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皆デ 人間ヲ ヤッツケヨウ!『お手伝いロボットの反乱』/ロボットの反乱②

いきなり断言してしまうが、僕が思う藤子作品の3大テーマは、①恐竜 ②宇宙 ③ロボットである。

特にロボットについては、藤子先生がかなり若い頃から物語のテーマとなり得るという思いがあったようで、中学時代に作った反射幻燈機でもロボットが大暴れするようなお話を上映したという。

そして、実質的なデビュー作である『UTOPIA 最後の世界大戦』でも、ロボットを大きなテーマとして登場させている。ここではロボットが人間を超えた存在となった時、人類存続の危機が訪れるという内容だった。

これは、その後の藤子作品で繰り返す表現されていく「ロボットの反乱」を描いた第一号作品である。


そこで藤子Fノートでは、「ロボットの反乱」と題して、ロボット反逆の物語を集めて紹介していくことにしたい。

第一回目となる前稿では、代表的なロボットマンガである「ドラえもん」の中から、最も基本的な構造を持つロボット反乱作品『ロボッターの反乱』について紹介した。

表層的には「物を粗末にしては駄目」という小学生向けの教訓めいた作品なのだが、本質としては「感情を持ったロボットに逆襲される人間」という、極めてSF的なテーマに迫っている。とても6ページの作品とは思えない出来栄えではないだろうか。


「ロボットの反乱」の第二弾として、本稿では、まだ20代の駆け出し時代に執筆された「ロケットけんちゃん」という「海の王子」系列の科学冒険作品において、ロボットが人間の言うことを聞かなくなるお話を見ていきたい。

なお、「ロケットけんちゃん」をご存じない方は、是非下記の記事を読んでみて下さい。


「ロケットけんちゃん」『お手伝いロボットの反乱』(ロボットの巻)
「小学二年生」1962年2月号・2月号別冊付録

上記の記事でも紹介しているが、「ロケットけんちゃん」は「小学一年生」→「小学二年生」→「小学三年生」と、繰り上がり方式で3年間連載された人気作である。連載開始当初は、「ガリバー旅行記」のような不思議な世界を巡る構成だったが、「小学二年生」に繰り上がって連載が続くと、悪の組織との戦いを描いたバトルものへと「成長」していった。

キャラクターも少しずつ成長し、「小学三年生」では完全に地球を救う少年ヒーローとして描かれる。


本稿で取り上げるのは「小学二年生」での掲載作品となるが、この年度の特徴として、ストーリーを久米穣(みのる)氏が担当していることである。久米は数多くの漫画原作を手掛けた方で、藤子先生とも複数の合作が存在する。

本稿で見ていく作品は、藤子先生のライフワーク的テーマとなる「ロボットの反乱」ものだが、このストーリーの考案者は久米氏だ。このことから、藤子先生と久米氏は似たようなモチーフを考えていたか、内容面で事前に話し合っていたのではないかと推察される。


それでは内容を見ていくのだが、まず本作は「小学二年生」の「ロケットけんちゃん」の中では、異色な部類に入ることを確認しておきたい。

この年度の「ロケットけんちゃん」は、基本的にけんちゃんとまりちゃんが、どこからか現れる強敵と戦っていくというストーリーラインとなっている。

本作では、おじさんの太田博士が作ったお手伝い用のロボットが、けんちゃんたちの言うことを聞かなくなり、ロボット軍を率いて人類と対峙する一大勢力を形成する、という流れとなっている。

主人公によって敵が作り出されてしまうパターンで、MCUでいうところの「アベンジャーズ」2作目のウルトロンを想起してもらえればいいだろう。(わかりずらく例ですみません)


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何でもできてしまうお手伝い用ロボットをおじさんの太田博士からプレゼントされたけんちゃんは、家での仕事を全部やってもらって楽ちん。調子に乗って「宿題をやってくれ」とお願いすると、「悪いことにができないように作られている」とやんわり断られる。

仕組みとしては、動力源として赤い電池(2個入り)が入っているが、この効果で善い行いをしているのだという。そして、赤い電池を黒い電池に取り換えることで悪いことができるようになるという。

