【要約】戦後70年間の東大卒女性の人生 ―東京大学女子卒業生同窓会さつき会の発行物の分析から─
女性が高学歴になることは「いいこと」なのか。言い換えると、女性は家から出てきて「よかった」のか。東大に女性が入ったことは「よかった」のか。
私がこれから東大卒女性として生きていくなら、この問いから逃げ続けられない。それを卒論で書いた。2018年のことだ。ありがたくも、その年の東京大学文学部社会学研究室でクローネ賞を受賞することができた。
2019年、2020年と経ち、上野さんの祝辞、東大女子お断りサークルの禁止など、今まで目を背けて上だけ見ていた状態が引き続き少しずつ、変わっている。
一方で、女性の社会進出に対して、高学歴化、高所得化に対してバックラッシュが起きかけているとも感じる。未婚化・晩婚化が進めば当然、婚姻率9割の外れ値的な一時期の社会構造に戻ることを夢見る層が現れることは仕方ないだろう。所得が上がらなくなったら不安にもなる。
私は変わらず、女性が学歴・キャリアを積み上げることには個人的にも、社会的にも意義があると主張し続けたい。最近社会人としてもこの議論をすることが多く、自分の卒論に興味を持ってくれる方が多かったので、アクセスしやすい場所に置いておこうと思ったのがこのnoteの動機である。流石に10万字を送りつける訳にも行かない。どこまで公開していいか検討中ではあるが、要約をまず置いてみた。
女性が高学歴化することの社会的意義について、自分の先輩たちの人生と社会の変化の波を合わせて振り返っている。2年前の拙論ながら、ここに載せておくことで出先でも自分で確認したり、かいつまんで人に紹介したりできるようにしたいと思う。(振り返ると個人の問題にとどまらない価値はあったよねって話で、今東大に価値あるよねとか他の大学どうなのとかこの個人がって話は範囲ではないです)
要約の要約&思い
本論文では戦後70年間で大卒女性が教育・労働に関して参加資格・内容の順に「男並み化」していった背景を踏まえ、東大卒女性が、高学歴女性に許された狭い進路の先で、法律の整備や社内の女性登用を推し進め、世間一般の女性に対しても労働市場への活路を拓いてきたことを再評価し、女性が高学歴を手にすることの社会的価値を主張した。
研究手法としては関連文献の分析の他、東大卒女性の同窓会であるさつき会の約60年分の発行物の分析を行い、世代ごとに受験・就活・結婚・介護など各ライフイベントでどのような状況に置かれ、どのような価値判断を行い、何を成し得てきたかをまとめた。これにより、政治・経済・文化的背景が東大卒女性という一定の能力の保証されたカテゴリ内に世代特性を生んだこと、また一方で常に彼らがある種先導者としての機能を果たしていたことを当事者の視点から明らかにした。
元々ジェンダーには関心があり、大学までは同等に扱われる男女が企業では意識的・無意識的に差別される現状にも疑念を抱いていた。就職に際して東大卒女性の一人として自信と使命感を言語化したいと思い、テーマを設定した。女性の労働は教育・法制度・経済・文化など広範囲に切り口を持たなければ全体像を把握しきれない複雑な問題であり、非常にやりがいがあった。また、当事者の定性的情報を集めるにあたり、近年新規会員数が伸びていないさつき会だけでは資料が足りず、若い世代ほど集めることに苦労した。
先達の偉大さを知ってつい筆に熱のこもった箇所も多かったが、次は私自身が前例を作る側となり、より自由な働き方を実現させるという大志を抱いている。
要約
本論文では、戦後以降東大をはじめとする高等教育機関を卒業した高学歴女性の労働環境が、いかに社会制度に規定を受け、またその中でいかに自ら社会制度を変革する側に回ってきたかを、東大卒女性の同窓会であるさつき会の発行してきた資料を中心に、当事者の視点から明らかにしようとした。 大学教育や学歴社会についての先行研究は数多いが、高学歴女性のライフコースの変遷における個人と社会制度の相互関係について考察したものは少なく、さらに結成46年を迎えるさつき会が発行してきた半世紀分の資料を分析したものは他に見当たらなかった。
本論文の前半では先行研究の分析によって高学歴女性の誕生から現在までの社会的背景を描き、後半では第1期から連なる東大卒女性らの手記である東大卒女子学生同窓会さつき会の76年分の発行物を読み解き、高学歴女性の世代特異性や社会制度に左右されない共通性を明らかにした。
その中でも、戦後から男女雇用機会均等法制定まで、制定後から現在まで、そして働き方改革が進むと思われるこれからという3つの時間軸を想定した。
第1章では高学歴女性の社会進出が社会制度の規定を受けていたことを示すため、政策(1-1)、経済(1-2)、文化(1-3)など、包括的視点から社会背景をまとめた。
これを踏まえて第2章では、組織としてのさつき会が3つの時間軸において果たす役割を述べ、現在は高学歴女性の社会進出がある程度果たされて活動が鎮静しつつあるが、今後さらに労働の個人化が進めば高スキル保持者の連帯の場、共感の場として再び重要性を増すという見方を示した。
