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サンタはさんざん苦労する『サンタメール』/クリスマス特集2021

藤子作品は月刊誌の連載が多かったので、定番となる季節の行事をテーマとした作品が非常に多い。その中でも、12月のクリスマスは格好のネタを提供してくる一大行事と位置付けられている。

例えば「オバケのQ太郎」「新オバケのQ太郎」ではざっと数えただけで8作品、「ドラえもん」でも短いもの含めれば15作品程度描かれている。昨年リスト化を試みたが、今読むと漏れだらけなので、いつか時間が取れたら完全版の制作に取り掛かりたいものである。


本稿では「ドラえもん」の中で最も本格的なクリスマス作品である『サンタメール』を紹介する。

F作品にはいくつかのクリスマスストーリーのパターンがあるのだが、本作は主人公がサンタクロースになって、誰かの夢を叶えてあげる展開。このパターンは特に頻出しているのだが、たいていサンタとなった主人公は苦労を強いられる。本作でもサンタクロースとなったのび太から有名な愚痴が飛び出すのでそこにご注目いただきたい。


『サンタメール』
「小学五年生」1979年12月号/大全集8巻

まず掲載誌が「小学五年生」だという点にご注目。対象読者は10~11歳を想定しており、そろそろサンタクロースが何者かわかってくるお年頃である。未就学~小学校低学年では疑うことのなかったサンタクロースの存在は、この年齢くらいになると、実は・・・、と理解してしまう。

けれど子供心も複雑で、サンタの正体はともかく、プレゼントは欲しいし、ワクワクする気持ちまでは失いたくないとも思っている。適度に夢を見させて欲しいと願っているのだ。

本作はクリスマスにおける最後のワクワクをテーマに据えた作品で、まさに小学五年生が読むのにうってつけのお話である。夢と現実の絶妙なバランス感を堪能してもらいたい。


冒頭、いきなり夢のない状況から始まる

12月23日の夜。のび太のパパからクリスマスプレゼントだと言って「ためになる本」を渡される。パパは「えらい人の話」など教育的な本をプレゼントしやすい傾向を持っており、本作もその意味では裏切らない。

ちなみに今回の本は「たのしい国語」「たのしい算数」「たのしい理科」「たのしい社会」というのび太にとって食指の伸びないラインナップである。案の定のび太はラジコンが欲しかったと残念がる。

そこに追い打ちをかけるように、なぜクリスマスの前日に渡してくるのかと言うと、パパは

「今夜から友だちの家で徹夜のマージャン大会があるんだ」

と言って楽しそうに出掛けて行ってしまうのである。もはや子供とクリスマスを楽しむことすら放棄する言動であり、これにはのび太も

「夢のない世の中になったなあ」

とボヤくしかない。のび太はもう小さい頃のようなクリスマスの楽しい思いは二度とできないのだと言って寝転がってしまう。

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一連ののび太の様子をみて、さすがのドラえもんも共感を覚えている様子。そこで「まだ夢はあるよ」ということで「サンタメール」という葉書を出す。宛名には「北極点0番地 サンタクロースさま」と印字されている。なぜか一枚ではなく葉書の束という点にも着目しておきたい。

この葉書に住所氏名年齢と希望するプレゼントを書いてポストに入れると、イブの夜にサンタが届けに来てくれるという。まさしく子供たちの夢そのもののようなひみつ道具である。

けれど少しばかり傷ついているのび太は、「そんなうまい話を信じるほど子供じゃない」と言って相手にしないそぶりを見せる。

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ドラえもんが行ってしまった後、のび太は「駄目でもともと」と思い直して、ラジコンのスーパーカーを希望して、こっそりとポストへと投函する。

イブの夜。のび太はドキドキして寝付けない。夜中なのに窓を開けたりして、落ち着かない様子。なかなか現れないサンタに、「やっぱり嘘だったんだ」と思ってきたところで、シャンシャンというベルを鳴らしながら、サンタクロースがトナカイのそりに乗って飛んでくる。

「注文はラジコンだったね」とプレゼントを手渡され、開けると欲しかったもの、そのもの。「ワー夢じゃないかしら」と泣いて喜ぶのび太に、ドラえもんは「結局あの葉書使ったんじゃないか」とコメントする。

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翌日。ジャイアン、スネ夫、しずちゃんが今年のプレゼントは期待外れだったと嘆いている。ある家からは子供が欲しかった三輪車ではなく、積木だったことで大泣きしている。

そこでのび太は、残っているサンタメールを使って、自分が感じた楽しみを他のみんなにも体験してもらおうと考える。葉書を持ってタイムマシーンで昨日24日に戻って、それを配り歩こうというのである。


