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用途不明?カタカナ製造薬品=コエカタマリン『声のかたまり』/複数回登場するひみつ道具①

「ドラえもん」では1000種類以上のひみつ道具が登場しているが、その中でも何度も使用される定番道具と、一回こっきりで姿を消す道具がある。

定番道具は、非常にベーシックな役割が与えられているものがほとんどで、空を飛ぶ機能を持つ「タケコプター」や、空間移動の「どこでもドア」、時間移動の「タイムマシン」など、初登場の段階から定番化されることが決まっているようなものばかりである。

そうした頻出道具は、「大長編ドラえもん」における大冒険にも活用されがちで、一度大長編で使用されると、その後も何度も登場する定番道具の地位を確立していく。

その一方で、一度きりしか使用されない道具もある(数としては一回きりの方が遥かに多い)。せっかく持っているのだから、何度も使えばいいのだが、最初からアイディア使い捨てのような道具だったりするので、なかなか二度目を使うチャンスが訪れないようだ。


そんなドラえもんの道具事情の中で注目したいのは、原作で複数回(2~3回)登場するひみつ道具についてである。

1度で終わりにせず再登場させたということは、最初の使用時に作者が手応えを感じたということを意味する。そういった道具は、オリジナリティがあって、使い方の幅があるものだと想像できる。

かと言って定番化するまでには至らなかったということで、若干メジャー感を欠くものなのだろう。

なぜ複数回使われたのか、それでいてなぜ定番化しなかったのか、そうした微妙な立ち位置にあるひみつ道具を取り上げて、その理由について思いを馳せてみたい。

シリーズタイトルは「複数回登場するひみつ道具」。おそらく長期シリーズとなるだろう第一回目は、声を固めるというあの薬の話題から始めたい。


「コエカタマリン」という道具をご存じだろうか。原作において3度も登場した道具(薬)なので、知名度はかなり高めと思われる。アニメオリジナル作品や、劇場版のオリジナル作品でも登場した「準メジャー」な道具である。

「コエカタマリン」を飲んで大きく発声すると、その声を固めることができる。すなわち、「ワー」と叫ぶと、「ワ」と「ー」の形状をしたブロックのようなものが製造されるという仕組みだ。

後ほどまた記すが、この道具、本来の用途が不明である。声を固めることにあまり意味があるように思えない。また、一度「コエカタマリン」を飲んでしまうと、効き目が切れるまでブロックを製造しまくることになるので、むやみに大声を出せなくなってしまう

便利さと不便さを天秤にかけた時に、後者に傾くような気がしてならないのである。

まあ、何はともあれ、「コエカタマリン」の実践例を具体的なエピソードから拾ってみようではないか。


『声のかたまり』(初出:コエカタマリン)
「小学二年生」1976年10月号/大全集8巻

「コエカタマリン」初登場は1976年の10月。

本作は「わあん」と泣き叫びながらのび太が帰ってくるところから始まる。この時、ドラえもんが「すごい泣き声」と言って耳を塞いでいるが、これはのび太の声の大きさを表現している意味合いとなる。

のび太はいつものようにジャイアンに泣かされたようで、どうしていつもそうなのかとドラえもんが聞くと、のび太はこう答える。

「それはもちろん僕の方が、ジャイアンより背が低くて瘦せていて力が弱く気も弱いから」

と、完敗宣言なのである。

ドラえもんは「負けないのは泣き声の大きさだけか・・・」と呟くのだが、そこであるアイディアを思いつく。のび太の声を生かそうというのだ。そして取り出したのが「コエカタマリン」という薬である。

のび太は薬と聞いて、身構える。薬は嫌いだということだが、確かにドラえもんの道具で、薬を飲んでロクな目に会わないという経験則がのび太にはある。

一例としては『ノロノロ、ジタバタ』という作品がある。


逃げ回るのび太はドラえもんに試しに飲んで見せろと注文。ドラえもんが飲んで「ワッ」と大声を出すと、「ワ」と「ッ」の声が文字ブロックとなって口から飛び出し、のび太に直撃する。

ここで「コエカタマリン」のルールや特性がわかる。まずは大声を出すとブロックが出現するということ。つまりは普通の声では声は固まらない。次に、ブロックはカタカナであること。平仮名や漢字ではない。日本人の発生だからカタカナしばりなのか、外国人ならアルファベットになるのかは不明である。