そしてさつき会が1961年から56年間東大卒女性の近況報告や回想を集めてきた発行物などを中心に、当事者の記録による世代間の生き方の特異性や共通性を考察した。女性比率が1割までの時代の東大卒女性らは能力を活かす場が社会に用意されておらず、意欲ある卒業生らの大多数が比較的門戸が開かれていた省庁など社会規定に影響を持つ分野に進んだ結果、国際社会の女性支援の波に乗って男女雇用機会均等法や後続する女性の労働市場進出を促す法案を生み、社会規定を再規定するに至った。以降高学歴女性が社会で抱える課題は雇用ではなく就業継続へとフェーズを移し、夫婦別姓訴訟など女性の生き方そのものに関する課題に注目する東大卒女性が多い。
いずれも高学歴女性が直面したガラスの天井を押し上げる努力によって、学歴に関係なく日本社会に生きる女性やその家族全体に影響を及ぼす社会的価値の非常に高い功績である。
日本の女性の高学歴化と労働力化は常に形式、質の順で「男並み化」することで進んできた。また労働力化の面では、はじめ社会的規定の影響を受けていた高学歴女性らが少数派ながら社会を規定する権力を行使する地位に就いたことで実現した。この少数エリートによる変革は高学歴卒者のみならず、波及的に社会全体に人生の選択肢を増やすものであった。
しかし男並み化は限界が見えており、生産労働と再生産労働が個人の中でバランスが取られるべきだとされる中、女性が社会のあらゆる分野で少数派から脱することが求められている。
男女共に生きやすい社会を目指す上で、社会規定力を持つ手段として女性が高学歴を得ることには個人、社会共に非常にメリットが大きい。
🌷目次と要約
卒論noteに公開し終えました。
どこからでも参照できるように各章のtopicsも追記しました。
■第1章1-1 女性に開かれた高等教育
🌱教育論がいかに非対称になりうるか思わずにはいられない
・明治の女子教育「良妻賢母」
・共学化:男女平等教育は男子が基準、女子が「男並み化」
・60年代の女子大学無用論〜女子学生亡国論の議論
https://note.com/shel_m49/n/n9e1ee68927e2
■第1章1-2 女性と日本の労働市場
🌱後半は労働市場についてまとめているのでビジネスパーソンもなるほどと思えそう
・女性の就業規定をめぐる法改正と性役割分業化
・結婚退職制と女子若年定年制など、女性は「家族制度の維持」を理由に正規雇用から排除されてきた
・男女雇用機会均等法の裏側(これが興味深い)
・戦後日本型生存保障システムの成立と崩壊
・現代の「働き方改革」の必然性
https://note.com/shel_m49/n/n59a86dad5a07
■第1章1-3 高学歴女性が労働市場で直面する課題
🌱どの階層にもガラスの天井があることを思い知らされる章
・学歴社会とは
・女性の学歴と就業傾向
・高学歴ワーキングプア最大勢力は英語担当の非常勤講師
・出世の鍵は「競争移動」と「庇護移動」
https://note.com/shel_m49/n/ndbefec7b5383
■第2章2-1 東京大学とさつき会と女子学生の70年間
🌱さつき会のことを知りたい人向け
・東大女子学生同窓会「さつき会」について
・組織論:「第一次集団」「第二次集団」の性質
・これからのさつき会の姿
https://note.com/shel_m49/n/na6de8336336b
■第2章2-2-1 東京大学と女子学生
🌱ひたすらソースから東大内の女子学生の立場について概観
・東大史の中の東大女子(女子寮、安保、入試改革)
・女子比率10%までの40年と20%(2004)までの20年
https://note.com/shel_m49/n/n097779deae87
■第2章2-2-2 東大卒女性のライフストーリー
🌱ここが100億%おもしろい、はず!どの文献にもない、はず!
・50年代卒(第1世代)〜10年卒までの世代別特性
・受験、大学、就活、結婚、育児、介護の時系列回想
・とにかく生々しいエピソード
https://note.com/shel_m49/n/nafabdfcfd790
■第2章2-2-4 東大を志し、東大で志す
🌱ここは意志込み。ノブレスオブリージュ。
・日本における女性の地位向上のターニングポイントと東大卒女性の活躍
・東大卒であることへの自負と重荷
https://note.com/shel_m49/n/n07de7c30ac38
■第3章 高学歴女性の現状と展望
🌷まとめと考察の章
・女性の高学歴化・労働力化は「男並み化」の反復の結果
・東大卒女性は「市民的エリート」を体現してきた
・ここからはどうしたって男女の働き方改革が必要
・高学歴女性の果たしてきた社会的価値と社会的使命
https://note.com/shel_m49/n/ne4d0f377dd1d
↑インタビュー除いて本文で98,036字なので、結論だけ読みたい方は第3章だけで問題ないと思います。読んでて「ん?そんなことあるかい」と思ったら各章まで✈️
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