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多幸感ばっちり!『重力ペンキ』/藤子Fのクリスマス2023

今年も早いもので一年が終わろうとしている。残すイベントはクリスマス、M1、紅白歌合戦くらいだろうか。

藤子Fノートでは今年で4回目のクリスマスを迎えるが、過去3年とも藤子作品の中からクリスマスをテーマにしたものを紹介してきた。過去の記事はこちら・・・。


さすがもうネタ切れか・・・というところではあるのだが、いやいやそんなことはございません! 今年も「藤子Fのクリスマス2023」と題して、数本のクリスマスエピソードをご紹介したい。

まずは「ドラえもん」の、あの多幸感たっぷりの作品から・・・。


「ドラえもん」『重力ペンキ』
「小学三年生」1972年12月号/大全集3巻

まず自分の話で恐縮だが、子供の頃、どこかの家に集まってクリスマスパーティーをしたことがあった。小学4~6年生くらいだっただろうか。田舎暮らしだったので、比較的大きな一軒家に住んでいる友だちも大勢いて、20人くらい入れる家に集まった記憶がある。

学校の行事とは別で、友人の家に大勢集まって遊ぶ機会は珍しく、それなりに楽しかった思い出がある。

ただ、大人になってみてわかるけれど、子供は楽しいだけだろうが、集まった家の家族は大変だっただろうな、と思う。準備も大変だし、後片付けも一苦労。会費を集めたりしていたけれど、持ち出しもあったんではないかと想像する。

本稿で見ていく『重力ペンキ』は、子供を持った立場で読み返すと、少々胸に迫るものがある作品だ。子供たちが心からクリスマスパーティーを楽しむためには、その陰に大人のご苦労や子供への愛情があることが理解できるからである。


のび太たちも毎年どこかの家に集まってクリスマスパーティーをしているらしく、去年はしずちゃんちで、一昨年がスネ夫の家で開催されたらしい。そこで、今年はどこで集まろうかという話題となる。

のび太やジャイアンは騒ぐとママが怒ると言って、手を上げることができない。そこでスネ夫は、「ドラえもん」初登場となるあばら谷君に、「君のとこはどう」と話を向けると、「うん、まあ・・・」と控えめな返事をする。

絶対に訳ありの様子なのだが、のび太たちは「決まった!」と大喜び。今年のパーティー会場はあばら谷君の家となり、めいめいお菓子を持って集まることになる。


のび太とドラえもんは「インスタントツリー」を用意。しずちゃんもパーティー用に服を着替えたりして、皆、準備万端である。ところが、ハタと気がつく。誰もあばら谷君の家がどこにあるのか知らないのである。

確かに子供の頃、家のわからない子がいたなあと思い出されるが、最近ではプライバシーのこととかもあるので、互いの家の場所を知らないことも増えているように思う。


皆で手分けしてあばら谷君の家を探すことになり、のび太とドラえもんが、一人佇むあばら谷君を見つけるのだが、どうやら困っている様子。あばら谷は「考えこんでてもきりがないや。母さんに頼んでみよう」と歩き出す。

のび太たちが後を追っていくと、あばら谷君はまさにあばら家のような粗末な小さい家に帰っていく。今どきあばら家という言い方はもうしないのだろうけれど、かつては古くて狭い家に大家族が住んでいる、なんてことはざらだったのである。

ちなみに「エスパー魔美」の『エスパークリスマス』で登場するチコちゃんとお兄さんの家が、あばら谷宅とイメージが近い。


あばら谷家の中は想像以上に狭く、そして大家族であった。あばら谷君が帰宅すると、部屋の中には母親と子供が5人いる。

あばら谷君の名前は一郎だったらしく、母親は「一郎が帰ってきたから、今度は二郎、表へ出な」と指示を出している。二郎は「外は寒いからハンモックを釣るよ」と答え、それでもいいよと母親。

あまりに狭くて、兄弟全員が収納できないようなのである。ただ、母親も兄弟たちも皆明るい表情なのが印象的で、自分たちの置かれている状況に悲観はしていないのである。

そんな中、憂鬱な表情を浮かべる一郎に、母親が声を掛ける。そこでクリスマスパーティーの話を吐露すると、当然ながら母親は仰天する。家族全員が座れないような家に、大勢の友だちを招けるわけがないからだ。


「僕断ってくる」と家を飛び出そうとする一郎を、母親は「お待ち」と呼び止める。何と、この状況に置いても「友だちとの約束は守らなきゃいけないよ」と言うのである。

さらに泣けることをこの母さんが口にする。

「いいのよ。あんたもたまにはお友だちを誘ってきたいでしょ」

そう言って、一郎の兄弟たちに「さあみんな出かけるよ、その前にお掃除しようね」と告げる。とことんいいお母さんなのである。

あばら谷宅の外で話を聞いていたのび太とドラえもん。「無理させちゃ悪い、パーティーはうちで引き受けよう」ということで、家に帰ってママを説得することに。


家に戻ると「ついにできた」と言って、金づちを手にしたパパが姿を見せる。なぜかこのクリスマスのタイミングで、棚を吊ったらしい。のび太のパパは器用だったり不器用だったりとその時々で変わるのだが、今回はぶきっちょの設定のようで・・・。

どんどん乗せようと、さっそく箱や本を棚に上に置くと、パパが苦労して釣った棚があっさり落ちてしまう。敗北感に包まれたパパの背中が痛い痛しい。

そこでドラえもんが割って入り、「物が下に落ちるのは重力が働いているせいだから・・・」と言って、「重力ペンキ」を取り出す。このペンキで壁を塗ると、塗ったところが下になるので、壁に物が置けてしまうのだ。

そこでのび太が名案を浮かぶ。このペンキをあばら谷君の家で使えば、パーティー会場問題は解決するのではないかと言うのである。


あばら谷宅では、母さんと一郎の兄弟が外出しようとしているところであった。そこへのび太が「外へ出なくてもいいですよ」と声を掛ける。

しばらくしてジャイアンたちが集まってくる。「これじゃちょっと入れないよな」と躊躇していると、家の中から笑顔のあばら谷君が出迎えてくれる。

「遅かったじゃないか。入れよ」

家の中では四方の壁や天井に重力ペンキが塗られていて、部屋中をどこでも動けるようになっている。ざっと単純計算で部屋の広さは5倍となる。

天井では皆が持ち寄ったケーキなどを母親が並べている。ドラえもんが持ち込んだクリスマスツリーも逆さまに立っている。しずちゃんが赤ちゃんをあやし、ジャイアンやスネ夫は壁で追いかけっこしている。二郎は相変わらず本を読み耽っている。

そして、のび太とあばら谷は肩を組んで、あばら谷の妹の弾くおもちゃピアノの演奏で「ジングルベル」を歌い上げる。ドラえもんも一緒に歌っている。

このラストシーンは、大コマで描かれているのだが、多幸感がばっちりと充満していて、僕はいつ読んでも気持ちが晴れやかになる。

クリスマスシーズンに限らず、幸せを感じたい時にはいつでも手にしたい作品なのであった。




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