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元祖スキーの苦手キャラ「ロケットけんちゃん」『雪星でスキー対決』/スキー好き?嫌い!②

藤子ワールドのキャラクターはなぜかほとんどが運動音痴で、特に夏の水泳と冬のスキーについては、誰しも不得意としている。その代表格がのび太で、海に入れば溺れてしまうし、スキーを滑ればすぐに転んでしまう。

もちろんのび太だけでなく、最初からいきなり泳げたりスキーを滑れる人も少ないだろうから、みな一定の練習をして体得していくものである。しかし、のび太は人一倍運動神経が鈍く、いっこうにうまくならないので、すぐに嫌気を差して練習を止めてしまうのである。

加えて絶対に滑れるようになってやる! といった根性もないし、練習の様子を見られたくないという変なプライドも持ち合わせている。

そんなことで、いつまで経っても泳いだり滑ったりできないという訳なのだ。


さて、そんなスキー苦手キャラはいつから登場しているのだろうか? そんな疑問を持ったので、改めて藤子初期作品まで遡っていくと、とある作品に行きついた。

本稿では、そんな「元祖スキー苦手」キャラのお話について、見ていく。

なお、これまで書いてきたスキー苦手エピソードを扱った記事を並べておくので、ご興味ある方は是非飛んでみてください。


本稿では1960年に連載がスタートした初期の連載作品「ロケットけんちゃん」から、その中の『雪星でスキー対決』というお話を取り上げる。

「ロケットけんちゃん」って何? という方がほとんどかと思うので、かつて概略のわかる記事を書いたので、こちらをご参照いただきたい。


「ロケットけんちゃん」『雪星でスキー対決』
「小学二年生」1962年1月号&1月号別冊付録

「ロケットけんちゃん」は、1960年度「小学一年生」、1961年度「小学二年生」、1962年度「小学三年生」と学年を繰り上がりつつ、約三年間連載された作品である。

本稿の『雪星でスキー対決』は「小学二年生」の掲載作品になるのだが、この二年目の作品群については、原作者として久米みのる(穣)先生がクレジットされている。

つまりお話は久米先生考案ということであり、本作のけんちゃんのスキーが苦手という描写は、久米先生のアイディアであった可能性が高いように思われる。

スキーが苦手な主人公という設定は、久米先生が持ち込んだのかもしれないと考えると、何だかとても興味深いのである。


さて、以下では本作のストーリーを簡単に述べていきたい。

「ロケットけんちゃん」は基本的に「海の王子」型のSFアクションマンガに分類されるが、久米原作の「小学二年生」では、日常的な部分からお話が展開されるパターンが目につく。

本作ではけんちゃんと彼の冒険パートナーであるまりこちゃんが、明日スキーに行くというところから始まっていく。けんちゃんは「僕うまいんだぞ」とスキーを板を履いており、この時点では頼もしく見える。

この日突然気温が下がり始め、一晩中大雪が降り積もり、朝になると二階から何とか外にでられるほどに雪で埋まってしまっている。これは一大事・・と思うところだが、けんちゃんたちは「屋根の上でスキーができる」と喜んで、いきなりスキーを楽しむことに。

ところが、まりこちゃんは颯爽と滑っていくのに対して、けんちゃんはいきなり転んでしまう。昨晩の威勢の良さは一体何だったのか・・・?


そこへ超高速でスキーを滑らせていく人たちが現れる。ビルからビルへとジャンプする腕前でとても人間技とは思えない。二人は後を追うことにするが、けんちゃんはスキーを履かずに走り出すので、まりこから「どうしてスキーを履かないの」と突っ込まれている。

僕の調べた限りだと、ここが藤子作品で初めて登場したスキーが苦手という描写であるようだ。


けんちゃんとまりこちゃんに、大田博士(=友人よしこちゃんの父親)が話しかけてくる。もの凄い腕前のスキープレイヤーたちを観察した結果、彼らは地球人ではなく、雪と氷に包まれた「雪星」の雪星人であるという。

狙いは明らかではないが、地球に大雪を降らせたのは彼らで間違いなく、捕まえて調べてみようということになる。

あっさりとけんちゃんの放ったロープに引っ掛かって、プレイヤー二人を転倒させることに成功。彼らが履いているのは、スキー板の後方からジェットが吹き出すジェットスキーであることが判明する。

ジェットスキーをけんちゃんたちが使ってみると、普通のスキーよりも簡単に、しかも空を飛ぶようにスキーをすることができる。これさえあれば、スキーの苦手が返上できそうだ。


お話はここから、雪星にけんちゃんとまりこちゃんが連れて行かれることになり、さらには雪星の王からスキーとスケートの競争に出場して、優勝することを命じられてしまう。

雪星では「スキーやスケートが上手い者が偉い」というルールとなっており、競争の優勝者を抱えた者が王様となるしきたりがある。

国王の座を脅かすマースという悪大臣がおり、どうしても勝たねばならないので、地球に有力選手を送って練習させていたのだという。

なぜ雪星で特訓させなかったのかはかなり疑問だが、ともかくも、練習中の選手をけんちゃんたちが怪我をさせたので、出場者がいなくなって困っているのだと説明する。

そこで、けんちゃんたちに選手になって欲しいということで、地球から連れてきたというのである。なかなかに強引な展開だが、これはこれでヨシ。

ちなみに悪大臣のマースは、目が互い違いになっていて口のひん曲がったいかにも悪そうな面構え。昼間からウイスキーを飲んでいるようで、確かにこの手の人物が権力を握るのは問題だろう。


競争会場は「高い山の上」。スキーで始まり、途中でスケートとなり、最後はロケットそりの競争となる。「三種混合」競技であるようだ。

スキーに全く自信のないけんちゃんは、当日になって分厚い「スキーのすべりかた」という参考書を熱心に読んでいるが、「急にそんなの読んでも遅いわ」とまりこちゃんに、ツッコミを入れられている。

この二人は、ボケ=けんちゃん、ツッコミ=まりこちゃんという関係性であるようだ・・・。


結局「仕方がない、やるだけやってみよう」と、けんちゃんは開き直ってレースに参加する。この「やるだけやってみよう」は、普段は物怖じするタイプが、勇気ある行動を取る時に発せされるセリフで、藤子作品ではお馴染みのものとなっている。

このセリフも久米先生の発案だとすると、これまた藤子先生への大きな影響を与えた言葉だと言えるのかもしれない。


スキーのレースでは、けんちゃんは「下手くそ」とマースの手下に笑われるが、「下手くそとは何だ」と猛反発して、スキーの能力を開花させている。このあたりの負けん気の強さが、のび太やエリちゃんにあれば、きっとスキーもうまくなったに違いない・・・。

その後、スケート、ロケットそりと、レース種目が継がれていくが、最後はマースの部下に逆転負けを食らって、王さまの王冠が狙われてしまう。

しかしけんちゃんたちは、敵の替え玉作戦を見抜いて、間一髪マースの戴冠を阻止することができる。マースは皆に追われ、けんちゃんは「スポーツはもっと楽しくやりましょう」と王様にアドバイスを送るのであった。


元祖スキー嫌いのFキャラを探して見つけ出した「ロケットけんちゃん」だったが、スキーは苦手だったものの、根性と負けん気の強さと、うまい具合の開き直りによって、最終的にはスキー下手を返上してしまう。

その後のFキャラにありがちな、単なるダメ人間ではなかったようである。




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