前日。ジャイアン、スネ夫、しずちゃんがそれぞれ欲しいものが貰えるのかどうかでワクワクしている。のび太は「当てにしているとがっかりするよ」と夢を壊す発言をして怒らせた後、「パパではなくてサンタに頼まなきゃ」と言ってサンタメールを渡す。

けれど三人は真に受けず、のび太に向かって大笑い。既にサンタを信じない人たちなのである。「信じないならいいよ」とのび太は、残りの葉書は小さい子供たちに手渡していく。

全部配り終えて再び25日へ戻る。ところが、手紙を渡した子供たちの家にはサンタからのプレゼントは届いていないようだ。おかしいと思ったのび太は24日の北極に向かってみるが、サンタクロースの姿はない。。

これはどういうことなのか。のび太がドラえもんに問い質そうとすると、逆に勝手に「サンタメール」を使ったな、と怒られる。

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この葉書、大事なポイントは切手が貼ってあるかどうかなのである。サンタ切手はかなりの高価なもので、ドラえもんがのび太のために特別に買ってきたものであった。

切手の貼ったサンタメールは、22世紀のデパートへと届く。北極にデパートの配送センターがあって、イブの晩にサンタロボットが配達して回る。そんなビジネス的なひみつ道具なのである。


切手のない葉書は、のび太の元へと戻ってきてしまっている。子供たちの願いと一緒に、ジャイアン→ローラスケート、スネ夫→カメラ、しずちゃん→腕時計と、のび太を小ばかにした面々もメールを送っている。

プレゼントが届かなければ、ジャイアンたちも怒るだろうが、何より小さい子供たちがひどくがっかりしてしまう。「どうしよう」と泣きつくのび太に、ドラえもんは「自分で責任を取れ」と言って冷たく突き放す。

と、ここでのび太が一念発起。「責任を取ってやる!」と言って立ち上がると、そのままどこかへと出かけていく。そして夜遅くに大荷物を持ってようやく帰宅する。カンカンとなっている両親だが、イブに徹夜マージャン大会をしてきたパパには叱られたくない気もする。


のび太が集めてきたのは、ゴミ捨て場を回って探し出した壊れたおもちゃである。これを「タイムふろしき」で新品にしようというアイディアである。これだけ時間かけても集まりきらなかったおもちゃは、ドラえもんが一肌脱いで「フエルミラー」を使ってデパートの商品をコピーしてきてくれる。

ドラえもんは、ここまで来たら本式にやろうということで、北極に行ってサンタになってトナカイロケットでみんなの家にプレゼントを配り歩こうということになる。

今更ながらノリノリのドラえもんだが、最初から「フエルミラー」を使っていれば、サンタ切手も必要なかったのではないかという思いもよぎる。

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さて、ここからはサンタクロースとなったのび太たちの行動が描かれていく。煙突が無いので、通りぬけフープを使って子供たちの家を回っていく。一件目では、まだ起きていた子供と鉢合わせとなり、一緒にプレゼントの魚釣りゲームを楽しんでドラえもんに怒られる。

次々渡していくが、件数が多いのでなかなか終わらない。寒いし眠いしでどんどん面倒になっていくのび太。「ね、あと来年にしない?」と言ってドラえもんをカッカさせる。

ここでサンタのび太の名言が飛び出す。

「なんでサンタクロースというか、わかったよ。さんざんくろうするからだ」

サンタクロース=さんざんくろうするというダジャレは、実は今回が初登場ではなく、既に「オバQ」で使われているネタなのだが、繰り返し使うことから藤子先生のお気に入りギャグだということがわかる。

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スネ夫やジャイアンにプレゼントするときには、わざわざ起こして手をついてありがとうと三回言わせたり、しずちゃんに対しても感謝させる。恩着せがましいサンタのび太なのである。そして夜明け近くにようやくサンタ業務が終了する。

翌朝。しずちゃん、ジャイアン、スネ夫が希望通りのプレゼントを貰って大喜び。3人ともサンタメールを使っておきながら、父親が買ってくれたものと思い込んでいる。のび太は「サンタクロースに貰ったんだろ」とクレームを入れると・・・

「そういえばおかしな夢をみたわ」
「僕も!いやに恩着せがましいサンタ」
「のび太そっくりのサンタ」

と口々にサンタのび太をディスる


「夢のない世の中になったなあ」

と、本作二度目ののび太の嘆きなのであった。


夢いっぱいの低学年から、夢と現実の中間でモヤモヤする高学年へ。見事に読者の対象年齢の気持ちを捉えた、藤子先生のバランス感覚が抜群であることを改めて知れる作品なのである。

それでは、引き続き良いクリスマスを!


「ドラえもん」考察100作以上です!


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