見出し画像

しずちゃんの超ミニスカ姿!?『流行性ネコシャクシビールス』/複数回登場ひみつ道具⑥

「ドラえもん」において、2~3回登場する印象的なひみつ道具を紹介していくシリーズ「複数回登場ひみつ道具」の最新稿となる。

これまでの紹介した道具(作品)は以下の4点。

①コエカタマリン(『声のかたまり』『「ワ」の字で空をいく』)
②山びこ山(『山びこ山』『ま夜中に山びこ山が! 』)
③石ころぼうし(『石ころぼうし』『災難予報機』)
④無生物催眠メガフォン(『ドライブはそうじ機に乗って』『空とぶマンガ本』)


本稿から2回に分けて取りあげるひみつ道具は「流行性ネコシャクシビールス」。誰も彼もという意味の「猫も杓子も」から命名された、無理やりに流行を作り上げることのできる人工ビールス(ウィルス)である。

短期間とは言え、世の中の流行を実験的に作り上げる道具であり、時限的な「もしもボックス」といった働きを見せる。

藤子先生は、こうした仮の世界を作り上げて、そこの住人たちがどうなるのかを見届けるような話が好みなので、「流行性ネコシャクシビールス」は創作的にうってつけの道具だったに違いない。

この道具が比較的短期間のうちに二回使われたのも、そう考えると納得がいく。


『流行性ネコシャクシビールス』
「小学六年生」1974年12月号/大全集2巻

本作は「少女まんが風にスタート」するお話。一コマ目で、初登場となるキラキラとした面持ちのしゃれ子ちゃんの、おでかけスタイルが描写される。志村みどりさんの描写っぽいが、果たしてどうなんだろうか。

細やかな花柄があしらわれたロングスカート姿だが、のび太はそんなしゃれ子の決めスタイルを見て、「なんだい、そのぞろっとしたかっこうは」と指摘。攻めたファッションを批判されて怒るしゃれ子だが、スネ夫が「こんなのに怒っても仕方がないよ」と言って割って入る。

スネ夫の解説によれば今の流行はスカートがどんどんと伸びているのだという。さすがは将来ファッションデザイナー志望の男の子なだけある。そして「のび太たちは鈍いんだよ」と言い放って、二人は行ってしまう。

ちなみにファッションビジネス学会のHPによれば、確かに本作発表年の1974年では主にエスカルゴスカートと呼ばれるロングスカートが大流行したようである。

ちなみにその前年(1973年)では「ミニスカートが定着」しつつ「スカート丈はロング主流」と書かれている。これはどういう意味なのだろうか? 流行の過渡期ということなのか??


家に帰るとパパにママとが口論になりかけている。ママに久しぶりの同窓会の話が来たのだが、持っている服がミニ丈スカートばかりで、行きたくても行けないと愚痴っているのだ。

パパはその場からフラフラと逃げ出していくが、代わりにのび太とドラえもんが捕まる。のび太に対しては「うろうろしないで宿題しなさい」と注意し、とっくに終わらせたよと答えると、「じゃあ、明日のをやればいいじゃないの」と無茶な難癖を付けてくる。

続けて、傍で笑っていたドラえもんに対してママは「なにがおかしいんですか!」と激昂し、そこでかの名ゼリフが飛び出す。

「ひげなんか生やしちゃって、偉そうに!」

これには「別に偉そうに生やしているわけじゃないのに」と弱り果てるドラえもんなのであった。


さて、ママの嵐は過ぎ去るしかないが、のび太は「誰が流行なんて決めるんだろうか」と疑問を呈する。流行の仕掛人は不明だが、流行となると我も我もと飛びつくことだけは明確。ドラえもんは「みんなと同じにしてないと安心できないんだよ」と、非常に的確な指摘をするのであった。

そこでドラえもんは「面白い実験をしてみよう」と何か閃いた様子。取り出したのが「流行性ネコシャクシビールス」である。

ビールスをシャーレに垂らし、そこで増やしていくのだが、育てながら言い聞かせることで、ビールスの種類が確定する仕掛け。ドラえもんは「スカートの流行は元に戻って、ミニが流行る、ミニこそが流行のトップ」などと言い聞かせていく。

そしてこのビールスを風に乗せて町中にばらまくと、間もなく新しい流行が町を席巻するという流れである。


まず手始めに、ファッションリーダーを自覚しているしゃれ子がビールスの効果にあてられて、自分の格好を恥ずかしがって慌てて家へと走って戻っていく。そして一昨年の服だというミニ丈のワンピースをを引っ張り出し、町へと戻っていく。

気がつくと町を歩く女の子たちはミニスカート姿ばかり。その光景を見たのび太は、何かを思いついた様子で家へと舞い戻る。いかにもスケベエな表情を浮かべつつ「流行性ネコシャクシビールス」を垂らして、「前よりもっと短くなる」と言い聞かせる。

そして町にばら撒くと、なんと我らがしずちゃんまでも極端なミニスカート姿でしゃれ子さんと立ち話をしている。基本的にはしずちゃんは常にミニスカート姿で描かれるのだが、本作のこのシーンでは足の長さが強調されるような絵柄となっており、心なしか表情も美人さんに描かれている気がする。


これを見てさらに調子に乗ったのび太は、家に戻って「もっともっともっと、短く」と言い聞かせる。ドラえもんは「君ってかなりエッチなんだね」とツッコミを入れるのだが、次のコマでは「見に行こう」とドラえもんの方が興奮した様子で、颯爽と家から飛び出して行く。

ところが期待に反して、ミニスカ女子たちの姿は無い。本作は12月号、真冬のお話ということで、寒すぎてミニスカではおもてを出歩けなくなっていたのである。


可哀想だから温かい流行を作ってあげようということで、パンタロンを奨励することに。ただし、裾を必要以上に太くするという余計な情報を詰め込んで。

すると、まんまとしゃれ子とスネ夫までもが裾を引きずるような長さのパンタロン姿となる。「流行に敏感なんだね」とおちょくるのび太たち。スネ夫は自らの裾を踏んで転んでしまう。

そしてさらにいたずらはエスカレート。もっと奇抜な流行を作ろうということで、
・古着ルック(ボロ服)
・シャム猫カラーのメーキャップ
・外出時にはくつとげたを片っぽずつ
・小脇にゴミ箱を抱える
・人に会ったらセッセッセ、別れの挨拶アカンベー

といった項目をビールスに注入する。

・・・ということで、町中はカオスとなり、のび太とドラえもんは高みの大笑い。けれど、みんな一斉だから誰も変だと思わないとドラえもんは言う。流行の画一的な面をさり気なく描くアイロニーの効いたセリフだと言えるだろう。


さて、ビールスの寿命はせいぜい一日。明日になれば、カオスな流行は幕を閉じることになる。ただ、この「せいぜい」というセリフがポイントで、ビールスは息も絶え絶えになってもまだわずか生き伸びているようなのだ。

そう、流行の感度が極端に鈍いのび太が、一日遅れで自らがばら撒いたビールスに取りつかれてしまうのである。ママの反対を押し切ってカオスな恰好で通学していくのび太。鼻息と信念の揺るがない目つきがとっても印象的なラスト一コマなのである。



この記事が参加している募集

コンテンツ会議

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?