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桜を見てブクガを思い出すということは~2019.03.16 Maison book girl@福岡DRUM SON

ここ最近"推しとの別れ"がとても多く、濃いめに愛するアイドルグループが減っており、ではその分、新しいアイドルを聴き始めようと年明けから論客が推薦しているグループをいくつかがっつり聴いたところ、まんまとハマったMaison book girl。プロデューサーのサクライケンタが携わった大森靖子の「ピンクメトセラ」のサウンドが大好きだったので、あのテイストってブクガでめっちゃ聴けるやん、、という喜びに加え、退廃的な虚無感で統一された歌詞世界にもグイグイ引き込まれてしまった。メンバーの井上唯が出身ということで、ツアーには毎回のように福岡公演が入っていたようで、今までスルーしてたのを後悔するほどに音源だけで大好きになった。そんな頃合いに、2019年春ツアーの発表。良タイミングで初めてのブクガとの対峙だ。

スタダ系の現場よりはやや大人しめな客層(とはいえピンチケみたいな人はいた)、7拍子のクラップで幕開けるライブ、2曲目から全くメンバーの表情が見えなくなる照明などなど、序盤から噂には聞いてた大クセ演出じゃ~と感激しきり。変拍子だし、観客として観るにはリズム取りづらいのかな、と思っていたのだけど、むしろどこまでも転がっていくみたいな硬質なビートに合わせて無心に踊り狂えた。定型的なアイドル現場を大きく逸脱した空間でありながらも、コールやフリコピといったオーソドックスなノリもしっかりとねじ込まれていて。例えば矢川葵の「おい!おいおい!」という煽りもアイドルとして100億点あげたい王道なキュートさ、変なのは拍子だけ、みたいな。そんな様々な違和感が交絡しまくっていてとても面白かった。

サクライケンタの描く景色を4人の女の子の肉体を通して表現するというフェティッシュなコンセプトは、音源でも存分に味わえてたのだけど、実際にその場を拝見するというのはどこか背徳的で。部屋、カーテン、壁、ベッド/夏、森、神社、雨というシークエンスを繰り返し登場させ、果てにいるもう会えない"少女"に対する後悔の念でその場に立ち尽くし続ける世界観。それをアイドルソングのフォーマットでやり続けている構造が、なんともやりきれなくて切ない。100人規模のこのハコでは派手な映像演出などはなく、セットのないがらんとした空間にその孤独や虚無が塗りたくられていく様は不気味でもあった。ライブが進むにつれて、怖い、なのに美しいという不思議な見心地が生まれていく。黒沢清の映画に近い鑑賞時の感情だな、と。

しかし本編最後に披露された4月リリースのシングルのリード曲「鯨工場」は明瞭で確かな手触りを持つ言葉が多い曲だと感じた。最新作『yume』がタイトル通りの幻想的な作風だったのに対し。アンコールで披露された楽曲は恐らくそのカップリングだろうけど、満月とクラゲの物語のポエトリーリーディングから、「長い夜が明けて」というフレーズが印象的(アコーディオンで彩られた歌謡曲調のメロディもインパクト大)な曲を経て突然の終演に至るまで、ストーリーを感じる流れ。というか、振り返ってみれば本編で披露されたのはインディーズ期の1stアルバム『bath room』と、EP「summer continue」、そしてメジャーデビューシングル「river(cloudy irony)」からの楽曲のみ。2016年リリース作までという初期縛りなセトリだった。

地方公演の本数とリリースしたアルバムの枚数が同じなので、このツアー初日で何となく次以降のセトリが決定づけられた感はあるけど、まだ予想の範疇ですかね。もしかしたら次回以降も同じような曲目かも。なんにせよ初見のライブで自分が全く知らなかった頃のブクガの曲を沢山聴けたのは幸運だ。これ以降も観ていきなさいという天啓ではないか。後悔と虚無にまみれた過去曲から、<僕らの唄はどこに届いてるんだろう><僕らの唄はどこへ続いているんだろう>と歌う意味を自問自答する、ブクガの存在意義を纏った「鯨工場」へ繋がったこのライブ、結構に重要なツアーなのではないか、と。それにしても「croudy irony」での和田輪のキックする振り付けが眩しかった。文系女子から時々垣間見える暴力性みたいなのに滅法弱いのです。

井上唯(高身長+大きな口で笑う顔が可愛いので推しに決めました)が、桜前線に合わせてツアー日程が組まれていたけど、福岡ではまだ咲いていないという件からの流れで「これから桜を見たら私たちを思い出してください」と言っていて。とてもアイドルっぽい可憐な振る舞いだと思うのだけど、ブクガのライブ中に言われるとどうしても、梶井基次郎が残した「桜の樹の下には屍体が埋まっている!」的なimageへと連なっていかざるを得ない。暗部も含めた美しさを表現するブクガでしか起こり得ない妄想だなぁと、なんだかゾクゾクした。そんなダークで冷たい音楽性だけど、メンバー4人はいたって健康で仲良さそうな女の子たち、という在り方もとても好みなのだけど。これからもヘルシーなまま、イカレたアートを体現してほしい。


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