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オバケはスキーが滑れない/雪とスキーと遭難と②

藤子先生は豪雪地帯である富山の出身であるためか、スキーをテーマとしたお話が良く出てくる。町中に積った雪で滑るケースもあれば、雪山へスキーに行くこともある。ところが、Fキャラたちは、だいたいの場合でスキーを滑ることができない。

最も有名なスキー音痴は、「ドラえもん」ののび太だろう。前回の記事でも紹介したが、のび太はスキーで転んで痛いのが嫌いだし、転ぶ姿を友だちに見られて笑われたくもない。スキーを滑れるようになってから練習したいタイプなのだ。


のび太以外のスキーが苦手なFキャラたち。

例えば「パーマン」『真夏のスキー』では、夏にも関わらずパーマンになって雪山から雪を空き地に集めてきてスキーをするのだが、みつ夫になって滑ると、すぐに転んでしまう。

「チンプイ」『科法スキー大作戦』では、マール星の王室行事としてスキーが課せられているにも関わらず、エリさまはスキーを滑ることができない。そこで科法を使って、スキーを滑れるように手を打っていくというお話である。

さらに「オバケのQ太郎」では、正ちゃんもQちゃんも滑ることができないし、何でもできそうなドロンパまでもスキーを不得手としている。60年代の旧「オバQ」と70年代の「新オバQ」で、それぞれスキーをテーマにした似たようなエピソードがあるので、本稿ではまとめて紹介する。


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「オバケのQ太郎」『オバQスキー』
「小学二年生」1967年1月号/大全集7巻

雪が降り、空き地に積んであった土管の上に降り積もった様子は、まるでゲレンデのよう。これはスキーができるということで、正ちゃんは買ってもらったばかりのスキー板を持って、空き地へ向かう。

ところが、たった一コマでボロボロ・ヨロヨロの姿で戻ってくる。正ちゃんはスキーが滑れなかったようである。

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Qちゃんは、正ちゃんの板を借りて公園へと向かい、ゴジラ・よっちゃん・木佐君・ドロンパが見守る中、スキーを滑らせるが、あっという間に転んでしまう。

ドロンパは「何をやらせてもダメだなあ」と相変わらず毒舌だが、Q太郎にスキーを「貸すから滑ってみろ」と言われても、「そんな安物は履かない」と拒否。

何だか様子がおかしいが、そこに神成さんが「ドロンパのスキーが届いた」と声を掛けてくる。そこでドロンパは一度神成さんの家へと戻っていく。


しばらくして、スキー板を担いで現れたのは、なぜかドロンパではなく神成さん。「ドロンパのような名人はこんな原っぱでは滑らない」そうである。そして神成さんが滑り出すのだが、これが見事なへっぴり腰で、全くうまく滑ることができない。

するとそこに、もう一人の神成さんがしかめっ面してやってくる。スキーの練習をしていた神成さんは、ドロンパの変身によるものなのであった。転ぶ姿を見せたくなかったプライドの高いドロンパのやりそうなことである。

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結局、Q太郎もドロンパもスキーが滑れないまま。するとP子が人気のない山奥で練習すれば良いと言い出して、なんやかやがありつつ、3人で雪山へと向かう。

Qちゃんもドロンパもスキーに手こずり続けるので、道具を悪者にするのだが、P子が使ってみると、問題なく滑れてしまう。何でも優等生のP子だけはスキーも得意であるようだ。

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お話はこの後雪山の持ち主が登場し、「滑りたければお金を寄こせ」と言い出して、大混乱の方向に進んでいく。

最後は、Qちゃんとドロンパがスキーを履いて空を飛ぶことを思いつき、虹の上を滑っていくという急にロマンチックなオチとなる。

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「新オバケのQ太郎」『空き地でスキー』
「小学二年生」1972年2月号/大全集1巻

続けて、『オバQスキー』から5年後、新オバQでも似たようなお話が描かれている。前作ではQ太郎も正ちゃんもドロンパも滑れなかったが、本作でもその設定は受け継がれる。


