会社で生理用ナプキンの話をしてみた
恥ずかしいことではないのに、なぜか少し勇気がいる時があります。
何回も会っている人なのに、初めてマスクを外す時。
夢や目標を口に出して宣言する時。
そして、生理用ナプキンについて、会社のみんなの前で話す時。
それは新規アイデアを持ち寄るオンラインミーティングでの出来事でした。
「あの……新しいアイデアがあるんです」
「お!」
「おぉ?」
ミーティングにはたまたま男性社員しかいませんでしたが、みんな信頼しているメンバーです。
恥ずかしがる必要はないのに、新しいアイデアに期待してくれている普段通りの様子を見て、私はなぜか躊躇してしまいます。
「……生理用品の話なんです」
あの時の自分は、その後の展開を全く想像していませんでした。
ミーティング後、私はみんなの協力を得て、この「生理用品IoT収納ケース」のプロジェクトを進めることになるのですが、こんなにも共感や応援が広がっていくなんて。
あの日は、私にとって忘れられない一日。
今も自分のデスクの目立たないところに、あの日の日付を書いた付箋をこっそり貼っています。
生理用品の話を社内や社外で話すのは「恥ずかしいことではない!」と信じたい時、付箋を見るといつも勇気をもらえます。
(とはいえ、この付箋をチームメンバーに見られると恥ずかしい)
さて、そのプロダクトについてお話しする前に。
皆さんは、生理用品のことでストレスを感じたことはありますか?
あなたはうっかりさん?しっかりさん?
わたしは生理用品に関しては、うっかりさんです。
そのことについて自分がちょっとストレスを感じていると気づきました。
まず、在庫の管理が苦手です。
生理が終わったら、次の生理が始まるまでに買って補充しておけばいいのですが、結局いつも生理直前にあわてて買っています。
夜用ナプキンがなくなって、今夜どうしようとオロオロします。
昼用、夜用、軽い日用、普通の日用、多い日用、羽があるもの、羽がないもの、香り付きに無香料、タンポン、おりものシート……何種類も買いすぎて、もうどれが足りないのか、どれが残っているのかもわかりません。
旅行と生理の日がかぶることもあります。
生理用ナプキンを持っていけば問題ないのですが、うっかり忘れてスーツケースやバッグの中をゴソゴソ探したことも一度や二度や三度はありました。
次に、収納もわりと適当です。
家では、トイレの上の棚に商品パッケージの袋をそのまま置いて、棚の上から毎回1個ずつ取り出して使っていました。
ただ、最初はパッケージにナプキンがパンパンに詰まって自立していますが、中身が少なくなってパッケージの形が崩れていくと、だんだんお見苦しい状態になってしまいます。
ある時、友だちの家に遊びに行ってトイレを借りたら、生理用品が箱の中に整然と入っていて、「お!」と早速、収納ボックスにナプキンをきれいに並べるようになりました。
上の棚に置いていた頃はストレスを感じていたはずなのに、どうしてわたしは解決策を考えようとしなかったんでしょう。
そして最後のうっかりは、生理の記録を忘れることです。
学生時代は手帳に★マーク。
かわいらしいシールに憧れて「貼ろうかな?」と思った時もありましたが、わたしはそのシールたちにふさわしいカラフルな日々を送っていない事実に気づいてしまい、手帳はほとんど空白のまま、生理の記録のこともいつしか忘れていきました。
その後、生理アプリを使い始めましたが、これも結構忘れます。
社会人になってからは「確か生理が来た日は出張があったはず」と、カレンダーをさかのぼって探すことも。
生理アプリは、すでに十分わたしを甘やかしてくれているはずなのに、なぜ自分がこんなにシンプルな操作が続けられないんだろうと嘆くばかりです。
申し遅れましたが、わたしもシャープでUXデザイナーをしています。
仕事は、商品・サービスを体験する流れの設計やアプリのUIデザインなど。
UXとは、User Experience(ユーザーエクスペリエンス)のこと。
わたしたちは、ユーザーが使いやすい!楽しい!と思える「体験」をデザインするのが仕事です。
対象は商品やサービス、システムなど幅広く、ユーザーも千差万別。
そのため、UXデザイナーはモノやコト、ヒトに対する知的好奇心を幅広く持っている人たち、と言えるかもしれません。
会社のメンバーも普段から、いろんな人がいろんなことを気ままに語ります。
それが何かの「気づき」につながる気がして。
ある日、わたしは女性上司と雑談していました。
日用品で“切れて困るモノ”ってある?
「うーん……生理用品でしょうか?」
「あ、わかる」
そんなとりとめのない話をした夜、わたしは家で考えました。
収納ケースが、生理用品の在庫管理をしてくれたらいいけど、そんな収納、大げさかな?
