部屋で遭難する話『勉強べやの大なだれ』/雪とスキーと遭難と①
藤子作品ではスキーの話題がよく出てくる。町に大雪が降り、普通にスキー板を抱えて、空き地などに滑りにに行く。「ドラえもん」などでよく見かける光景である。
舞台が東京だとすると、子供たちが町でスキーを滑るというような状況は考えられない。東京では、せいぜい数年に一度大雪が降り、雪だるまを作って遊ぶ程度だからである。
ではなぜスキーのシーンが多いかと言えば、それは藤子先生の少年時代の原体験に他ならない。藤子先生は雪深いの富山県出身である。体育の授業や、日常的な遊びでスキーを滑っていたに違いない。(もっとも、のび太のようにスキーが苦手だった可能性もあるが)
藤子先生にとって、つまりは藤子作品にとって、雪やスキーは常に身近にある日常的な存在なのである。
そこで、スキーや雪山をテーマに作品を選んでいこうと思ったのだが、調べてみるとあまりに数が多いことが判明した(わかっていたことだが・・)。なので今回は、「雪とスキーと遭難と」と題して、スキーや雪山遭難にまつわるエピソードをまとまりなく紹介していくことにしたい。
第一弾は、初期の「ドラえもん」の中でも個人的なお気に入り、『勉強べやの大なだれ』をご紹介したい。なぜのび太の部屋で雪山遭難することになってしまったのか。大爆笑必死の一本である。
『勉強べやの大なだれ』
「小学四年生」1972年4月号/大全集1巻
「雪山遭難もの」と言っても、実際はのび太の部屋から一歩も出ていないという異色な展開にご注目。また、本作は初めてのび太がスキーを滑れないことが判明するお話でもある。
冒頭、いつものようにスネ夫が新品のスキー板を自慢してくる。しずちゃんもジャイアンも対抗して、自分たちも素晴らしいスキーを持っていると応える。通常のパターンであれば、スネ夫の自慢に悔しい思いをするのび太なのだが、今回は「僕はスキーを持ってない」と粘らない。
それもそのはず、のび太はスキーが滑れないのだ。なので、スネ夫たちに対しては「買ってもらうぞ」といきり立つものの、内心では買って欲しくないのび太。
みんなの見ている前でパパに「ダメだよねスキーは」と逃げ腰にスキーの話題を振ると、いつもだったら「高いからダメ」となりそうなところ、
「なに、スキーを始めたくなった? それはいいことだ。こんなことがあるかと思って、ちゃんと買っておいた」
とパパは、いつになく気が利いているのであった。そして、タイミング良く(悪く?)、まもなく雪が降るという天気予報が流れ、「これでスキーができる」とのび太以外は大喜び。
のび太は、このままでは、スキーで転ぶ姿をみんなに馬鹿にされると大慌て。さっそくドラえもんに泣きつくと、しぶしぶ「おざしきゲレンデ」という機械を出してくれる。
「おざしきゲレンデ」は、小さいゲレンデの部分に乗ってスキーを滑ると、下のベルトがスキーのスピードに合わせて動く仕掛け。方向転換も可能で、スキーが止まればベルトも止まってくれる。たたみ1~2畳あればスキーが延々と楽しめてしまう優れモノなのである。
ところが、のび太が乗って滑り出すと、すぐに転んでしまい、転がるスピードに合わせてベルトが動き、転び止まるとベルトも止まるのであった。
のび太は一発で挫けてしまい、スキーの練習を止めようとする。恥もかきたくないが、痛いのはもっと嫌だという。そして止める言い訳として、「見渡す限りの雪景色がなければ滑る気にならない」と言い出す。
するとドラえもんが、「おざしきゲレンデ」のボタンを押すと、部屋が雪山に早変わり。立体映画を写し出す装置が備え付けられていたのである。仕方なく、もう一回ベルトの上でスキーを走らせるのび太。滑ると景色も動いていき、転べば雪けむりもちゃんと映るというサービスぶりだ。
