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「ロケットけんちゃん」全37話の備忘録/初期SFヒーロー漫画①

非常に大まかに藤子先生の作家史を語ると、本格的に作家活動を始めた1954年から1959年までは短編や短期連載を中心に活躍していた時期となる。

1959年に「週刊少年サンデー」の創刊号から連載を開始した「海の王子」が大ヒットして、そこから学年誌を中心とした連載作品が次々と発表されるようになる。(読切はいったん姿を消す)

主に講談社と小学館の児童・幼児向け雑誌が主戦場となっていくのだが、奇しくも1960年4月に両社で始まった作品が、同時にヒットを飛ばす。それが、

「小学一年生」(小学館) → 「ロケットけんちゃん」
「たのしい一年生」(講談社) → 「てぶくろてっちゃん」

である。この辺の詳しいお話は下の記事にて。

「てぶくろてっちゃん」も「ロケットけんちゃん」も、学年が繰り上がって3年間連載されるのだが、「たのしい〇年生」が休刊となってしまい、ここで講談社での藤子先生の活動は終わりを告げる。

以後は小学館の雑誌をメインとして、次々と傑作が生みだされていくことになる。


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「ロケットけんちゃん」は、正確に言えば「幼稚園」の1960年春期増刊号で最初に発表された(『けんちゃん登場』)。小学校の入学準備号という位置づけの増刊である。

「幼稚園」でお披露目された「ロケットけんちゃん」は、「小学一年生」にて連載が本格的にスタートする。「つづきまんが」と銘打たれ、毎話次回へと繋がっていくような終わり方となっているのが特徴的だ。

この「つづきまんが」の概念は、「海の王子」の最初の頃、お話が地続きでずっと進んでいく展開を転用したものと思われる。イメージとしては、「ガリバー旅行記」や「80日間世界一周」のような冒険小説のスタイルを想像してもらうと良いかも知れない。

けんちゃんとまりこが、ひばり号という陸・海・空・宇宙と万能に飛べるロケットに乗って、世界中を旅していく展開となっていて、これが各話繋がっている。


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「小学一年生」では、1960年4・5・6月号が各話7~8頁のお話だが、7月号以降は本誌と別冊付録に分けて掲載されて、毎話40頁ほどの読み応えのあるエピソードが発表された。

主な見どころをざっと紹介していくと・・・

7月号『赤い星の少女』
初めて宇宙に飛び出しての大活躍。リリちゃん、犬のピピ、おもちゃ好きの王様や森のオバケなど、一気に多彩なキャラクターが登場してくる。

8月号『大男の国探検』
「ガリバー旅行記」現代版といった展開。

9月号『おかしな機械の国』
悪いロボットが敵役。ロボットの反乱という藤子先生の得意テーマである。

10月号『謎のひとさらい』
藤子作品お馴染みのモチーフである「誘拐」ネタが描かれる。ちなみに子供たちをさらっていくのは、宇宙人である。

11月号『空のギャング』
ひばり号が破壊され、新ロケットが登場する。飛行機博士や、ミミズク大王など、味方・敵キャラが魅力的。

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12月号『アフリカのさばく探検』
「海の王子」のゲストキャラだった鼻持ちならないスカンレーを模したキャラクターが登場して、けんちゃんたちを惑わせる。

1~3月号では本誌のみの掲載に戻って、毎話15頁で描かれる。

1月号『おばけ怪獣をたいじしろ」
F作品に時おり出てくるアフリカの原住民もの。

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2月号『西部のらんぼう者』
けんちゃんが保安官となって活躍するお話で、後の「ドラえもん」『ガンファイターのび太』などにも通じる。

3月号『ロケット競争』
「海の王子」の『ロケットオリンピック』と同様ネタ。レースよりも人命救助を優先する姿や、最後の大逆転など展開が似ている。そしてラストで、「小学二年生」にも続くという「次回予告」が付けられている。

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「小学二年生」となると、少し成長したけんちゃんとまりこちゃんが描かれている。そして本誌+別冊合わせて1話40頁前後のボリュームで、一つランクの上がった冒険が描かれる。

「小学二年生」では、原作に久米みのる氏を起用する盤石の構え。久米みのる(実)は、藤子先生の初期の絵物語「タップタップの冒険」「スーパー=キャッティ』などで既にコンビを組んだ仲で、本作の直前まで「ロケット=ボーイ」という作品で合作していた。

