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冬の風物詩・ドラえもんの雪山遭難もの一挙紹介!/雪とスキーと遭難と⑤

藤子作品では、70年代のある時期、毎年のように冬の風物詩として、「雪」や「スキー」をテーマとしたエピソードが描かれていた。その中で僕が勝手に「雪山遭難もの」と名付けているジャンルがある。ずばり、雪山に遭難したり、遭難者を助けたりするお話である。

本稿では、「雪とスキーと遭難と」シリーズ記事の締めくくりとして。「ドラえもん」を中心に、「雪山遭難もの」を発表順で一挙紹介していきたい。1972年から原則、一冬一本のペースで発表されている。


【1972年度】
『勉強べやの大なだれ』「小学四年生」1972年4月号/大全集1巻

既に記事にしているが、ドラえもんにおける初めての「雪山遭難もの」であった。(だいぶ変化球の内容だが・・)


【1973年度】
『雪山遭難を助けろ』
「小学四年生」1973年8月号/大全集3巻
こちらは遭難者をドラえもんたちが救助するお話だが、とある重要な理由から単行本収録が見送られている問題作である。


【1973年度】
「ドラえもん」『はこ庭スキー場』

「小学三年生」1974年2月号/大全集4巻

藤子作品における雪山遭難ものは、大別すれば二つ。

一つ目は雪山で遭難するお話、二つ目が近所で遭難するお話だ。言い換えると、実際に雪山を舞台とするケース、近所に雪山を作ってそこで遭難してしまうケースの2パターンである。

前者の代表作が『雪山遭難を助けろ』で、後者が『勉強べやの大なだれ』となる。本作(『はこ庭スキー場』)は系統しては近所で遭難するパターン。『勉強べやの大なだれ』では、遭難した場所が部屋の中だったが、本作では野比家の庭が雪山となって、そこで遭難する


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冒頭、しずちゃんが「どうせ無駄よ。あんたたちに話したって」と涙を零す、思わせぶりな始まり方。何のことはない、楽しみにしていたスキーの予約が取れなかったというのである。

のび太はしずちゃんのスキーに行きたいという希望を安請け合いして、ドラえもんに何とかしてと泣きつく。ドラえもんは寒さに弱いと言って、聞く耳を持たなかったのだが、のび太があの手この手で説得して、重い腰を上げさせる。

なお、この時の説得のセリフはスネ夫の受け売りなのだが、インパクトが強いので引用しておく。

「しずちゃんがっかりするだろうな。悲しみのどん底に沈むだろうな・・・。ささやかな少女の夢を叶えてあげたいと思ったのに・・・」

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するとドラえもんは徐(おもむろ)に庭へ出て、箱庭を作ってリフトやロッジを設置する。のび太の文句を聞き流しながら、雪を降らせてミニチュアのスキー場の出来上がり。

ここにしずちゃんを呼んできて、ガスで眠らせると体も縮んでしまう。そして「まだオープンしたばかりのスキー場だ」と嘘をついて、広々した銀世界を見せてしずちゃんを感激させる。

しずちゃんは満足そうにスキーを滑らせ、のび太はゴロゴロと転ぶ。しばらく優雅に遊んでいると、のび太のママの声が聞こえてきたり、チリ紙交換車の放送が流れてきたりと、様子がおかしいことに気付く。


何とか誤魔化すも、今度は箱庭の端っこの方までしずちゃんが滑りにいってしまうので、ドラえもんはすかさず人工の吹雪を起こして、しずちゃんたちを襲わせる。

猛吹雪でしずちゃんの心を折らせると、

「もう歩けない。のび太さん一人で行って!」

と弱音を吐く。のび太は「君を見捨てるもんか」と励ますのだが、やがて失神してしまう。

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しずちゃんを救助した形となったのび太君。しずちゃんは、ジャイアンとスネ夫の前で「のび太さんてすごく頼りになるのよ」と尊敬してみせるのであった。

