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潜水艦で行くミクロな珍冒険/のび太、ミクロの決死圏①

藤子先生の作品では、体が小さくなる話がとにかく多い。特に「ドラえもん」では、誰もが知っている「スモールライト」や「ガリバートンネル」など、体を小さくするひみつ道具がたくさん存在している。

有名ではないが、コバンザメのように小さくなって他人の体にくっ付いて動けるようになる「いただき小ばん」や、お金と身長を交換する「デビルカード」などもあって、「小さくなる」バリエーションも様々描かれている。

いずれにせよ一つ言えることは、藤子F先生は小さくなって、ミクロの世界で冒険するというモチーフがお気に入りだということだ。いや、F先生に限らず、古今東西ミクロの世界の大冒険は、子供心をくすぐる一大テーマなのかもしれない。


おじさん世代では、小さくなる映画と言えば、リチャード・フライシャー監督1966年に公開された「ミクロの決死圏」がすぐに思い浮かぶ。ミクロ化の制限時間を延ばす技術を得ていた博士が襲撃されて脳内出血を起こす。制限時間1時間の中、ミクロの潜航艦で血管を通って脳内まで進んで、血種を壊す手術?に出発する。

原題は「Fantastic Voyage」、直訳すると「幻想的な航海」となるが、この邦題が「ミクロの決死圏」となるわけで、これを考えた人凄いなと本気で感心する。

「ミクロの決死圏」はその当時の最新撮影技術が用いられているようだが、今見るとミニチュアセットと合成のオンパレードで、少し微笑ましく思える。しかし、タイミリミット設定や、乗組員たちの内心の攻防などもあって、映像については一切気にならなくなる。未見の方は何らかの方法で見て欲しい。

また最近のミクロものでは、環境問題などを背景にした「ダウンサイズ」が、藤子SF短編っぽくて面白かったし、マーベルの「アントマン」シリーズも、小さくなったり大きくなったり、虫を使ったりとこちらは子供が楽しめる作品となっていた。


そこで今回は、「ドラえもん」の中から、体が小さくなって冒険に出る話をいくつか抜粋して、紹介・考察を行っていきたい。

名付けて、「のび太、ミクロの決死圏」。←おじさん世代なので

『虫めがね』「小学二年生」1971年2月号/大全集3巻

誰もが知っているスモールライトは、初登場が『ぞうとおじさん』(1973年8月号)だが、この時はぞうを小さくするのに使われる程度で、のび太たちが小さくなって活躍するような展開にはならなかった。

小さくなる話としては、『虫めがね』(1971年2月号)が一番早く描かれている。レンズを覗くと、見えた物体が大きくなるものと、小さくなるものの二種類の虫めがねを使ったお話である。

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この話では初期ドラ・低学年ドラの敵役だったスネ夫がやはり敵役で登場。スネ夫に小さくされてしまったのび太たち。スネ夫は自分を巨大化させて、いつもいじめるジャイアンに仕返ししたり、どこかの家の屋根を取ってしまったりとやりたい放題。のび太たちはおもちゃの車でスネ夫の後を追い、隙をみて小さくさせて一件落着。

スネ夫の極悪ぶりのせいなのか、本作はてんとう虫コミックでは収録されていない貴重な作品である。

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『せん水艦で海へ行こう』「小学二年生」1971年8月号/大全集3巻

本作は「ドラえもん」の小さくなる話第二弾。こちらは小さくなっての冒険が初めて描かれた。出てくるひみつ道具は「潜水艦」となっており、あまりヒネリがない。この道具は、別の作品でも登場するので、そこでもう少し詳しく説明したい。

お話は、スネ夫による「のび太だけのけ者」から始まるドラえもん頻出のストーリーとなっている。この頃のドラえもんは、スネ夫の自慢か意地悪をきっかけにする話が多く、改めて初期ドラはスネ夫が目の敵だったことがわかる。

スネ夫がモーターボートを買ったので乗せてやるということになったが、スネ夫のパパの車は4人乗りで、スネ夫とジャイアンとしずちゃんを乗せて満員となってしまう。別に普通の自家用車だったら5人乗れると思うが・・・。

それと、この頃のしずちゃんは、それほど優しくないので、後年に出てくるような「のび太さんも誘わないなら私も行かない」などというような殊勝な台詞は出てこない。むしろ、

「おかあさんに断ってくるわ」

のび太のことは全く見向きもしないのである。

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この話に怒ったのはドラえもん。

「乗るな乗るな、モーターボートがなんだ。こっちは潜水艦で行こう」

と出した道具は手のひらサイズの潜水艦。のび太はキーっとなるが、これは水に入れると回りの広さに合わせて伸び縮みするという優れものであった。

風呂場に入れて多くして、乗り込むドラえもんとのび太。のび太は「風呂場で乗ったって面白くない」と不満だが、この潜水艦の凄いところは、水から水へとジャンプしていける機能が付いているということだ。

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このジャンプを繰り返して、南の海を目指そうという訳である。さあ、ここからがミクロの大冒険の出発である。ちなみにこの小さい潜水艦は、「ミクロの決死圏」からの着想ではないかと考えられる。その理由はまた後で。

ではジャンプを見ていく。

風呂場
→②おじさんの飲む氷入りの水(南極かと勘違い)
→③金魚鉢(お化け魚でビビる)
→④洗濯機(渦巻きに巻き込まれる)
→⑤茶会のお茶(おばさんに飲み込まれそうになる)
→⑥ビニールプール(太った女性に押しつぶされそうになる)
→⑦水洗便所
→⑧汚い用水路

と、まさしく大冒険だが、ロクな「水」に飛んでいかない。都会における水とは、こんな感じなのだろうか。

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そして次のジャンプで海に着くと計算するドラえもん。疑いの眼ののび太であったが、構わず最後のジャンプ!・・・すると、海とは思えない狭い空間。そしてバカに熱い! ヤケドしちゃう!