再びやる気を損なうのび太。次なる止める言い訳として、「この雪は冷たくないので気分が出ない」と難癖をつける。
そこでドラえもんは、「なるべくなら使いたくなかった」と言いながら、手探りでボタンを押す。すると部屋中が急に寒くなる。「おざしきゲレンデ」には、気温調節機能も付いていたのだ。
とうとう言い訳も出尽くしたのび太は、ここで泣きつく。
「勘弁してよ。もうスキーなんか嫌なんだよ」
すぐに弱音を吐くのび太に、ここでドラえもんもブチ切れ。
「そこが君の悪いところだ!! 何かやってみて、うまくいかないとすぐ嫌になってしまう! そんなことでは、いつまで経っても何もできないよ」
これを書いている僕までもが耳の痛くなるド正論である。
のび太はドラえもんのお説教が心に響いたようで、もう一度スキーの練習にチャレンジする。すると、ようやくだんだんと滑れるようになる。やっぱり新しいことを習得するにはモチベーションが必要なのだ。
すると、のび太の様子を見ているだけで動いていないドラえもんは、段々と寒くなってくる。少し寒さを緩めようと、おざしきゲレンデのボタンを手探りで押すと、どうやら変なところをいじってしまったようで、辺りがゴオオオとうなり、猛吹雪となってしまう。
雪が吹き荒れ、もはやスキーどころではないが、部屋は立体映画で包まれていて、出口がどこか分からない。ドラえもんが適当に走りだすと、ドシンと何かにぶつかって、何と雪崩がのび太とドラえもんに襲い掛かってくる。「雪崩の仕掛けなんかないはずだ」と叫んだドラえもんは、そのまま雪崩の下敷きに・・・。
のび太は雪から這い出ると、ドラえもんの姿はない。そこで、助けを呼ぶために走り出す。ところが、ここはたった6畳の部屋なのに、なぜか走っても走ってもドアにたどり着けない。のび太は「誰か助けて!」と声の限りで叫ぶ。
その頃、一階のママ。どうやら停電らしいことに気がつく。すると二階から、「助けてくれ」という叫び声。のび太の部屋に行ってみると・・。
のび太は「おざしきゲレンデ」の上で延々と叫びながら走り続けており、ドラえもんは押し入れから崩れてきた布団の下敷きとなって埋もれている。
「なにやってんの、あんたたち」
と、思わずツッコむママなのであった。
このラストの一コマの間抜けぶりに、かれこれ40年近く笑わせてもらっている。雪崩が起きて、それが布団の雪崩だったというオチが、単純だが素晴らしい流れである。
おまけ。
部屋の中でスキーをして、遭難までしてしまう『勉強べやの大なだれ』に関連して、別の藤子F作品を簡単に紹介しておこう。
「ポコニャン」『おへやでスキー!?」
「希望の友」1978年2月号
本作もまた、部屋の中でスキーをするというお話である。
「ポコニャン」については、まだ一度も藤子Fノートで紹介していないので、近く詳細を記事にする予定。ここではサラリと紹介しておく。
雪が降ってきたのでスキーの練習ができると喜ぶ太郎だったが、すぐに雨に変わってしまって残念。そこでポコニャンが、「インドア・スノー」という溶けないし冷たくない雪を部屋の中に降らせてくれる。
さらに「ミニミニ・スキー」という絶対に転ばないスキー板を用意してくれて、これを履いて部屋中を縦横無尽に滑りまくる。
太郎は調子に乗って、親が留守なのをいいことに部屋中に雪を降らせて、雪だるまや雪の城を作って遊ぶ。
ところが、この雪は消すことができないのが、致命的。溶けなので、不要になった場合はゴミ捨て場に捨てるしかないのだという・・。そこへママが帰宅してくる。仕方なく、家の中で雪かきをする羽目となる太郎とポコニャンなのであった。
家の中で雪遊びをするという楽しいお話でした。
藤子作品を様々な切り口でご紹介中です。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?