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小さな山の中で家具職人をしている若者の話

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職人大集合!!/小さな山の中で家具職人をしている若者の話[15]

職人大集合!!/小さな山の中で家具職人をしている若者の話[15]

前回の話↑

プチストライキの話↑

シショーの話↑

年始早々死にかけた私は、『もうこんな会社辞めてやる!!』と思った。

でもあと一年、あと一年だけ頑張ろう。

ここで吸収できるもの全て盗んで次のステージに進もう。
そう決意した。

心身共に疲れ切っていたけど、仕事は待ってくれず、次の納品が控えていた。

私は仕事の途中でプチストライキをしたので少しだけ回復していたけど、今度はシショーが倒れた

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バウムクーヘン事件/小さな山の中で家具職人をしている若者の話[14]

バウムクーヘン事件/小さな山の中で家具職人をしている若者の話[14]

↑前の話

工房には沢山の虫がいるけれど、動物もよく出没する。

工房までの道中は山道なので、暗くなった帰り道では鹿にも出会う。

山の食糧が足りないのか、近頃は結構村の方まで降りてきてるみたい…。

大抵は子鹿と雌鹿、車が通るとびっくりして逃げていくのだけど、時々角が立派な大きな雄鹿もいる。
車で近づいてもこちらをじっと見つめて逃げない時も。
減速しながら、『おーい、ぶつかっちゃうよ〜』と思いな

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クリスマスの予定はいつ頃決めるものなの?/小さな山の中で家具職人をしている若者の話[13]

クリスマスの予定はいつ頃決めるものなの?/小さな山の中で家具職人をしている若者の話[13]

↑前の話

先日、仕事で大学の授業を手伝う機会があった。
ある学生の女の子がキラキラした目で私にこう言った。
「先生!クリスマスは何する予定ですか?私は恋人とホールケーキをひとり一つずつ食べるんです!」

何それ可愛い!!と思って思わず笑みがこぼれた。

クリスマスに前もって予定を立てるということをいつからしなくなったのだろう。
ハロウィンだってクリスマスだって私の仕事にとっては何の関係もない。平

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小さな山の中で家具職人をしている若者の話【12】シショーという上司

小さな山の中で家具職人をしている若者の話【12】シショーという上司

前の話↓

私がどうしてこんな過酷な生活を続けているのか。
職場環境は劣悪で、ハードワークに安月給。
一人地元を離れて山の中で頑張る理由。

その理由の一つにシショーの人柄が好きだということがある。

もちろん、仕事内容が面白いとか、自分が成長できるとか、色々な理由があるのだけど、一緒に働く人がどんな人か、というのはとても重要な問題だ。

前の会社でも先輩、上司を始め同期のことも大好きで、辞めた今

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小さな山の中で家具職人をしている若者の話【11】愛車はサンバーの軽トラ

小さな山の中で家具職人をしている若者の話【11】愛車はサンバーの軽トラ

前の話↓

山の中にある工房へ行く手段は限られている。
バイクか、車か。

水上を走るということさえなければもう少し幅も広がるだろうが、あそこを歩いて渡るのはかなり厄介。

毎日長靴かしらね。

更に工房があるのは、小さな集落の奥の山。
工房から徒歩15分ほどの場所にバス停もあるけれど、本数はとても少ない。

私は原付も持っているので、暖かい季節は原付で通ったりもする。
ちょっと増水したらもう無理

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小さな山の中で家具職人をしている若者の話⑩嫌いな虫を好きになる-おまけ-

小さな山の中で家具職人をしている若者の話⑩嫌いな虫を好きになる-おまけ-

前の話↓

シティで暮らしていると、世界にはこんなに色んな生き物がいるんだってことを忘れてしまう。

家の中に迷い込んでしまった虫はなるべく殺したくない。
捕まえて外に逃せられたらベスト。
でも捕まえられない虫は殺すしかない。

ごめん!!ってめっちゃ思うし、殺虫剤かけられて苦しんでる姿を見るのがすごい辛い。

昔からそう思っていたんだけど、ここで虫と触れ合う時間が増えてよりそう思うようになった。

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小さな山の中で家具職人をしている若者の話⑨嫌いな虫を好きになる-後編-

小さな山の中で家具職人をしている若者の話⑨嫌いな虫を好きになる-後編-

前の話↓

私がまだ片手で数えられる年齢だった頃、姉が沢山の蟻を捕まえてきては私に投げつけるという遊びをしていて号泣した記憶がある。

その頃は虫の中で蟻が最も怖かった。

どうして飛びもしないあんなに小さな生き物に、そんなに恐怖心を抱いていたのか今となっては分からない。

もっと小さかった時、母と外で遊んでいたら口の中にハエが飛び込んできて号泣した記憶もある。

ハエは苦かった。

小さい頃の記

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小さな山の中で家具職人をしている若者の話⑧嫌いな虫を好きになる-前編-