一方、モーターボートを走らせ得意満々のスネ夫と、自慢に聞き飽きたジャイアンとしずちゃん。騒いで喉が渇いたスネ夫が、熱いお茶を飲もうと水筒を開けると、そこには茹でダコ状態の潜水艦に乗ったドラえもんとのび太の姿。

最後の最後まで、ジャンプのうまくいかない「潜水艦」なのであった。

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『たとえ胃の中、水の中』「小学五年生」1975年11月号/大全集4巻

さて『せん水艦で海へ行こう』から4年後。この間も小さくなる話はいくつかあったが、またもや「潜水艦」が登場する。また、初めて小さくなって体の中に入っていくという「ミクロの決死圏」にかなり近しい構成となっている。潜水艦の形もよく似ており、だいぶ参考にしているはずである。

しずちゃんがピーナッツを食べている時に、間違ってお母さんの指輪から外れてしまっていたオパールを飲み込んでしまった、と相談が持ちかけられる。ちなみにオパールは50万相当だそう。

その話を聞いたのび太はデリカシーもなく、

「早く何か出せよ。体を切り離すのこぎりとか、また繋ぐセロハンテープとか」

と言い出して、しずちゃんを震え上がらせる。『分かいドライバー』の時と同様、のび太はすぐに体をバラバラにすることに躊躇がないらしい。

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そこで出した道具が「潜水艦」である。『せん水艦で海へ行こう』の時は水に入れるとその入れ物の大きさに自動的に調整してくれたが、今回は「スモールライト」で小さくして、これをしずちゃんに飲み込んでもらおうということになる。機能が異なっているようだが、後ほど水から水へとジャンプしているので、基本的に同一のひみつ道具と考えて良いだろう。

しずちゃんは、のび太とドラえもんを口に入れることに、「なんかバッチい感じ」と拒否感を示すが、「嫌ならいいんだよ」と叱られて嫌々飲み込むことに。

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さあ人体の大冒険に出発である。

食道を順調に通過し、あっと言う間に胃の中。ライトを照らすと、ピーナッツのかけらがゴロゴロしており、「よく噛まなかったな」と指摘されて、しずちゃんは、恥ずかしがって体を起き上がらせる。

胃の中の潜水艦は、その衝撃でガクガクと揺り動かされて、たまらず動いたら壊れて出られなくなってしまうと脅す。

そして光り輝くオパールを発見し、取り上げに成功。この潜水艦は手近の水に飛べる、ということで、ジャンプ! お風呂場へと脱出することに成功する。冒険はあっけなく終わってしまったのだった。

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ところが、ここでしずちゃんにいたずらを仕掛けることに。部屋の外から、「胃の中で潜水艦がエンコした」と、嘘をつくのである。しずちゃんは、ギク、と驚く。まさかこのまま二人はお腹の中に留まってしまうのか??

のび太はさらに悪ふざけ。

「絶望というわけではない。うまくいけば、このまま食べ物と一緒に流されて行って、小腸から大腸へ・・・。明日あたり出られると思うんだけど

つまり○んちと一緒に出てくる、というわけである。これを聞いたしずちゃんは半狂乱で「そんなの絶対嫌!」と泣き叫ぶ。そこで、ドッキリ成功とばかりにのび太がオパールを持って現れる。

しずちゃんは、怒って部屋中のものをのび太たちに投げつけるのだが、何かがのび太の口の中へと飛び込んでしまう。部屋から無くなったものは・・・なんとインクビン! 今度はのび太の胃の中へと冒険に出発するドラえもんであった。

本作は小さくなっての人体大冒険と思いきや、しずちゃんのパーソナリティが爆発する忘れ難い一本である。

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『おざしき水族館』「テレビくん」1980年7月号/大全集19巻

最後に「潜水艦」がもう一度出てくるお話として、『おざしき水族館』にも簡単に触れておこう。こちらもスネ夫の自慢に端を発し、ドラえもんの道具を駆使して水族館を作り、潜水艦で見物しようというお話。

この「潜水艦」も水から水へのジャンプ機能が装備されているが、加えて自ら小さくすることもできる新機能付き。ただし、本作では水中で壊れてしまい、危うく水槽から脱出できなくなってしまう。『たとえ胃の中、水の中』で散々壊れやすいとしずちゃんを脅していたが、本当に故障しやすい作りのようだ。

ちなみに本作ではドラえもんのポケットにはフタがあったという新事実が発覚していて、その点が藤子Fマニアとしては目を引くところである。

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さて、「潜水艦」を使ったいくつかのダウンサイジング作品を見てきたが、この記事はここまで。次回は小さくなったのび太たちの「宇宙戦争」をテーマとしたあの作品を考察する!

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