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「山びこ山」についての大考察!『ま夜中に山びこ山が! 』他/複数回登場ひみつ道具③

一度だけの登場でもなく、「どこでもドア」のような定番アイテムでもない。なぜか2~3回使用されたひみつ道具にスポットを当てて、その微妙な使われ方を検証していくシリーズ「複数回登場ひみつ道具」の第二弾。

前回は声を固める「コエカタマリン」を二本の記事に分けて紹介した。本稿ではちょうど先日テレビアニメでも放送されていた「山びこ山」を取り上げる。

これまでの記事はこちら。


使い方の具体的なエピソードは後ほど詳しく見ていくが、その前に「山びこ山」のネーミングセンスと道具の形状について絶賛しておきたい。

山びこ山・・・おそらくは「上から読んでも下から読んでも山本山」のモジリであろう。それはともかくとして、山が3つ並んだような形状をしていて、まさしく「山びこ山」の名前にピッタリなのである。

これまであまりドラえもんの道具の形については深く考えてこなかったが、毎回それっぽいビジュアルに落とし込んでいる藤子先生のアイディア力と画力に、改めて敬意を表したい。

「山びこ山」の形状で言えば、登場するごとに微妙にボタンや目盛りの位置や数が異なる。実は使い方にも若干の変更があったりするので、山びこ山は、再登場するたびにバージョンアップさせているのかもしれない。

・・・違うかもしれないが。このあたりも後ほど触れる。


『山びこ山』(初出:ビックリ山びこ山)
「小学三年生」1974年4月号/大全集5巻
*てんとう虫コミックス未収録作品

本作はてんとう虫コミックスに未収録の作品。最初の登場にも関わらず、単行本に拾われなかったので、本作の存在はほとんどの読者が気付いていない状況にある。(むしろ意図的に気付かせなかった)


ママに言いつけられた買い物リストを忘れてしまったのび太が、困ってドラえもんに泣きついて登場したのが「山びこ山」である。ここでは過去にしゃべった声を返してくれる道具だと説明される。すなわち、一度消えた声を復活させることができるのだ。

のび太は買い物ついでに「山びこ山」を持って空き地に行き、昨日しずちゃんやスネ夫たちと盛り上がった話を再度聞くことにする。するとスネ夫としずちゃん、昨日はいなかったジャイアンまでが集まってきて、皆で爆笑する。

すると、そのバカ話の中で「ジャイアンがズボンのチャックが壊れてズボンのままジャーとやった」という話が出てきて、ジャイアンは激怒。その話をしていたのび太はボコボコにされてしまう。

その後家に帰るとママがイライラした様子で玄関に立っている。立ち去った後で「山びこ山」で聞いてみると、「お使いに出掛けて二時間も帰って来ないのび太を叱る」と息巻いている。

こうしてのび太は、ますます家に帰れなくなってしまうのであった。


・・・とここまでが一本目の内容。ドラえもんに詳しい方だと、ここでの「山びこ山」の使い方が、一般的に知られているものと少し違うことに気付くかも知れない。続けて再登場回を見てみる。


『ま夜中に山びこ山が! 』(初出:山びこ山)
「小学四年生」1984年1月号/大全集13巻

前回の登場から約10年の時を経てのお話。

本作では部屋でゴロゴロしているのび太に、突然ドラえもんの声だけが聞こえてくる。「さっさと宿題をやれ」というのである。ドラえもんの姿が見えないので気持ち悪がるのび太。そこへドラえもんが帰ってくる。

ドラえもんは「山びこ山」をのび太が帰る頃の時間に合わせてセットしていたというのである。

「山びこ山」は二度目の登場だが、ドラえもんは全く初めて取り出したかのように原理と使い方の説明を始める。

原理・・・遠くの山に向かって叫ぶと声が跳ね返ってくる。この原理を応用した機械

使い方・・・山びこ山に声を掛けると、山びこのように声が帰ってくるのだが、その声の戻り時間を1秒から24時間までの範囲で調整することができる

ご覧の通り、二度目の登場でありながら、最初の時とまるで使い方が異なるのである。

一本目が単行本に収録されなかったこと、二本目なのに「山びこ山」が初めて登場したように描かれていること、二本目で使い方が変更されていることなどから類推するに、最初の作品は無かったものとして、一度リセットした形で本作を描いたものと思われる。

似たような例では「ターザンパンツ」などがそのパターン。初登場でその使い方に納得がいかず、お蔵入り(単行本未収録)にさせて、新たに同じ道具を使って新作を描くという流れである。


なお、「山びこ山」の形状は2作ともほぼ同じだが、一作目ではボタン一つとつまみが一つが付いており、二作目ではボタン3つと声の吹き込み口のような穴が開いている。

使用法の違いが、若干の形状変更に影響を与えているようである。


「山びこ山」の時間差機能を使って、ママを半分ノイローゼにさせた後、みんなに自慢するために空き地へと遊びに出掛ける。

空き地ではスネ夫としずちゃんがいて、「山びこ山」を紹介すると、スネ夫のアイディアで、山びこ山にジャイアンの悪口をたっぷりと吹き込んで、夜中にジャイアンの部屋の窓の外に置こう、ということになる。

前作でも空き地でジャイアンがいない間に、ジャイアンを貶めることを言っていたシーンがあった。一作目と似たアイディアが採用されていることからも、一作目は本作の習作扱いになっているように思われる。


悪口を畳みかけていると、自分の事を言われているとは気づいていないジャイアンが「悪口コンクールか」などと言いながら姿を見せる。慌てて取り消しボタンを押すドラえもん。3つのボタンの内一つは、吹き込んだ声を消す働きがあるようだ。


さて、ジャイアンが空き地にやってきたのは、近々予定しているリサイタルのためのリハーサルをするためであった。心の準備も整わない中、いきなり3時間のリハーサルに付き合わされるのび太たち。終了と共にパッと帰ってしまうが、山びこ山を置きっぱなしにしたままにしてしまう。

その山びこ山を見つけたジャイアンは、「山の置物とは珍しい」と言って持ち帰るのだが、夜中になると山びこ山に吹きこまれていたジャイアンの歌がボゲ~と流れ出す。寝ていたジャイアンは自分の歌声で起こされ、「誰だ!夜中にへたくそな歌を・・・」と言ってしまっている。

そして、ここから3時間のリサイタルが山びこ山から流れ出し、困ったジャイアンは山びこ山を抱えたまま近所を練り歩くという、甚だ近所迷惑な存在となってしまうのであった。


ちなみに本作と似たような展開の話に『おそだアメ』(1975年11月)がある。一粒舐めてしゃべると10分後に声が遅れて聞こえてくるアメのお話である。

『おそだアメ』は二粒飲むと10分×2粒で20分後に声が聞こえてくる。つまり、時間の調整が可能と言うことだが、これって二度目の「山びこ山」とほぼ同じ働きということになる。

この作品でもジャイアンが3時間のコンサートを開くことになるのだが、おそだアメを事前に大量に舐めさせることで、のび太たちは歌の直撃を回避する。そして夜中になって遅れてジャイアンコンサートの歌声が空き地に響き渡り、これまた近所迷惑となってしまうというオチである。


さらに付け加えると、大長編第7弾「ドラえもん のび太と鉄人兵団」では「山びこ山」が、「改良型山びこ山」として再登場。音だけではなく、光や爆風にも反応してこだまを返す機能が追加されている。

形状は二度目の登場バージョンとほぼ変わらない(若干、山の形が異なっているが・・・)。




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