雪山で仲良くなるというモチーフは、『雪山のロマンス』と見事に直結していると、今回改めて気がついた次第。


【1974年度】
「ドラミちゃん」『山奥村の怪事件』
「小学館BOOK」1974年3月号

こちらも雪山遭難ものに分類しても良いだろう。この作品は「ドラミちゃん」特集にて徹底考察を予定しているので、今回は割愛する。


【1975年度】
「ドラえもん」『三月の雪』

「小学四年生」1976年3月号/大全集5巻

勉強部屋 → 庭ときて、本作では空地がスキー場となる。厳密に言えば遭難するお話ではないが、季節外れの大雪を降らせてしまって、人々を困らせる。

冒頭では、またもしずちゃんがスキーを所望し、のび太が安請け合いしてドラえもんに頼むという『はこ庭スキー場』と同じ流れ。本作ではのび太が「お天気ボックス」を使って雪を降らせようと思いつく。

道具を出すのを渋るドラえもんに、のび太は本作でも説得にかかる。

「それとも君は、がっかりしてる可哀想な少女を助けてやろうとも思わない、薄情者か!」

『はこ庭スキー場』の時と同じような言い回しとなっている。

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なお、「お天気ボックス」は、本作の四年前に初登場した機械で、この時は一瞬だけ部屋に雪を降らせている。その時以来、使っていなかったせいか、調子が悪く、すぐに壊れて動かなくなる。

ドラえもんは直すのを諦めて行ってしまう。残されたのび太は叩いたり蹴ったりと物理的な攻撃を加えたところ、雪がチラチラと降り出す。適当に蹴っているうちに故障が直ったのであろうか。


翌日にはたっぷりと雪が積もり、スキーに雪合戦にと子供たちは大はしゃぎ。ところがのび太は、雪の空き地で邪魔者扱いを受け、「僕が降らせた雪なのに皆恩知らずだ」と怒り心頭。そこで家へと戻って「お天気ボックス」を止めようとするのだが、ボタンを押しても雪は降り止まない。

機械をドスドス叩いたり蹴ったりするのだが、逆に降雪量は増えるばかりで、世の中は大雪による都市マヒに陥っていく。のび太は自分が「お天気ボックス」を壊したせいだと大きなショックを受ける。

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そこへ、未来に出掛けていたドラえもんが帰ってきて、「お天気ボックス」を調べると、最初から壊れていて動いていない様子。つまりは、季節外れの3月の雪は、機械と関係なく自然に降ったのであった。


【1976年度】
「キテレツ大百科」『空き地の銀世界』1977年1月号
この年は「ドラえもん」ではなく、「キテレツ大百科」にて雪山遭難ものが描かれたのでご紹介。下の記事の中で少しだけ触れている。

タイトル通りに、「空き地」で遭難するお話である。なお、本作の遭難を通じて、キテレツとみよちゃんの愛が深まるという、もう一つの「雪山のロマンス」なのである。


【1977年度】
「エスパー魔美」『雪の中の少女』1978年1月号
「ドラえもん」『雪山遭難を助けろ』の実質リメイク作。


【1978年度】
「ドラえもん」『雪山のロマンス』
(初出:14年後、ぶじ(??)しずちゃんと結婚)
「小学六年生」1978年10月号/大全集6巻

ご存じ、のび太としずちゃんが婚約する超重要エピソードで、二人の仲介をしてくれるのが、雪山遭難である。本作は、今後別の記事で徹底考察が予定されているので、ここでは詳細を割愛する。


【1978年度】
「ドラえもん」『大雪山がやってきた』(初出:公園でスキーを!!)
「小学六年生」1979年10月号/大全集7巻

毎年のように「雪山遭難」ものが描かれているが、本作ではかなり広めの公園全体が雪山となる。そして遭難するのが骨川家という点がユニークである。

内容は『勉強べやの大なだれ』同様、「スキーの滑れないのび太」を描く話なのだが、そこに骨川家の遭難が絡む展開となる。


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冒頭、スネ夫が北海道の夕日岳にスキーに行ってくるという自慢から始まる。気に食わないのび太だったが、その翌日、夕日岳のロッジからスネ夫がわざわざ電話をかけてきて、「雪質がフワフワだ」などと追い打ちをかける。