今となっては意外だが、「海の王子」も最初は原作者を付けていたし、まだ若かりし藤本先生は、外部の血を入れることに寛容であった。


久米氏のアイディアと藤子先生の絵柄の相性も良く、「小学二年生」掲載作品は内容面のバラエティーに富み、読み応えがある。毎回、分かりやすい敵が現れて、事件を起こし、けんちゃんたちが解決をしていく。

以下は簡単な見どころのご紹介・・。

1961年4月号『怪力ロボットゴリゴ』
巨大ロボットゴリゴが町で大暴れ。けんちゃんたちはロケットで倒すことに成功するがすぐに逃げられてしまう。追っていくと、ロボットを作った世界中の王様を狙う男が現れて、ロボット対ロケットの戦いに・・。

5月号『謎のチョウ怪人』
おじさんの太田博士が初登場。「海の王子」のチエノ博士のような役どころ。博士の娘よし子が、チョウ怪人に誘拐され、救助に向かうのだが・・。

6月号『怪物ガリモの恐怖』
地下鉄と銀行を襲う怪物ガリモ。一度は出し抜かれるが、大山博士のふくらし鉄を使って、ガリモのアジトである北海道の摩周湖へ。

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7月号『ドラゴン王あらわる』
強い磁石を使う「磁石クジラ」によって、次々と飛行機や船が引き寄せられる。クジラを操るドラゴン王を、けんちゃんたちは対峙することに。

8月号『赤いペンギンを追え』
エベレストの頂上で見つけた青いペンギン。ところが赤いペンギンとマンモスペンギンによって、攫われて、南極大陸へ。けんちゃんたち救出に向かう。

9月号『ふしぎなミットと野球ロボット』
野球をテーマとした変わり種のお話。巨人軍のナガシマも登場。こちらは別テーマで詳しく特集予定である。

10月号『魔術博士キム』
催眠術とあっと言う間に育つスピード植物を駆使するキムとの対決。催眠術を使ってくるところを鏡で反射させて撃退する。

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11月号『ガス魔人団』
ふわふわガスを使って「海の水から金を取る機械」を盗み出すガス魔人団との対決。

12月号『黒いサンタクロース』
水爆実験によってばら撒かれた「死の灰」を集めて、攻撃に使おうと考える「黒いサンタクリース」との対決。太田博士が作った死の灰そうじ機も盗まれてしまうピンチ。

1月号『雪星でスキー対決』
雪と氷に覆われた雪星からやってきた雪星人に招聘されたけんちゃんとまりこは、雪星の王に頼まれてスキー・スケート・雪ソリのレースに参加することに。

2月号『お手伝いロボットの反乱』
藤子先生の一大テーマ「ロボットの反乱」もの。こちらも別の切り口で紹介予定。


「小学二年生」3月号からは、けんちゃん・まりちゃんのビジュアルが一気にお兄さん、お姉さんに。そして正式にロケット隊員となって、これまで以上に強い敵と戦っていくことになる。

「小学二年生」3月号は、「小学三年生」4月号にお話が続いてく構成で、以降は2~4ヵ月で1エピソードの中編で描かれる。

原作だった久米みのるのクレジットはここから外れる。


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以下、簡単なみどころ。

1962年「小学二年生」3月~「小学三年生」4月号『ロケット隊員』
ロケット隊員に合格したけんちゃんとまりちゃん。宇宙戦艦を発明したジョーンズ博士が「黒いにじ」に誘拐され、救出に向かうが、逆に捕まってしまう。ジョーンズ博士は「黒いにじ」に脅されて宇宙戦艦を作らされていて、完成すれば悪事に使われてしまう。ピンチ到来の良いところで次号へ続くとなる。

宇宙戦艦は完成し、アメリカの水素爆弾を強奪するべく発進する。敵の目から逃れたけんちゃんたちは、ジョーンズ博士を救い出し、宇宙戦艦の船底に博士が密かに作ってあったブーメラン爆弾を使い、戦艦を爆破させて、黒いにじの撃退に成功する。


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5月~6月号『まぼろし王国の秘密』
中東を思わせる国アラク。ここでは40人の盗賊が現れて銀行強盗などを繰り返している。日本から駆け付けたけんちゃんまりちゃんと太田博士だったが、地元の警察には歓迎されない。

