見出し画像

なんでもあり?? 無生物催眠メガフォン『ドライブはそうじ機に乗って』他/複数回登場ひみつ道具⑤

ドラえもんの道具は一回だけ登場することが多いが、一方で「どこでもドア」「ガリバートンネル」のような何度も繰り返し使用される「定番道具」もある。

ただ、僕が心惹かれるのは、一回登場しただけではなく、その後、二度目三度目の使用をされた道具で、かつ定番化してないもの。それらは、藤子先生が敢えて複数回登場させたものであり、それなりに作者の思い入れのある道具のような気がする。

そこで、複数回登場を果たした「準メジャー」なひみつ道具について、その登場作を検証していきたい。題して「複数回登場ひみつ道具」。これまでに①コエカタマリン ②山びこ山 ③石ころぼうし と見てきたが、今回は「無生物さいみんメガフォン」を取り上げたい。

なお、「無生物さいみんメガフォン」は、都合3回登場しているが、「無生物さいみんメガホン」と表記されることもある。表記については、登場している作品に合わせていきこととしたい。


『ドライブはそうじ機に乗って』(初出:無生物さいみんメガフォン)
「小学四年生」1978年3月号/大全集7巻

初登場は割とスカッとするお話。

冒頭でスネ夫のいとこ(スネ吉兄さん)がスーパーカーを購入し、ドライブに行くことになるが4人乗りということで、ジャイアンとしずちゃんが選ばれて、のび太はいつものように弾かれる。

このパターンだと、しずちゃんが「だったら私も抜ける」と配慮してくれることもあるが、本作では全く意に介さず車に惹かれていく。やはり女子はドライブ好きってことなのだろうか。


しょげるのび太は、家に帰ってマンガでも読もうと思うのだが、何らかの理由でママに捨てられていた。仕方なく「偉い人の話」を手に取ってみるが全く面白くない。これはおそらくパパがクリスマスプレゼントで買ってくれた本であろう。

テレビでも見ようと言うことでチャンネルをつけると、催眠術の番組が放送中。「すっかりその気になっちゃうんだね」などと喜んで見ていたが、突然故障して映らなくなってしまう。野比家のテレビは古くて壊れやすいのである。

ドライブ・マンガ・テレビと次々にやりたいことを封じられてしまったのび太は、ここで感情が爆発し、「僕はなんて運が悪いんだ」とテレビをガンガンと蹴飛ばす。

ドラえもんが「何を癇癪起こしてるんだ」と割って入ると、のび太は事情を説明し、「神様は僕を見放した」とかなり大袈裟に泣き出すのであった。


そんなのび太を哀れんだドラえもん、取り出したのが「無生物さいみんメガフォン」である。形状は機械っぽいメガフォンで、これを使えばただの石ころでも催眠術を掛けることができるという。

ちなみに催眠術が無生物だけでなく、生物にも効くのかどうかは不明である。

「考える力のないものに催眠術がかかるわけがない」と疑うのび太に、いくつか試してみることに。鏡台をテレビにしたり、偉い人の本(=野口英世の伝記)を爆笑のマンガ本にする。

さらには机をピアノ、バットをラッパにして「ネコふんじゃった」を大演奏するが、あまりの大音量にのび太のママが激怒。部屋に向かってくるのを察知して、のび太は窓に向かって「君は一階の窓だ」と、それは無理だろうという催眠術をかける。

すると、二階の窓を開けるとそこは庭。この時点で「無生物さいみんメガフォン」は何でもありってことが明確化する。


そしてここからはさらにエスカレート。家の階段をエスカレーター、廊下をトランポリン、座布団を空飛ぶじゅうたんへと催眠術を掛けていく。ママがそのために酷い目に遭っている間に、掃除機をスーパーカーに変えて、ドライブをすることに。

見た目は完全に掃除機だが、催眠術をかけると掃除機を見ている人たちにも立派なスーパーカーに見えるらしく、道行く人に「名前はわかんないけどかっこいい」と羨ましがられる。

