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マークの大冒険 フランス革命編 | もうひとつのフランス史 ピラミッドの隠し部屋


ナポレオンは軍を率い、エジプトに赴いた。島国である英国は、物資のスタミナに乏しかった。そこで、彼は英国が支配するエジプトを制圧することで補給ルートを断ち、敵国の疲弊を狙ったのである。また、この遠征はただの軍事遠征ではなく、151名の学者たちを伴った学術研究としての側面も持ち合わせた大遠征であった。当時、考古遺物や美術品に通ずることは、上流階級の間では一種のステータスとされていた。ナポレオンもそれに溢れず、自身のステータスの高さを示そうとしていたのである。


ピラミッドとマーク



1798年、ギザ・大ピラミッド___。



マークとナポレオン一向は、入口からピラミッドの大回廊を抜け、王の間に来ていた。

「あの狭い階段を潜り抜けて広間に入ってはみたものの、何もないんだな。全くの空っぽだ」

ナポレオンがそうぼやいた。

「既に盗掘の被害に遭っているんだ、古代にね。これだけ目立つ建物だ。仕方ないことだと言える。だから後代の王たちは、ナイル西岸の砂漠地帯に遺骸と宝物を隠したんだ。それは王家の谷と呼ばれている」

「ほう、なるほどな」

「まあ、これだけだと少し物足りないだろうから、最後にトトの隠し部屋へとキミを特別に案内しよう。だが、キミ以外の人間はここで引き返すことが条件だ」

「分かった。お前ら、下がってよい。ピラミッド見学は終わりだ。外で待機していろ」

「ありがとう。トトの隠し部屋はこの王の間より上、先ほど通った大回廊の真上に位置する。さあ、案内しよう」

マークは王の間の壁の一部を叩いていく。叩く場所が毎度異なり、何か規則性があるようだ。すると、天井から轟音が鳴り響き、足場も揺れた。

「おいおい、大丈夫なのか?崩れるんじゃないだろうな?」

「心配ない」

轟音が鳴り止むと、彼らの前にはいにしえのエレベーターが現れた。

「さあ、これに乗ろう」

「何だこれは?どうやって動いてる?」

「ピラミッドの外表面から吸収された太陽光の熱エネルギーさ」

いにしえの石製エレベーターを登り終えると、闇に包まれた廊下が広がっていた。

「行こう、この先だ」

「ああ」

蝋燭の影が壁面に二人の影を映している。二人は闇に飲み込まれるように奥へと進んでいった。

「ここだ。トトの隠し部屋。またの名をジェフティの宝物庫」


クフのピラミッド 2

トトの隠し部屋
大ピラミッドに存在すると伝承される伝説の間。現在でも発見されていないが、そもそもその存在すら怪しい。だが、近年、ニュートリノを使用した調査で大回廊の上部に30平方メートルほどの空間が発見された。まだこの空間の詳細は分かっていないが、王の間の上部に位置する重量軽減の間と同様に天井にかかる重量を拡散し、下部に位置する大回廊を守る意図で造られたものと考えられている。もしくは充填剤が詰められた空間である可能性も考えられる。


ジェフティ
トト神の古代エジプト語読み。トトは古代ギリシア語読みである。トトメスという名の王たちがいるが、これは「トトより生まれし者」の意である。トトはギリシア語で、メスは「生まれる」を意味するエジプト語なので、本来この王たちのことを「ジェフティメス」呼ばなければならないが、かつての研究者が混同して呼称し、それが浸透したため、間違いと分かっていても研究界隈では「トトメス」と呼ぶことが世界共通の習わしとなっている。


二人が入った部屋は、長方形上の巨大な間で、目の前には人の頭ほどの真っ黒な球体が台座の上で浮いていた。それがポツンと部屋の真ん中にあるだけで、それ以外は何もない場所だった。