盗賊たちは空を飛ぶじゅうたんと、巨大な魔人を操る。特に魔人はロケットで体当たりしてバラバラにしても、まだ元通りに戻ってしまう。盗賊たちの後を追っていくとアジトの宮殿が見つかるが、しばらくすると跡形もなく消えてしまう。

盗賊に変装して、アジトへの潜入に成功するけんちゃんだったが、敵に捕まって牢獄へ。助けに向かうまりちゃんと博士には、巨大なサソリロボが襲い掛かる・・。

大スペクタクルと、うずまき爆弾、消える魔人などギミックもたくさん。「海の王子」と同様に、攻めたり反撃されたりの攻防がハラハラさせる。

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7月~8月号『怪盗カメレオン』
自衛隊の大砲や戦車などの武器を盗む、怪盗カメレオン。変装の名人で本当の顔は割れていない。けんちゃんたちにカメレオン逮捕の依頼がくるが、逆にジェット機を盗むと予告されて、まんまと盗られてしまう。

太田博士の計略によって、博士とけんちゃんは敵の基地への潜入に成功するが、見つかって捕らえられてしまう。発信機をしかけて援軍を呼び、まりちゃんの操縦するロケットによって助け出されるが、「電磁石」によって足止めを食らってしまう。

ロボットのふりをしての潜入や、カメレオンとの一対一の最終決戦など、最後まで見所満載。

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9月~11月号『ゴルゴンののろい』
トラブという国のポラク王が国賓として来日する。ポラク王は若干10歳の少年で、彼を暗殺しようと企んでいるゴルゴン党の輩も入国してくる。けんちゃんは、護衛としてポラク王に仕えるが、怪人ゴルゴンの眠りガスによって眠らされる。

3日間のうちに王様を殺すと予告され、厳重な警備体制を敷くのだが、その目をかいくぐって、ゴルゴンの侵入を許してしまう。けんちゃんは、時計の時限爆弾を見破ったり、王が空に飛ばされたところを機敏に助けたりと、大活躍。

けんちゃんは、ゴルゴンの正体は王の身内である付き人だと見抜くのだが、まんまと逃げられてしまう。悪知恵の働く強敵に対して、けんちゃんはとても防ぎきれないので、無駄な警戒を止めようと言い出して、一計を用いることに。

同年代の王様の警護という任務を描く本作は、ロケット対マシンの戦いではなく、騙し合いや化かし合いといった頭脳戦がメイン。敵の目を誤魔化す、つまりは読者をも騙すような展開となっている。

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12月~3月号『引力を消す薬』
サンタクロースがプレゼントを配っている。後を追っていくと、大きな工場のような建物に入っていく。けんちゃんたちも中に入ると、サンタをしていた男が現われて、部屋を無重力空間にしてしまう。引力を消す薬を作ったのだと言う。

男に貰った人形を持ち帰って調べると、引力を消す薬がばら撒かれ、けんちゃんたちは空高く飛ばされて行ってしまう。ロケットを無線で呼んで事なきを得たが、放って置くと宇宙空間まで飛ばされそうであった。

サンタがいた場所に向かうと、工場は跡形もない。太田博士は、引力を消す薬を使って、地球上の人々や建物を宇宙に飛ばして、地球を乗っ取ろうという宇宙人の仕業であると見抜く。

最終回エピソードに相応しい、最大の強敵が登場。地底での宇宙人との戦いや、荒れ果てた東京の姿、命を懸けた箱根での最終決戦など、これまでにないガチなバトルが繰り広げられる。

深刻そうなお話だが、藤子先生の明るいタッチが、とても読みやすい。

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「小学一年生」で連載が始まり、「二年生」「三年生」と繰り上がっていくごとに、ビジュアルや内容面がグッと大人になっていく。この頃から、藤子先生の対象読者で作品を描き分ける能力が発揮されている。

藤子先生は、「海の王子」など、キャリアの最初はこうした科学冒険漫画が一つの大きな軸だった。今となっては珍しいタイプの作品になっているが、引き続きシリーズで本作のような1960年代に量産された「科学冒険漫画」をご紹介していきたいと思う。


デビューから「ドラえもん」まで、考察多数です。


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