてうごかないあいだに、スピリットを殖やしていると想像しています。
やどりぎは、植物界のなかで唯一光の神を貫くことができたエーテル梯子ですから、地に根をはる仲間を元素界、神仙界につなぐ重要なお役目を引き受けている、からの寄生木形態なのではないかな、と。
金の枝
イギリスの社会人類学者、ジェームズ・フレイザーが書いた「金枝篇」は
神話や呪術、信仰に関する研究書です。
タイトルになった金枝はやどりぎのことで、イタリアの小さな村の聖なる樹(やどりぎ)のお話は、「祭司殺し」という異名とともに有名になりました。
金枝は誰も折ることを許されないきまりがありましたが、ひとつだけ例外があり、逃亡奴隷は折ることが許されていました。
この聖所には森の王と呼ばれる祭司がいて、代々、逃亡奴隷だけがこの職につく事ができました。
ただ森の王になるには二つの条件があり、ひとつは聖なる森の金枝を折ってもってくること。
もうひとつは現在の森の王と戦って祭司を殺すことでした。
金枝篇の舞台であるこの森には聖なるネミ湖があり、月の女神ダイアナ(ディアーナ)の聖所とされていました。
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「金枝篇」ジェームズ・フレイザー
ネミの聖なる森におけるディアーナ崇拝は、太古から続く重要なものであった。
彼女は森の女王、野生動物や家畜の女神、また収穫物の女神として崇拝され、聖火は聖域にある円形の神殿で絶えず燃やされていた。
彼は明らかに〈森の王〉という称号の下にディアーナに仕えた祭司達の系譜の神話的祖先でありその原型であった。
ネミの森にある一本の美しいブナの木をディアーナの化身として崇拝したが、ウィルビウスのように祭司達は、決まってその後継者達の剣で殺されるという悲劇的最期を迎えるのである。
ネミの聖域で発見された双頭の半身像は恐らく〈森の王〉と彼を殺した後継者が一体化された像である。
イタリア・ネミの森に伝わる伝統の下地はギリシャ神話によって伝えられています。
アルテミスとヒッポリュトスが地球を去るときに残していった「祭司殺し」のひな型は、彼らの魂クラスターが天界への戻り道を忘れないよう設定した、秘密の通路のように感じます。
月の女神ディアーナ(ダイアナ)はアルテミスと習合され、初代祭司の神話的祖先であるウィルビウスは、アルテミスと森で暮らしていた英雄テセウス王の息子、ヒッポリュトスです。
またしてもギリシャ神話の複雑系、馴染みのない名前の響きもあいまって混乱するのを回避するため、ちょっと整理します。
女神アルテミス=月の女神ディアーナ(ダイアナ)=地母神キュベレの可能性が大きい古い時代の神。
過去記事よもぎに妄想力逞しい考察を綴っています。
初代祭司の神話的祖先であるウィルビウス=父王テセウスの呪いで馬に轢かれて死んだヒッポリュトス。
アルテミスが死んでしまったヒッポリュトスを生き返らせてほしいと頼み込んだのは、双子の兄弟アポロンの息子、アスクレピオスでした。
はたしてアスクレピオスはヒッポリュトスの再生に成功し、ウィルビウスと名前を変えたヒッポリュトスはアルテミスとともにネミの森に隠れ、アルテミスを月の女神ダイアナとして信仰する共同体を創設します。
新しい時代の神王ゼウス(というルール)は、受肉者における死と生の境界線を明確かつ厳格なものとして固定するのが命題です。
受肉者の世界線をゆるぎなく固定するため、ヒッポリュトスを生き返らせたことを許すわけにはいかず、アルテミスとウィルビウスはネミの森に隠れて、秘儀を伝承していたのではないかな、と。
逃亡奴隷だけが次代の祭司にチャレンジできるという設定は、新しい時代のルールに隷属しない精神をもっているか否かで、まずはふるいにかけられた、ということではないかと思います。
森の王、祭司にチャレンジ!は、自らの意志と命を供儀として臨み、死と再生を往来できる次元間の秘密の通路を、共有するにふさわしいものだけに開示することが許された、イニシエーションのようなものだったのではないかと想像しています。
同じ神話元型をくりかえすことで、型共鳴が起こり、同じ系譜の神々(星々)は地上との接点をもちつづけることができたのではないかな、と。
「金枝篇」は世界中に伝承されてきた類感呪術、感染呪術などを収載し、その信仰のもとになった神話的背景を照合しつつ、まとめられた民俗学、神話学、宗教学の基本書として有名です。
いま日本で大流行の呪術廻戦(マンガ、アニメ)と金枝篇は同じような匂いがすると感じるのは個人的偏見と思いますが、主人公の虎杖という名前は、西洋文明の礎となった石の建造物をことごとく侵入して壊してしまう野草イタドリ(スッカンポ)の名前で、つい興味をもって見てしまいました。
イタドリは世界の侵略的外来種ワースト100 (IUCN, 2000) 選定種の1つでもある。イタドリは生長が早く日本からヨーロッパに導入されて土壌侵食の防止や、家畜の餌に利用された。19世紀には、フィリップ・フランツ・フォン・シーボルトによって観賞用としてヨーロッパへ持ち込まれて外来種となり、特にイギリスでは旺盛な繁殖力から在来種の植生を脅かすうえ、コンクリートやアスファルトを突き破るなどの被害が出ている。
東アジア原産の虎杖は、西洋文明の石文化にまもられてきた秘儀に踏みこみ、新時代のひな型として、あたらしい神話を生み出すハーブのひとつ、(あるいは切り込み隊長)なのかもしれません。
やどりぎが光の神をつらぬき、地上界と天界をつなぐ梯子になったように、イタドリは鉱物界をつらぬき、地に堕ちた光と影の膠着状態に、うごきを生みだそうとしているのではないかな、と。
☆☆☆
お読みくださりありがとうございました。
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