なぜ太田博士が黒い電池を作る必要があったのかは謎だが、けんちゃんは博士の家に行って、黒い電池をそっと持ってきてしまう。そして、二本の電池のうち、一本だけ赤から黒へと交換する。

黒の電池が一本入って、少しだけ悪戯っぽい表情を浮かべたお手伝いロボット。宿題をスラスラ解くので、けんちゃんは自分の代わりに学校に行って欲しいと頼むと、ロボットは「マカシトケ」と応えて、自らの手で体を削ってけんちゃんそっくりになる。

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けんちゃんは、妹のまりちゃんにも告げずに、ロボットを自分の代わりに学校へと送り出し、自分は一日中テレビを見てようとゴロゴロする。まるでのび太と見紛うぐうたらぶりである。

学校ではけんちゃん(ロボ)が色々と暴走し、まりちゃんが変だと気付く。けんちゃん(ロボ)は、自分がロボットだと明かして、赤い電池を捨てて欲しいとお願いする。

そしてまりちゃんが赤い電池を取り出すと、「これでどんな悪いことでもできる」と、もう一段悪い表情を浮かべて、校舎を壊してしまう。赤い電池が理性を保つために必要だったようだ。

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ここからはロボットの反乱が始まっていく。
町中で大騒ぎをした後、博士に変身してけんちゃんとまりちゃんを油断させ、いつの間にか作り上げていた滝の裏の隠れ基地へと連れていく。すると、一足早く太田博士も騙して連行しており、3人は閉じ込められてしまう。

そしてロボットの仲間を大量に作り出し、そのロボットを使って山の中に大きな町を作り上げてしまう。ロボット王国の誕生である。そしてけんちゃん姿のロボットは、仲間に向かって勝どきをあげる。

「サア、ミンナデニンゲンヲヤッツケヨウ。地球ヲワレワレのモノニスルンダ」

藤子作品において、自我が芽生えたロボットは、必ず人間と対決姿勢となるようだ。

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そしてロボット対人間の争いとなるが、ロボットの戦闘力に押される人間たち。太田博士はそこで一計を案じる。ロボットに対して人間の方が偉いと挑発する。その理由は、機械と違って人間には一人一人に個性があるというもの。

悔しくなった反乱ロボットは、人間から性質(個性)を移せる機械を発明する。そして手始めにけんちゃんから、性質を移し取るのだが、そのロボットはぐうたらと寝転がってしまう。本作では、けんちゃんはすっかりのび太キャラと化している。


もっと他の人間の性質が欲しいとロボットが言い出したので、けんちゃんたちはよっちゃんという子を推薦する。よっちゃんは機械を分解するのが大好きな性格で、案の定この子の性質が移ったロボットは、反乱ロボットを押さえ込んで分解してしまう。

けんちゃんに変身していたリーダーのロボットが壊れると、他のロボットを操作していた電波が途絶えてしまい、ロボット軍は沈黙してしまう。よっちゃんのおかげで、ロボットの反乱は鎮められたのであった。

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太田博士によって、赤い電池に取り換えると、ロボットは

「ボク、イイロボットダヨ」

と最初の時のように良い子の表情となる。一件落着ではあるが、電池一つでこのような騒ぎとなってしまったわけで、博士のロボット制作に問題が孕んでいたと思われる。


本作は、ロボットが悪い心(=自我)を持つことで、深い理由もなく人間を敵とみなすロボット組織を作ってしまう。少々乱暴な展開であった。

また、いつもは勇気と正義感で強敵に戦いを挑むけんちゃんが、なぜか怠け者体質を発揮したことで、事件を引き起こしてしまう。こちらも少々ご都合主義的な印象を受ける。そんなキャラだったっけ?という違和感である。

久米みのる氏のストーリーを元にした本作は、どこまで藤子先生のアイディアが含まれているかは不明である。しかし、ロボットに自我が生まれて人間に反乱を起こし、人間の個性を獲得したら自滅してしまうというお話の骨子は極めて藤子Fっぽい。

お話の骨子はともかく、実際の完成度は正直低めのように思うが、作者初期の「ロボット反乱」作品として本作をご紹介した。次稿では、さらに時代を進めてみたい。


藤子作品の考察を多数しています。


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