「ここもこの台座以外、何もないのか?宝物庫なのではないのか?」

「これこそが宝物さ。神が人類に遺した叡智。世界の成り立ちの記録と、これまでの地球と人類と記録だよ。トトの黒き卵。またの名をブラックホールとも呼ぶ。宇宙の記録媒体さ。ボクらで言うところのパピルスと筆のようなものだ。まあ、記憶容量と書き込みスピードが桁外れに違うが」

「てっきり、山ほどの財宝と思っていた。少し期待はずれだな」

そう言いながらナポレオンが何気なく黒い球体に触れようとすると、マークは叫んだ。

「手を触れるな!」

「急に驚かせるな」

「キミも記録として取り込まれてしまうぞ」

「先に言え。心臓に悪い」

「キミの度胸なら、心臓は5つくらいあるだろう?」

「まさか」

「それより、これを覗き込んでみなよ。闇に何かが映るだろう?」

「分かった」

「どうだい?」

ナポレオンは、しばらく黒い球体を覗き込んでいた。だが、それと同時に少しふらつき始め、顔色が悪くなっていた。

「マーク、何だか気分が悪い。吐きそうだ」

「目を逸らしたらダメだ。見えるものも見えなくなってしまうよ?」

「ダメだ、頭が割れそうに痛い。マーク、少し横にならせてくれ」

ナポレオンはそう言うと、崩れるようにピラミッドの石畳に倒れ込んだ。

「それじゃ、ここの棺桶で一生横になりな。その方が世界は平和になるよ、......なんてね」

「......」

「おいおい、気絶してしまったか。やっぱり世界一の英雄ブオナパルテ(ナポレオンのイタリア語読み)でもダメだったか」

ナポレオンは意識を失い、その場で倒れ伏した。




翌朝____。




「昨晩、ピラミッドの中で恐ろしい夢を見た。よく覚えていないが、震えるほどのおぞましい夢だった。王の間に入ったところまではぼんやり覚えているのだが、それからその場で疲れからか居眠りしてしまったようでな。すまない、マーク。キミには迷惑をかけた。ここのところ、不慣れな遠征地で疲れが溜まっていたのかもしれない」

「内部は空気が薄いから、酸欠による気絶の可能性もあるかもね。タバコをやっている人は特に酸欠に陥りやすいから気をつけなければならないんだ。気にすることはないよ。今晩は、ゆっくり休んだらいい」

「そうさせてもらおう。それでは、諸君!ピラミッドをたつぞ。ここで必要以上に長居してしまった。先を急ごう!英国を必ずや打ち破るのだ!!」


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To Be Continued...




【特別コラム:ピラミッドについての謎】

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ピラミッドは、世界の七不思議で唯一残っている巨大建築である。この建物を巡って古くから様々な討論がされてきた。ここでは現実の研究に則した話をしていく。

ピラミッドはなぜ造られなくなったか?
ピラミッドが造られなくなったのは国力の低下ということは様々な場所でよく言われている。だが、実際は宗教の変容が真相である。ピラミッドは太陽神ラーの象徴物だったが、次第にオシリス信仰が浸透してくると、ピラミッドを造る必要性がなくなったというわけである。また、ピラミッドは太陽信仰と密接に関わっており、あのような四角錐状の独特な形をしている。これは死者が天界へ昇天していく死生観を体現していた。


墓として造られたピラミッド
ピラミッドは墓でないという説が一般では広く浸透しているが、これは大きな誤りである。ピラミッドは墓であると断言できる。下記、その事由述べていく。中王国時代の文学作品『シヌヘの物語』や、末期王朝時代にエジプトを訪れたギリシアの著述家ヘロドトスの『歴史』からは、ピラミッドが墓として建設されたことがはっきり読み取れる。また、アウグストゥス帝の時代に執政官を務めたガイウス ・ケスティウス・エプロという人物がピラミッドに憧れ、ローマにピラミッド型の墓を建造してした。これは現在でもローマで拝見ができる。また、100基以上確認されているエジプトの現存のピラミッドの一部から遺骸及びその断片が発見されている。こうした理由からピラミッドが墓として造られたことは確実である。また、90年代から日本でも大々的に紹介されるようになった公共事業論も同様に筋違いの説である。


