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宇宙一過保護なスキーの練習とは?「チンプイ」『科法スキー大作戦』/スキー好き?嫌い!①

先日関東では「大雪」が降った。新潟方面によく出掛ける自分からすると、全く「大雪」のレベルではないのだが、町の雪の受け入れ態勢が整っていないので、致し方がない。

雪の降った翌日などは目の前で凍った路面で転ぶ人もいた。人もまるで雪に慣れていないので、靴などの装備も不十分だし、雪道や凍った道の歩き方がぎこちない。

昨今は温暖化が進んでいるので、子供の頃よりも関東地方での降雪は珍しいものになっている。一回に降る量も減っている気がする。3~40年前には、年に一度は大きい雪だるまを作ったりもしたものである。


ただ、今より降雪量が多かったとはいえ、さすがに町中でスキーができるほどに積もる経験はしたことがない。ところが「ドラえもん」を始めとする藤子ワールドでは、都心部にも関わらず、大雪が降って、子供たちはスキー遊びに繰り出していく。

とても現実的ではないが、これはあくまで富山県で少年時代を過ごした藤子先生の体験から来ている設定だと考えられている。「ドラえもん」は東京が舞台だが、雪が降るお話の時には富山の顔を見せるのである。

ちなみに「学校の裏山」も「富山県の設定」だと言われている。


2年前の冬に「雪とスキーと遭難と」と題して、その名の通り、雪とスキーと雪山遭難に関するお話を集めた特集記事を書いた。しかしながら、藤子作品において、冬の風物詩はスキーと相場が決まっていることもあり、まだまだ取り上げていないスキー作品が数多く残されている。

そこで改めて「スキー好き?嫌い!」というタイトルで、さらなる雪とスキーに関するエピソードを深掘りしていきたい。

なお、本題に行く前に、noteを始めた当初に書いた雪と新潟県に関するエッセイもどきがあるので、もし興味ある方は覗いてみてください。



「チンプイ」『科法スキー大作戦』
「藤子不二雄ランド」ドラえもん第33巻(1987年2月13日初版発行)

改めて「チンプイ」の作品概要を語らないが、大雑把な見立てとしては、「ドラえもん」の女の子版ということで良いかと思う。(強引)

主人公のエリちゃん(春日エリ)は、勉強もスポーツも得意ではなく、ガッツがある方でもない。家庭環境も野比家とよく似ていて、小言の多いママとおっとりタイプのパパがいる。

友人関係では藤子作品の自己パロディとも言える「スネ美」がいる。彼女もまた、スネ夫に似て金持ちで嫌味な性格の人物である。


本作ではそんなスネ美の自慢話にエリが触発されるところから始まる。「ドラえもん」でスネ夫の自慢を聞いてのび太が羨ましがる始まり方とまるで同じである。

今回のスネ美の自慢のテーマは「スキー」。週末から北海道、春休みにはカナダへとスキーに行く予定なので、デパートでスキー用品を新調するという自慢を食らったのである。

悔しい思いをしたエリは、ダメ元でママにスキー旅行のパンフレットを見せて催促すると、「大事な用があった」などと言って逃げ出してしまう。エリのママは寒がりでスポーツが苦手なので、スキーを避けているようである。


スキーツアーの希望が叶わなかったのでイラつくエリ。そこへマール星から新たな宇宙人がやってくる。エリの虫の居所が悪く、まだ何も切り出していないのに「マール星とか殿下とか、そんな話まっぴらよ!」とキレられてしまう。

スゴスゴと帰ろうとするマール星からの使者。何の用だったのかチンプイが尋ねると、使者の名前はスベルスキーと言って、王室御用達スキー用品店の主人であると自己紹介。

マール星の王家では「新春初すべりの儀」という公式行事があるので、やがて妃となるエリもスキーを滑るようになる必要がある。そこでルルロフ殿下が、その日のために練習用としてスキー道具一式をプレゼントするべく、スベルスキーが派遣されてきたのだ。


スキーと聞いて興味が沸いたエリは、スベルスキーを呼び止めて詳しい話を聞く。まだ滑ったことがないと言うと、ピッタリの品があるといって、絶対に転ばないという「お子さま用スキー」を渡される。

さっそくスキー場で試そうということになるのだが、のび太同様、世間の目を必要以上に気にするエリは、「みんながスイスイ滑っているところへ、お子さまスキーで練習をしたくない」と我がままを言い出す。

そこで人気ののない、スキー場の裏山へと向かうことにする。スベスルキーが「スベルスキー」と掛け声を掛けると、雪山へとテレポートする。チンプイも、科法を発揮する時は「チンプイ」と自分の名前を声にするが、それと同じ仕掛けである。


雪山に到着するも、きちんと整備されたスキー場ではないので、ズボと雪の中へ潜ってしまうエリ。いきなり過酷な環境に連れて行かれて、「寒い!冷たい!スキーなんてもう嫌!!」とすぐに音を上げてしまう。

スキーを滑るようになりたいはずのに、寒いのは嫌という、全く持ってガッツのないエリ。女の子版のび太と言われる由縁である。


ここからは、色々と不平不満を口にするエリを、それでも気持ちよくスキーを滑ってもらいたいと、スベルスキーがマール星の科学力に物を言わせて、心地よいスキー環境を整えていってくれる。

エリの寒いというスキーに付き物の不満に対しても、スベルスキーは「憚りながら宇宙一のスキー用品店です。どんな注文にも応えましょう」と、宇宙一のプライドを見せる。

まず南の島へとテレポートし、エリのスキー板に「人工雪アダプター」を装着する。スキーの行くところに雪を降らせる仕掛けで、ゲレンデを作りながら滑ることができるようになる。

しかも元々エリの履くお子さま用スキーは、転ばない仕組みとなっているので、あとはスキーに任せて滑ればいいだけの話。とても楽ちんなのである。


ところが運動神経に不安のあるエリ。転ばないのは良かったが、滑っている先にあった木を避けることができず、正面衝突してしまう。

そこで「レーダーストック」というアイテムを追加装備する。これにより前方の障害物を自動的に避けることができるという。

さらにはいちいち滑った後に高いところに上るのが面倒くさいということで、「ジェットアダプター」をスキー板の後方に装備する。これによって、エンジンを付けたようになって、スイスイといつまでも滑っていられる。

だんだん何でもありになってきたが、さらに「浮力シール」を板の底に貼ることで、水上スキーにも早変わり。勝手に滑ってくれるし、転ばないし、水の上を気持ちよく走れるしということで、エリさまは大満足。

「スキーって簡単で、本当に楽しいスポーツね」

と、あくまでスキー板の性能で滑っていた事実を忘れて、自力でスキーを会得したと勘違いするエリなのであった。


そんなエリの馬脚はすぐに露わになる。

家に戻ると、パパが「これからの若者はスキーくらいできなきゃいかん」と、スキー用品を買ってくれている。早速休暇を取ってスキー場へ。新品のスキーセットを装備してソロソロと滑り出すエリだったが、すぐにツルリと滑って転倒してしまう。

「こんな痛くて寒くて冷たいスキーは嫌っ!!」

と、不満をぶちまけるエリ。マール星の科学力を駆使したスキーで過保護となっていたツケがさっそく回ってきてしまったようである・・。


エリものび太も、みんなのようにスキーを滑りたいが、実際には簡単に滑れるようにならないし、けっこう過酷な環境のスキー場に嫌気を差してしまったりもする。

スキーへの憧れはあっても、スキーを好きにはなれない、複雑な心持ちなのである。




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