見出し画像

道具の新用途開発名人のび太『「ワ」の字で空をいく』他/複数回登場ひみつ道具②

ドラえもんがポケットから取り出す便利なひみつ道具は、一部の定番道具を除けば、大体一回しか使われぬまま、ポケットの中のどこかで永遠に眠っている。

しかし、時々、思い出したように2度3度と使われるひみつ道具がある。(実際に作者が思い出しているものと思われる)

僕の興味は、その数回使われる道具に注がれる。一体どんな理由で再登場を果たしたのか? 一回では描き切れなかった使い道が発見されたのか、便利だからもう一回使うことにしたのか?

しかしその一方で、それは数回の使用に留まり、「タケコプター」や「もしもボックス」のように定番アイテムにはならない理由も気にかかる。定番化するには至らないのはなぜだったのだろうか?


そういうことで、個人的な興味関心から、複数回登場しているひみつ道具について、詳しく見ていくことにしたい。その1回目の題材として、声を大にして言うと、その声がカタカタのブロックとなるという薬品、「コエカタマリン」について取り上げる。

前稿では「コエカタマリン」初登場回についてじっくりと考察を加えた。ジャイアンへの仕返し目的で登場したコエカタマリンだったが、そもそもなぜこの薬が開発されたのかは意味不明だというような話を書いた。

詳しい内容はこちらから・・・。


本稿ではコエカタマリンの再登場、再々登場の回を見ていく。

『おざしき水族館』(初出:ミニ水族館)
「てれびくん」1980年7月号/大全集19巻

前回の登場から実に約4年ぶりに再登場を果たす。本作は一度記事、簡単な記事にしている。「潜水艦」というあまりヒネリのない乗り物を使って、のび太の部屋にいながら水族館を作って見物しようとするお話。

なお、「潜水艦」は微妙に使い方が異なりつつも、幾度も原作に登場する「定番道具」である。

「コエカタマリン」は冒頭で、のび太が寝ているドラえもんのポケットを探ってたまたま取り出した道具として登場。特に使われることなく、のび太のポケットに収まっていたのだが、物語後半で使用するシーンが出てくる。

具体的には、ドラえもんのポケットを外したまま小さくなった潜水艦に乗り込んで金魚鉢の中に潜るのだが、水中で故障してしまい、戻れなくなってしまう場面。

ママが部屋に入ってきたので、のび太がコエカタマリンを使って助けを求める。声が固まれば、水の外からでも意思が伝わるかもしれない。しかしこの時はママに別のトラブルが発生して、読んでもらえない。

その後ジャイアンが部屋に入ってきて固まった声に注目を引くのだが、「ケテスタ」と読んでしまって、意味を掴んでくれない。本作では「コエカタマリン」は、ちっとも役に立たなかったようである。

なお、コエカタマリンの使用法について、新たに一つだけ発見があったのでその点を補足。のび太は潜水艦の中で大声を出したが、カタカナブロックは潜水艦の外に作られていた。これは声ブロックは口から出てくるわけではなく、発声後、一瞬間があって生成されることを意味している。


『「ワ」の字で空をいく』(初出:空とぶコエカタマリン)
「小学四年生」1982年8月号/大全集12巻

さらに2年後、コエカタマリンは主役の道具として3度目の登場を果たす。これまで2作では、ジャイアンを倒す凶器としての役割しか果たせていなかったが、道具の使い道を考えさせたら天下一品ののび太によって、新たな使用法が開発されることになる。


のび太が遅刻対策としてタケコプターを使って登校しようとしているのに腹を立てたドラえもん。心を鬼としてタケコプターを貸さず、のび太は遅刻して立たされてしまう。

ドラえもんは「これに懲りて自分の生き方を真剣に考えて欲しい」と願うのだが、当ののび太は「寝坊しても遅刻しない方法」や「遅刻しても叱られない方法」について考える。

「どうしたら寝坊しないか」とは考えないのが困ったもの、と作者がナレーションの形で思わず突っ込んでいる。


そんな思案中にドラえもんが落としていった「コエカタマリン」を見つけるのび太。「この際関係ない」と、最初は無視するのだが、次の瞬間「閃いた!!」と、のび太の天才的な能力が発露する。そう、道具の別の使い方の発案能力である。