のび太は「自分も夕日岳でスキーの腕を磨くぞ」と決意し、ドラえもんに「どこでもドア」を出すようお願いするが、鍵が壊れて使えなくなっているという。そこで代わりにドラえもんは出したのが「空間いれかえ機」という機械である。

使い方としては、まずチョークで円を書く。次に機械のモニターに地図を映し出す。そして地図で選んだ場所と、チョークで囲った部分の空間が入れ替わるという仕掛けである。


さっそく、夕日岳の緩やかな斜面と、のび太の部屋とを入れ替える。のび太は物置からスキー板を持ち込み練習を開始。ドラえもんは、「いつものようにすぐに嫌になって投げ出すなよ」と釘を刺してどこかへ行ってしまう。

ところが、のび太のスキーの技術不足と、一瞬で部屋の端っこまで滑ってしまう狭さから、うまくスキーを滑ることができない。

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するとそこに、ママから手紙を出すようお願いされる。のび太は「夕日岳を返して、代わりにポストを呼べばいい」と思いつく。これに味をしめたのび太は、しずちゃんを呼び出し、世界中のあちこちとのび太の部屋を入れ替える遊びを始める。

ややあって、部屋に戻ってきたドラえもん。スキーの練習そっちのけののび太を怒るが、確かに狭いと納得し、夜中にもっと広い夕日岳を持ってきてやろうと言い出す。

なお、細かい話だが、漫画だとしずちゃんはのび太の部屋から歩いて家に戻るのだが、最近のアニメだと「空間いれかえ機」を使って家に帰していた。アニメが正解だと思う。


そして夜。ドラえもんの考えは、公園全体をチョークで囲い、雪山ごと持ってきてしまおうというもの。チョークが何本もいる難作業だが、何とか公園を囲って、夕日岳がやってくる。

一面の雪景色に大喜びののび太。さっそく雪だるまを作ろうとして、ドラえもんに制止される。ここまでの苦労はのび太のスキーの特訓のためなのである。

「さあいくぞ」と威勢がいいのはここまで。のび太は滑るとすぐにゴロゴロと転がってしまい、いきなり心が折れる。そしてかの有名なセリフを・・

「ねえドラえもん。僕思うんだけど・・・もう少しうまくなってから練習した方が・・・」

【練習してうまくなる】ところを、【うまくなってから練習する】と言い出す、天才的な発想ののび太なのである。

ドラえもんはここからスパルタでののび太のスキー練習に付き合っていくが、転がってばかりでちっとも滑れるようにならない。スネ夫の自慢で発奮しても、ドラえもんのアシストがあったとしても、結局のび太の運動神経の前には、すべて苦労は水の泡なのであった・・。

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のび太が「やだよ、もう」と泣き言をしているその頃、夕日岳の片隅で道に迷って遭難しかかっている家族がいた。骨川家である。ゲレンデを飛び出し、ツアースキーに挑んで、戻れなくなったらしい。

そんな疲れ果てた骨川家の前に、道路が現れる。助かったとスネ夫たち。「空間いれかえ機」のおかげで、北海道から東京の公園まで戻ってこれたのである。

ところが、ここが東京とは夢にも思わないスネ夫たち。タクシーを拾うと、北海道の夕日岳までと指示を出す。タクシーの運ちゃんは、料金が大変ですよと忠告するのだが、「金には代えられない」と車を飛ばさせる。

大急ぎで東京から北海道を目指すスネ夫たちを尻目に、公園の雪山は北海道に戻されるのであった。


スキーと雪と遭難者のエピソードは、本当はもっともっとあるのだが、とりあえずシリーズ記事としては5本で終了としたい。

藤子作品の考察やっています。


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