神話世界のピラミッド
古代エジプト神話では、暗く湿った世界「ヌン(原初の海)」に突如太陽の光が照らされ、スポットライトのように当てられた部分からピラミッドが出現したという。どこからともなく現れたベヌウ(不死鳥フェニックスの原型)がピラミッドの頂上にとまり、鳴き声を発したことを機に世界が創造されていったと伝承されている。


クフ王の大ピラミッド
ギザに位置する最も巨大なピラミッド。メレルという名の現場監督らの指揮下で、約26年かけて建設された王墓。三角錐の形状は太陽信仰の光線をイメージしており、階段状の姿は王が天空に登っていく宗教観を体現している。ギザから約200km離れたトゥーラの石切り場からブロックをナイル経由で運搬し、建設が行われた。ピラミッドの建設期間は現場監督メレルが記した日誌から割り出すことができる。この日誌はエジプトのワディ・エル・ジャハルで発見され、メレルの日誌と呼ばれる。メレルは40人のピラミッド建設精鋭職人をまとめる現場監督で、石切り場のトゥーラからアケト・クフと呼ばれた現在のギザまで船で石材を運んだという。また、当時のエジプトでは家畜調査が年2回行われたが、この調査の13回目にピラミッドが完成したと記録されている。ここから26年という歳月が計算できる。加えて、古代ギリシアの歴史家ヘロドトスはエジプト旅行の際、ピラミッドが約20年かけて建造されたと記録している。これもメレルの記録を裏付ける。


ピラミッドテキスト
古代エジプトの葬送用文書の全てが死者の書というわけではない。その他にもピラミッド・テキストやコフィン・テキストなどが存在し、これらは明確に分けられている。ピラミッド・テキストは759章、コフィン・テキストは1185章、死者の書は192章から成る。死者の書は成立が遅く、章も少なくコンパクトにされている。ピラミッド・テキストに関しては、研究の発展と進歩により、従来の759章に加算し、近年では約800章と分類される。ピラミッド・テキスト及びコフィン・テキストが権力者を中心とした特別な人間向けであるのに対し、死者の書は敷居が下がって一般人向けにも対応した内容となっている。混同されがちだが、明確に異なる。古代エジプト人は、死後の永遠を手にするためには冥界での長く険しい旅を乗り越える必要があると考えていた。旅の道中には14の丘があり、これを全て通過しなくてはならなかった。丘をひとつずつ通過していくことで、生前の失われた能力や特別な魔力を得ていくとされた。これを全て突破すると永遠の生命を手にする完全体となった。


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ピラミッドのコイン
今回の表紙にしたピラミッドを描いたコインは、フランス革命期にモネロン商会が発行した政府非公認の代用貨である。1792年発行の2ソル青銅貨で、ESSAI(エッセイ)と呼ばれる試作貨幣にあたる。発行者はフランスのモネロン商会だが、製造は英国のソーホー造幣所が請け負った。フランス革命の動乱でフランス政府は軍備拡張の方針を採り、小額貨幣の発行を抑制した。そこで各地の自治体や商会が、釣銭不足を解消するための代用貨幣を発行した。これをトークンと呼ぶ。特徴として制作元や地方性が反映されたデザイン職場の強い仕上がりになっている。本貨はピラミッドを描いた珍しいデザインで、反対面には王笏を折るヘラクレスが描かれている。王権の象徴である王笏の破壊は、すなわち王制の終焉を意味している。


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フランス革命
1789年の民衆によるバスティーユ牢獄襲撃から、1804年のナポレオン1世が皇帝に即位して動乱を収束した約15年間を指す。第三身分の民衆が王侯貴族の対して反旗を翻した身分闘争で、王制と共和制何度も繰り返した後にフランスは共和国の道を選んだ。



Shelk 🦋


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