そして「ワ」の字がのび太に当たって痛がっているので、ある程度固い物質でできているものと思われる。ある種の凶器のような扱いになるだろうし、実際にジャイアンに対抗する武器としてのび太に託している。


ただ、本来どのような使い方をするべき道具なのかはよく分からない。本作でも、「コエカタマリン」が想定する使用方法はドラえもんから紹介されることは無かった。

また効き目は「明日まで続く」とドラえもんが説明している。何と声を固める効用は1日続くというのだ。どんな使い方を想定するにせよ、武器になり得る声を固める薬(声が固まってしまう薬)を1日使い続けるのは、危険極まりない。

本作のラストでは、その代償をドラえもん本人が負うことになるのだ・・。


「早くジャイアンに大声をぶっつけてやろう」と意気揚々と家を出るのび太。すぐに標的に出会えれば良いのだが、なかなかそういうことにはならないのが「ドラえもん」のパターン。

まずしずちゃんが声を掛けてくる。ボールが木の上に引っ掛かったので、取って欲しいというのだ。背も低く運動神経もないのび太に頼むのは無謀というものだが、「何とかしてよ、男の子でしょ」と無茶ぶり。

現場に着いたのび太は案の定、「無理だよあんな高い木」と驚いて、「エー」と声を上げる。すると、「コエカタマリン」の効果で「エ」と「ー」のブロックが生成される。

そこでのび太は「エ」の字を台にして、「ー」を使ってボールを取ることに成功する。その様子を見たしずちゃん、明らかにドラえもんの道具の効果だと思えるこの場面で「のび太さんて不思議なことができるのね」と真顔で感心する。

「もういっぺんやってみせて」とのび太に告げると、ちょうどお魚をくわえたドラネコがやってくるので、「コラ」とのび太が声を張り上げると、飛んでいった「コ」の字がネコの上に覆いかぶさって、捕えることができる。

しずちゃんは「すごいっ」「素敵っ」「素晴らしいわっ」とベタ褒めするものだから、気を良くしたのび太は気分が大きくなって「ハハハハハハ」と高らかに笑う。

すると大量に生み出された「ハ」の字がしずちゃんの体を直撃して「ハ」で埋もれさせてしまう。怪我をしてもおかしくない場面だが、「ごめんごめん」と軽い調子でのび太はその場から走り去る。「コエカタマリン」の最初の被害者はしずちゃんとなってしまったようだ・・・。


その後も遠くのスネ夫に「オーイ」と声を掛けてカタカナブロックで体を押し潰したり、「ワッ」と驚いた声を上げて、人の家の植木鉢などを大破させたりと、近所迷惑なのび太。「うっかり大声も出せない」と、ようやく「コエカタマリン」の本質を理解する。


その頃、のび太が探しているジャイアンは、いつものようにムシャクシャして町を徘徊していた。「誰もでもいいから苛める相手が欲しいぞ」とかなり無茶苦茶な怒り様である。

そんなタイミングでのび太を発見するジャイアン。「いたっ」と喜んで殴りかかろうと近づいていくと、逆に「イタ」とのび太に見つかって、「イ」と「タ」のブロックで攻撃を受けてしまう。

「やったなあ」と反撃態勢を取るジャイアンに、のび太は必殺「コエカタマリン」を発動。「バカ マヌケ トンマ ウスラデブ ノータリン」と罵詈雑言の固め打ちで、ジャイアンを押し倒してしまうのであった。


なんやかんやありつつも、ジャイアン撃退という目的を達成したのび太。「やったよ、ドラえもん」と喜んで帰宅すると、玄関口で無造作に置かれたブロックに躓いてしまう。

「なんだこりゃ」と不思議に思うのび太をめがけて、「ハクション」というブロックが飛んでくる。何と先ほど「コエカタマリン」を飲んだドラえもんが、風邪を引いてしまったらしく、大きなクシャミをする度に、ブロックを家中にばら撒いていたのである。

「コエカタマリン」の効用は丸1日。明日までにどれほどの声のカタマリが家中に積み上げられてしまうのだろうか・・・。やっぱり「コエカタマリン」は、用途不明の迷惑な道具でしかないような気がしてならないのである。


次稿では「コエカタマリン」が2度目、3度目に登場したエピソードを一挙に紹介する。


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