「無生物さいみんメガフォン」は、催眠術を掛けて無生物に何か別の働きをしてもらう効果と同時に、外見的にも別の物に見せる効果もあるようである。


時速300キロは出ると言う掃除機スーパーカー。道を走行していると、先に出発していたスネ吉のスーパーカーを前方に捉える。そこでのび太は仲間外れにされた意趣返し。スーパーカーに対して君はゴミ収集車だぞと催眠術を掛ける。

するとスネ吉の車はゴミ捨て場の前で急に止まり、オルゴールが流れ出す。そして、周囲からゴミを持った主婦たちが集まってきて、スーパーカーにぶちまけ始めるのであった。


「無生物さいみんメガフォン」は、無生物に催眠術を掛ける道具ということだが、実質的には別の道具に一時的に改造させる機械という風に考えた方が良さそう。

そう考えると、これは中々使い勝手の良い便利な道具である。それは藤子先生も自覚していたようで、この後も再登場を果たすこととなる。

次の登場はその2年半後の『魔女っ子しずちゃん』(1981年8月号)である。この時は魔女っ子に憧れるしずちゃんの希望に応じて、ホウキを空飛ぶホウキにしたりする。

なお、この時は「無生物さいみんメガホン」という名称となっている。既に記事にしている作品なので、興味ある方以下から飛んで下さい。


『空とぶマンガ本』(初出:無生物さいみんメガホン)
「小学四年生」1986年6月号/大全集17巻

そして三回目の登場は、『魔女っ子しずちゃん』から5年後。ここでも「メガホン」表記となっている。三度目の登場と言いつつ、あまり再登場を意識したやりとりは見られない。


本作は珍しくのび太のママとスネ夫のママが電話をしているシーンから。二人とも子供がマンガばかり読んでいるので、思い切って全部捨ててしまいましょうなどと話し合っている。

「マンガを捨てられたら生きてるかいがない」ということで、何とか漫画を守り切る・・・という展開となっていく。

まずスネ夫とどうしたら良いか相談するために、カレンダーと電気カミソリを組み合わせて、「無生物さいみんメガホン」で電話に仕立て上げる。3度目の登場だからか、詳しい使い方の説明はないものの、のび太は初めて見るような様子である。

カレンダーには「0」の数字が無いが、これは手書きで対応。結構適当な話である。無事電話がスネ夫と通じる。スネ夫はこの時代にしては珍しく、自室の子機で応対。やはり金持ちは家電の近代化が進んでいる。

なお、スネ夫はこの時、将来はマンガ図書館を作るのが夢であると語っている。似たようなことを言っているお話があったのだが、ちょっと失念してしまったので、知っている方はご指摘下さい・・。


さてここからはお話の筋は割愛しつつ、「無生物さいみんメガホン」の何でもアリ感を見ていく。

ドアをかべにする。
ハシゴを東京タワーにする。
漫画の詰まった段ボール箱を風船にする。
野球のボールをウサギにする。

この中で、風船になった段ボールが、途中自信を無くして(?)浮かぶのを止めようとする。暗示が掛かりやすい/掛かりにくいということがあるらしい。


気になるマンガの行方だが、のび太はひとまず空き地の土管の中に隠す。いつまでも隠し通せないので、ドラえもんは直接ママに交渉することに。その結果、マンガを読む時間より勉強時間を増やすという条件で漫画を残しても良いことになる。

一方のスネ夫は「無生物さいみんメガホン」を使って、マンガ本を「鳥」にする。空中に逃そうと言うアイディアだが、さらに調子に乗って「白鳥のように舞い上がり、誰にも捕まるな」と暗示をかけたばかりに、マンガたちは大空へと羽ばたいて行ってしまう。

「誰にも捕まるな」が効いたのか、なぜか渡り鳥となり北の国を目指すマンガ本なのであった。


「無生物さいみんメガホン」は、最初の登場作『ドライブはそうじ機に乗って』では良いことだらけだった。

一方で三回目の登場となった『空とぶマンガ本』では、暗示が効きにくいということだったり、思わぬ効果を発揮して北の国を目指してしまったりと悪い面も描いている。

どんな便利なひみつ道具も、使い方では不便なことになるという藤子F流の思想があるのだが、「無生物さいみんメガホン」についても、善悪両面を描きたかったのかもしれない。



この記事が参加している募集

コンテンツ会議

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?