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京都府南山城村:中窪製茶園さん①

取材先:中窪製茶園
所在地:京都府南山城村

<初めに>
初めまして、SHARELOCAL MAGAZINE編集長の笹島唯です。今回、京都府南山城村で100年以上茶農家として宇治茶を生産している中窪製茶園さんに取材へ行ってきました。宇治茶とは、宇治でブレンドされたお茶のことで、茶師のブレンドする技術がブランド化されています。この記事では、京都のお茶の淹れ方と飲み方、中窪製茶園さん5代目中窪良太朗さんの会社承継への想い、製造過程で大変なことについてまとめています。ぜひ最後までご覧ください。


・京都の緑茶の淹れ方

一番の特徴は、お湯を冷ましながら淹れていくこと。沸かしたお湯を器にうつすことで、温度が10度くらい下がるので、お湯をゆっくり冷ましてお茶を淹れながらおしゃべりすることが多いです。淹れる温度としては、想像よりもぬるく感じるような温度で60度くらいです。お茶を淹れるのには宝瓶(ほうひん)と呼ばれる、急須のような持ち手がない茶道具を使います。お湯の温度を下げて使うことが前提になっていて、手で包みながら使用するため、熱湯を入れてしまうと手で持てないくらい熱くなります。

インタビューさせていただいた中窪良太朗さん
良太朗さんがお茶の淹れ方を実演してくださいました!

お湯を注ぐときは、茶葉を暴れさせないように淹れるのが良く、しっかりと茶葉が開いていく様子を眺めることもお茶を楽しむポイントの一つです。


・京都の緑茶の飲み方

色が薄くて味も薄そうに見えると思いますが、実は味が濃いんです。ここが京都の緑茶の特徴です。飲み方としては、唇につける程度で飲んでください。お茶のランクが上がると、お茶の色が薄くなっていくことが多いです。お茶の旨味成分はテアニンと呼ばれていて、飲みすぎるとお茶酔いをすることがあります。なので、美味しいお茶は、ちょっとずつ楽しんでくださいね。

水色(すいしょく)が薄めなのが良くわかりますね!

地域で飲むお茶は、お茶の茎も一緒に入っていることがあります。あまり流通することのない茶産地でしか飲めない飲み方です。本来の商品だと、工場で粉を飛ばしたり茎を取り除いたりといった仕上げを行うのですが、地域で出回るお茶はこの工程を省いていることがあります。

指差す先に、茎があるのがわかります

お茶は煎を重ねるという言い方をよくしますが、お茶は三煎も四煎も飲むことができます。お茶処には、一つの急須で長くお話する時間を楽しむ文化があるようです。昔南山城村では、応接間にお客さんがきて、急須とポットが置いてあって、何煎も淹れて飲みながらおしゃべりをする、ということが一般的でした。村特有の地域性かもしれませんが、土足のまま土間で、畑作業の後にお茶を飲むことができました。


・100年以上続いている茶園の5代目を継ぐときはどんな想い?

京都の伝統産業の一つに関わるということもあり、若年層のお茶に対する認識を考えると重圧もあり不安もありました。

その中でオンライン販売を新しく自分たちの代で始めました。京都では茶園はB to Bとして茶問屋さんに販売の面を託すことが主流でした。しかし、それではお茶の魅力が十分に伝わり切らないと思い、直接伝えられる手段としてB to Cを採用しました。最近では、急須で淹れるお茶の飲み方を知らないという人が多いです。自分たちの商品を知ってもらうよりも先に、お茶の文化やお茶の魅力、村でみられるお茶を通したコミュニケーションの存在を伝えたい、という想いが強かったです。

中窪製茶園さんのECサイト

商品としてのお茶の魅力があるだけでなく、お茶産業は農業という分野の中でも特別です。最近進められている大規模に栽培する農業とは異なり、お茶には製茶作業という職人の仕事に近い作業があるため、感覚や経験に頼っている割合が大きくなります。そのため生産量を簡単に増やすことができません。お茶を作り続けるためには上記の飲み方や淹れ方だけでなく、お茶「文化」全体を伝えることが大切なのです。


・製造過程で大変なことは?

先述の通り、お茶作りは人間の手の感覚に依っている部分が大きいです。製造過程では秒単位で茶葉が変化していきます。工程一つ一つに役割があるため、次の工程に移るタイミングが重要です。それぞれの工程が完了していてかつ、行きすぎていない時期を見逃さないようにしています。

一部工程には機械を使用していますが、毎回同じ設定で製造したとしても全て上手くいくわけではありません。芽の大きさやその日の気温、機械自体の温度など、その時々で変わりうる要因がたくさんあるからです。設定した時間でそのまま放っておいたとしても、お茶自体は作ることができます。しかし、蒸熱(茶葉を蒸しあげる)の作業で自分たちが作りたいお茶の味が決まるので、この過程は特に繊細な作業が必要なのです。製造過程では、ずっと機械に張り付いていることが多く、これまで話したような職人的な部分があるため、やはり画一的な製造が難しいところが大変です。

お茶の製造をするためには、まずは技術自体が難しいのでこれを習得します。この技術とは、製造過程での状況・段階を判断する手ざわりや嗅覚といった感覚を磨くことで得られると考えています。蒸熱工程での見極めには蒸した茶葉の香りによる判断が必要です。また、それ以降の茶葉を揉み込む工程では段階を踏んで適切に水分が抜けているかを手ざわりによって判断します。そういった感覚は人から教えてもらったとしても、自分のものにしていくには時間がかかります。茶園で育つと良くないお茶の違和感をすぐ感じることができるという、利点があります。新規就農の方だと、最初の壁がその感覚の部分になると聞きました。その感覚が自分で掴めるようになると、あとは上手くいかなかった原因を探したり、より良くするためのトライアンドエラーを繰り返したりしていきます。なのでお茶作りは、研究職っぽいところがあります。

中窪製茶園さんの茶畑

より良いお茶を目指していく中で、理想のお茶像を持っています。茶農家の中では、茶畑にある生茶が100点のお茶と言われています。茶葉は、加工していく中で劣化して減点されていってしまうものなので、生茶をいかに保てるか、いかに茶畑のお茶を再現できるかを大切にしています。


<終わりに>
お茶の飲み方や淹れ方をご存知の方も、そうでなかった方もいると思います。筆者は、宝瓶という茶器を知らなかったので、新しい発見でした。さらに、お茶はすごく繊細で職人技によって製造されていることを知り、大変手間のかかっているものだと改めて感じました。お茶文化はお茶の歴史や飲まれ方、製造にかかる手間を全て含んだ状態で、より多くの方に知っていただきたいですね。

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