「声というのはつまり音だ。音は1秒間に空気中を三百・・・何十メートルだったか走るんだ。もし声のかたまりに乗れたら・・・」

とぶつくさ言いながらコエカタマリンを飲む。天才のび太は、カタカナブロックを音速で飛ぶ乗り物にできないだろうかというアイディアを思いついたのである。また、音速は約340mという知識をのび太が知っていたことも驚きである。


普通に大声を出しても、ブロックはあっと言う間に飛んで行ってしまうので、その上に乗るのは不可能である。そこでママに飲ませて大声を出させて、飛び出したブロックに乗っていこうと考える。

ママを怒らせて「ノビタ」と叫ばせ、出てきた「ノ」の字に服の襟を引っかけて、空に飛び出すことに成功する。のび太はこれを「音速字ェット機」と呼ぶ。この命名も天才的(?)だ。


これなら学校まであっと言う間だと思うのだが、そうは問屋が卸さない。学校まで声が届かないのである。一度で飛んでいけないのなら、やはり自分の声を使うしかない。何とかならないか、さらに考えるのび太。この思考能力は是非とも勉学で活用いただきたいものである。

天才のび太は、ここでも改良案を思いつく。それは壁に向かって叫べば、音が跳ね返ってくるので、それを掴まえればいいというのである。そして乗りやすい字を考えて、「ワ」と発声する。

見事「ワ」の字は背もたれ付きの揺りかごのような形状なので、乗り心地はバッチリ。「ワの字大好き」とご満悦の空飛ぶのび太なのであった。


「ワ」の字飛びに慣れてきたのび太。さらなる訓練を兼ねて、しずちゃんをこの「音速字ェット機」を使って高井山に行こうと誘う。高井山と聞いて遠いと反応するしずちゃんだが、音速なので、「ワッと言う間」に到着する。

なお、高井山はしばしば「ドラえもん」に登場する山で、東京都・高尾山をイメージしているようである。


高井山ではコエカタマリンを使って山びこをブロック化させて、「ヤッホー」というこだまをあちこちの山肌にぶつけていく遊びをする。

ところがこれがいけなかった。帰宅後、ドラえもんにはコエカタマリンのことは内緒にしていたのだが、ニュースで高井山で空から落ちてきた大きな「ヤ」と「ホ」によってけが人が出たと報じられ、ドラえもんに気付かれてしまう。

コエカタマリンを取り上げられて、これで遅刻対策は再度練り直し。布団に入り、明日からどうしようかと考えるのび太。「先生を寝坊させる方法はないか?」「日本中の時計を遅らせる方法は?」・・・。

・・・そんなことを考えていたばかりに、翌朝も寝坊してしまうのび太。遅刻しないためには、前日の早寝が一番効果的なのではないだろうか?


3度目の登場となったコエカタマリンは、音速字ェット機になるという、真打のような使われ方が見つけ出される。発見者は、ドラえもんの道具の「本来から離れた別の使い方」を考案させたら右に出る者がいないのび太である。

ただ、実際の所、空飛ぶ道具としてコエカタマリンを再登場させたのは、のび太ではなく、作者の藤子F先生である。初登場から6年後というタイミングで、どうやって突然コエカタマリンをもう一回使ってみようと発想できたのだろうか?

まさしく天才の仕事である。

そしてどんなカタカタだったら空を飛ぶ乗り物に適しているか、一生懸命書き出したりして考えたんだろうなと思うと、何だかほのぼのした気持ちになるのである。




この記事が参加している募集

コンテンツ会議

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?