だけど、生理用ナプキンの使用状況を記録したら、生理周期も自動で推測できるんじゃない?
いつも通り生理用品を使うだけで
気楽に周期が記録できる
履歴を見たら「前の生理いつだったかな?」と先月のイベントを思い出す必要もないし、突然あった不正出血の日もわかるかも。
軽い日、普通の日、多い日用、それぞれのナプキンの使用量を確認できたら、出血量の変化も把握できるし、買い忘れもなくなりそう。
「うっかり」買い忘れたり記録し忘れたりして、「がっかり」する気持ちになるのはわたしだけなのかな。
いや、わたし1人じゃないはず。
もし12歳で初潮を迎えて、生理が月に1回、50歳で閉経するとしたら、生涯で約450回。
もし1週間つづくとしたら、毎月1/4が生理中。
小さなストレスも
積もれば大きな山になる
そんな生理のストレスを少しでも緩和できたら。
なによりも「生理の記録」も「生理用品の在庫管理」も任せられるなら、もう任せたい。
喜ぶ人は、きっとわたしの他にもいるはずです。
ドキドキしながら臨んだ新規事業オンラインミーティングの日。
わたしはメンバーに向かって言いました。
生理用品を収納する
IoTケースを考えているんですけど
「生理用品の使用習慣は人それぞれだけど、分析すれば生理周期を推測できるはずです」
生理用品の在庫を把握し、生理周期を記録することが、自分のような女性にどう喜ばれるかを説明すると、メンバーが口々に話し出します。
みんなでフラットに話せたことも、実現に向けて真剣に考えてくれたことも、本当にすごくうれしくて今でもよく覚えています。
そして、わたしたちチームは全員で「生理用品IoT収納ケース」の具現化をめざして走り出すことになりました。
知ることから始める
男性メンバーは女性医学の学会へ。
女性に特有の心身にまつわる課題や健康管理について、お医者さんや医学部の学生さんたちに混じって学びました。
わたしも生理の本、生理の論文、子ども向けの生理の絵本、子ども向けの生理のマンガなど、あれこれと調べます。
一番面白かったのは、生理用品の歴史について書かれた本です。
昔の女性は生理の時、家にある布や綿、紙を使っていたこと。
人類は何百万年も生きてきて、作る材料も技術もとっくの昔からあったのに、紙ナプキンができてまだ100年ぐらいしかたってないこと。
紙ナプキンができたら、女性たちの社会進出が進んだこと。
日本の紙ナプキンは、世界と比べてクオリティが高いらしいこと。
生理のことだけじゃなく、出産とか、乳がんとか、そもそも女性の生き方とか、そういうことにも興味が広がっていきました。
中でも驚いたのは、これまで隠されてきた女性のヘルスケアについての課題です。
生理は不浄とされ、月経小屋に隔離される時代があったこと。
昔の避妊器具は金属やガラスでできていて、不快感と感染の危険性をもたらしていたこと。
今も出産がどれほど危険で、出産後のケアがどれほど大変なのかということ。
そこに問題が確かにあるのに、言いにくさを感じて周囲に言えず、その結果知らない人たちが増え、次の世代に伝わりづらいという事実を知り、女性である私自身も思うところが多々ありました。
Femtechのアイテムも買ってみた
フェムテックとは、Female(女性)とTechnology(テクノロジー)を掛け合わせた言葉で、経済産業省いわく「月経や出産、不妊、更年期など女性特有の健康課題をサポートするツール」です。
私たちは生理を知るための資料として、ナプキンを使わなくても直接吸収してくれる吸水ショーツや、膣内に挿入して経血をためる月経カップなどについても調査しました。
「テック」という言葉が付くと、現代科学の粋を集めたテクノロジーが使われていそうですが、どのレベルをFemtechと呼ぶかの線引きは、今のところとてもゆるやか。
個人的にはAIやデバイスを使ったものから、素材の機能性を高めたものまで、すべてFemtechという言葉でくくりたい。
昔はなかったテクノロジーで、女性が心に秘めていた悩みや重視されてこなかった健康課題を解決することが、Femtechの最終目標だと思っています。
願わくは、生理や生理用品、Femtechの話題が、女性の皆さん自身が、周りにいる人たちが、いろんなことに気づくきっかけになればいいなぁと。
わたし自身がそうであったように。わたしたちのチームがそうであったように。
そんな気づきを多くの人たちと分かち合い、ストレスを少しでも和らげられるように、わたしたちプロジェクトチームは「生理用品IoT収納ケース」の開発に取りかかります。
続編は、ものづくりを始めるお話です。
開発に協力してくれる、私たちの仲間が増えます。
そして新たな発見も。
ナプキン使用者は女性だけじゃなかった…?
続編も公開しました!ぜひご覧ください。