町に雪が降り始め、明日にはスキーができると大喜び。が、自分がスキーを滑れないことを思い出す正ちゃん。転んでいると笑われるということで、まだ誰も遊びに来ていない早朝を狙って練習することにする。

どうものび太にしろ正ちゃんにしろ、スキーが滑れないFキャラは、転ぶ姿を見られて笑われたくないという気持ちが強いようである。

翌朝6時に目覚ましが鳴るが、正ちゃんは目を覚まさない。仕方なく、QちゃんとO次郎だけで空き地へと向かうと、思惑通りまだ誰も来ていない。さっそく初滑りということで、QちゃんがO次郎にスキーのお手本を見せようとするが・・

「スキーというのはね、こうやって・・・ゴロゴロゴロ・・・転んではいけないのだよ」

と、まるっきり滑れないのであった。

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何度も転びながら練習するQ太郎。すると、ドロンパがスキー板を抱えて姿を現わす。「ドロンパは滑れるのかい」とQちゃんが尋ねると「僕にできないことはないっ」と少々焦っている様子。

前作でも自分が滑れないことをドロンパは最初公言しなかったが、人を見下しがちなキャラのドロンパは、逆に見下されるのが大嫌いなのだ。

そうこうしているうちに、日が高くなってゴジラやよっちゃんたちもスキーをしに空き地へ集まってくる。転ぶ姿を見せたくないQ太郎は、「明日の朝滑ろう」ということで帰っていく。


ドロンパはそこで、自分がQ太郎に化けて練習すれば、恥をかかなくて済むのでは、と思いつく。前作では神成さんに変身してスキーで転んでいたが、全く同じ手口である。

Q太郎の姿で、滑っては転ぶドロンパ。案の定、周囲の木佐などから「下手だな」と笑われる。

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その頃大原家。パパが正太たちに「スキーに行っておいで」と言うと、「みんなが見てるとカッコ悪い」と言い返す正ちゃん。パパは「情けないこというな」と一喝。そして、とても良いことを言う。

「誰でも始めは下手なんだ。笑われてもいいじゃないか。根気よくやっていけば、うまくなるから」

「だって・・」とまだ納得のいかない正ちゃんだったが、対照的に名言に感化されやすいオバQは、「パパの言う通りだ」と再び公園へと向かうことにする。入れ替わるように、転ぶのに嫌気が差したドロンパは、「もう嫌だ」と撤収していく。


ゲレンデに立ったQちゃんは、「さあ、笑うなら笑え」と勢いよく滑り出す(転びだす)。笑われるかと思いきや、誰にも見向きもされない。それもそのはず、ドロンパがQ太郎に化けて散々転んだところを見せてきたので、周りの人間の目が慣れてしまったのだ。

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すると、何度も転んでもチャレンジするQ太郎に対して、周囲の見る目が変わっていく。

「まだやってるのか。根気が良いなあ」

と感心されてしまうのだ。

そしてついに滑れるようになるQちゃん。ゴジラもハカセもよっちゃんも、みんな心から拍手を送り、Qちゃんのガッツに賛辞を贈る。そして、ずっとQちゃんの頭の上に乗っていたO次郎も

「スベラッタ」

とご満悦なのであった。


前回の記事で取り上げた『勉強べやの大なだれ』では、最終的にはドラえもんの叱咤激励によってのび太はスキーの練習を続けて、滑れるようになっていた。本作でも、正ちゃんのパパの後押しのおかげでQちゃんはスキーを習得する。

その一方で、練習を途中で投げ出してしまうドロンパや、練習をしようともしない正ちゃんは、スキーが滑れるようにはならなかった。


スキーは誰でも最初は滑れないわけで、一時笑われることを気にしていたら、いつまでたっても練習に身が入らない。とりあえずは練習あるのみなのだ。そんな教育的なメッセージが『勉強べやの大なだれ』と『空き地でスキー』には込められている。

もちろん必要以上に説教臭くないのが藤子作品の大いなる魅力なのである。


「雪」のお話はまだまだ続きます。


「オバQ」の考察もたくさん溜まってきました!


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