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サンタはパパを連れてくる「バケルくん」『サンタのおくりもの』/藤子Fのベスト・クリスマス②

数ある藤子・F・不二雄先生の、クリスマスをテーマとした作品の中から、このテーマのベストをカウントダウンする連載の二回目。

前回は「パーマン」の仲間との楽しいクリスマスパーティーを描いた「特大クリスマス」を3位として選出しました。今回はいよいよベスト2位の発表となります。

取り上げるのは、「バケルくん」から、「サンタのおくりもの」です。

『サンタのおくりもの』
「小学四年生」1975年12月号掲載

noteではまだ「バケルくん」について、これまで一度も触れてきていないので、軽くご紹介しておきます。

「バケルくん」は、小学館の学年誌に1974~76年の約二年間連載されたSF(少し・不思議)マンガ。その後80年代に新シリーズも書かれ、全部で53作品残されています。

空き家の中で、宇宙人が残した「触ると変身できる人形」を手に入れたカワルくんが、バケルくんなどの人物に変身して身の回りの事件を解決していく、というのが基本のストーリーラインになります。

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主に変身するのはバケ田一家の家族で、運動神経抜群の長男バケルくん、美人でスタイルの良い長女ユメ代、お金がどんどん出てくる財布を持つ父親、家事が得意の母親、そして鼻が利く犬、の4人と一匹に扮します。

この5人の主要キャラ以外にも、一回限りしか使われない人形も多数登場します。どんな人形が出てくるかについては、詳細に分析する回を予定していますので、今回は割愛いたします。

さて、その多数の人形の中で、サンタの人形が見つかることから物語が始まります。ちなみにサンタ人形は2回登場しますが、今回は2回目の方の登場回となります。

カワルは、サンタになってガールフレンドのユミちゃんにプレゼントを上げて喜ばそうと、サンタに成りすまして北極からと言って電話をするのですが、電話元での様子がおかしいことに気が付きます。

主人公がサンタになって夢を配るという、藤子先生お得意のパターンに向かうと見せかけて、思いの外暗い雰囲気で物語が立ち上がります。

実は、ユミちゃんの父親を乗せた旅客機が北極あたりで行方を消してしまっていたのです。それなのに、北極から電話だと言ったので余計に傷つけてしまっていたのでした。

カワルは何とかしたいと考え、バケル一家に変身して、家族会議を行います。「バケルくん」では、指で人形の鼻を押すとその人形に変身できるのですが、5本の指で5つの人形を押すと、5人になることができるのです。なので、5人同時に変身しての家族会議が行われるわけです。

会議は、
①北極まで助けに行くため「円盤」人形を使ったらどうか。
②円盤では旅客機の乗員をいっぺんに乗せることができないので、助けを呼ぶことにしよう。
③助けが来るまでの間の、食料や水を用意することにしよう。
と、こんな具合で進んでいきます。

乗客は136人とのことなので、ラーメンや毛布など人数分を大量にスーパーで買います。バケルのパパは、お札が財布から無限に出てくるので、お金の心配をする必要はありません。

大量の荷物となりますが、サンタ人形の袋には、いくらでも物が入るので問題ありません。

そして準備が整ったところで、円盤に変身して、北へ、北極へと飛んでいきます。ちなみにこの「円盤」、どこかで見たような形だと思っていたら、「宇宙戦争」で登場するUFOが元ネタとなっているとのことで納得しました。

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北極は当然広く、どこに飛行機が不時着しているのか探すのは大変。空からは困難とみて、陸地を家族二人ずつ手分けして探すことにします。疲れたらメンバーを交代させます。

そうして、助けを求める最中に倒れてしまっていたユミちゃんのお父さんを見つけ出します。

ここまでの捜索は、バケルくん人形の特性を活かした、まるで集大成のようなお話の作りとなっています。

ユミちゃんのパパは、バケルの両親に起こされ、二人を見ると自分の頭がおかしくなったと慌てだします。落ち着こうとライターでタバコに火をつけようとしますが、震えてうまくいかないため、バケルのパパが代わりにそのライターで火を付けてあげます。

ここで、さりげなくライターがバケルの手に渡ったことに注目です。

ユミちゃんのパパは、サンタに変身したバケルから、救助グッズが大量に入った袋を渡されて、助けが来るまで飛行機で待っているよう言われるのですが、「サンタまで見えてきた、わしゃ完全におかしくなった」と大混乱に陥ります。

ユミちゃんのパパが不時着した飛行機に戻るのを見届けて任務完了。サンタになったバケルは、ユミちゃんの部屋に行って、お父さんが助かることを報告をします。

「パパは無事に帰ってくるから、安心して寝なさい」
「君にあげるプレゼント、買う暇なかったよ」
「そうそう忘れてた。パパに返しておいて」

と、取り出したのは、北極でユミのパパのタバコに火を付けたライター。

それを見て、ユミちゃんは泣き出します。

「信じるわ。サンタクロースはほんとにいるのよ!」
「サンタさんありがとう」
「こんなうれしいクリスマスプレゼントは初めてよ」

ゆっくりと歩いて家路に向かうサンタの姿でお話は終わりです。


まとめ:「サンタのおくりもの」
バケルくんの人形の能力を存分に生かした、遭難救助のお話です。サンタの袋というアイテムによって、サンタを登場させる必然性も出すことに成功しています。サンタからのプレゼントを、図らずも渡されてしまったライターとすることで、ユメちゃんはサンタが本物であると確信します。この確信が涙と変わる、非常に優れたクリスマス・エピソードだと思います。

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