小さな山の中で家具職人をしている若者の話⑧嫌いな虫を好きになる-前編-

前の話↓

ここで働くと決めた時、不安要素の一つに"虫"があった。

前回ヒルと格闘したエピソードを紹介したが、山の中にはそれ以外にも様々な虫がいる。

私は虫が大嫌い。
特に羽音が大嫌い。

耳元でブン!となるだけで、叫び声をあげてしまう。
毎日泣きべそをかきたい気持ちになったけど、ここで頑張ると決めたので逃げるわけにはいかなかった。

ここでは、ただ歩いているだけで小虫を吸い込んでしまう。

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小さな山の中で家具職人をしている若者の話⑦梅雨時の対処法-後編-洗礼を受ける

小さな山の中で家具職人をしている若者の話⑦梅雨時の対処法-後編-洗礼を受ける

前の話↓

さて、二つ目の項目
"天敵ヒルの襲来"について。

ここに来るまでヒルと対面した事が無かった私は、ヒルがそもそもどんな姿をしているのかもよくわかっていなかった。

ここに来て2ヶ月ほど経ち豪雨が降った日の翌朝、川は増水し渡る事ができなかった。

「ちょっと探検してみるか。あっこから歩いて行ける道があるらしいねん。」
とシショーは言った。

探検とか言われると行きたくなってしまう。

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小さな山の中で家具職人をしている若者の話⑥梅雨時の対処法-前編-ついでに上司の武勇伝も対処

小さな山の中で家具職人をしている若者の話⑥梅雨時の対処法-前編-ついでに上司の武勇伝も対処

前の話↓

気温と共に湿度も上昇、本格的な夏の訪れを前に梅雨がやってくる。

山の中というのは、マイナスイオンがあるなんて言うけれど、本当に湿度が高い。

工房の湿度計は冬でも大体70%を超えているのだが、雨が降れば振り切ってしまうので、梅雨は常に”計測不能”である。

そんな梅雨時に気をつけなければいけないこと。

一、豪雨による川の氾濫
二、天敵ヒルの襲来

まあ、襲来というのは少し盛りすぎか

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小さな山の中で家具職人をしている若者の話⑤ 夜に聞いた叫び声の正体は

小さな山の中で家具職人をしている若者の話⑤ 夜に聞いた叫び声の正体は

前の話↓

田舎に住んでいる人ならわかると思うが、夜は案外うるさい。
閑静な住宅街とは都会のことだけである。

何がうるさいって、虫や動物の鳴き声が。
蛙の大合唱からヒグラシやら、鈴虫やら…。

季節を感じられて私は好き。
あと、寂しくないしね。

昼間ももちろんいろんな声が聞こえる。
セミとか鳥の鳴き声とか。

フィーヨゥrrrrr
と鳴く鳥がいる。

…(笑)

音を言語化するって難しいなあ。

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小さな山の中で家具職人をしている若者の話④建物というか、半分外

小さな山の中で家具職人をしている若者の話④建物というか、半分外

前の話↓

なんか、イケてる

と思った工房は、単管で作られており、よく見ると一部壁がブルーシートであった。
単管にブルーシートを紐で括り付けただけの壁。
風が吹くとその青い壁は揺れ、隙間からは外が見えている。

工房の中は2本のでかい木が突き抜けており、その木を囲むように壁があった。つまり見上げれば、屋根にはその木より一回り大きい穴が開いている。
ここから雨が吹き込むことは容易に想像できる。

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小さな山の中で家具職人をしている若者の話③電波無し、水道無し、トイレ無しの家具工房。

小さな山の中で家具職人をしている若者の話③電波無し、水道無し、トイレ無しの家具工房。

前の話↓

新幹線、在来線を乗り継ぎ工房の最寄駅まで到着した私はシショーと出会う。

シショー、私の師匠となるこの人は長髪を後ろで束ね、長い顎髭を生やし、丸眼鏡をかけている、小柄の男だ。
工房へ行くのに車で迎えに来てくれた。
シャンパン色の自動車に乗り込み挨拶を済ます。

シショーは実年齢よりも大分若く見える、優しそうな口調なので私はほっとした。

「ここから工場までは30分くらいかかるしな〜。そ

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小さな山の中で家具職人をしている若者の話②面接に行った二日後に…

小さな山の中で家具職人をしている若者の話②面接に行った二日後に…

前の話↓

今の会社はインスタで見つけた。 #スタッフ募集 を検索して、カフェや美容室や様々な業種の投稿がある中から偶々。
我ながらよく見つけたなと思う。

工房はA市にあるが、事務所は東京にもあるということで、とりあえず面接をすることに。

A市は西の観光名所。私も一度旅行で行ったことがある。憧れの街だ。
そんな街なら一人東京を離れても素敵ライフが待っているかもしれない。
少し胸が躍った。

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