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オンラインで演劇を観た⑥(イキウメ「外の道」/ケムリ研究室「砂の女」)

イキウメ「外の道」

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劇作家・前川知大が率いるイキウメ。昨年の公演延期を経て更に深堀りがなされた末に完成したという本作。池谷のぶえがメインキャストにいたし、コメディを得意とする安井順平の受け方も相まって序盤こそ油断しながら観ていたのだが、手品師のエピソードから事態が一変していく。また、池谷のぶえが自分の身に起きた出来事を話し続けるシークエンスにはどんどん引き込まれたし、終盤に舞台上に現れた怪異は配信とは思えない没入感で鳥肌が立った。常にごうごうと唸るような音が鳴り続ける演出があまりにも効果的。耳元でずっと密に聴こえていたからこそ、の怖さだったのかもしれない。

"外の道"という題が示すものが中盤以降は描かれていく。それがそう、と思ってしまったら最後。真実に気づいてしまった、と思ってしまったら最後。そこから抜け出す方法などはなく、ただすべてが"そう"なっていくしかない。陰謀論者の方々は、こういう怖さの中で生きているのかもしれないと思う一方、もはや救い出すということは出来ないという諦念にも満ちていく。超越的な事象が自分の日常を覆う時、何を捨て、何を選び取るのか。何が自分の存在を決定づけるのか。その根源的な問いをホラーサスペンスの形で描き出していた。映画作品としても観てみたいな、と思った。それこそ、黒沢清の「回路」「カリスマ」「CURE」のような質感がぴったりな物語だろう。



ケムリ研究室no.2「砂の女」

ケラリーノ・サンドロヴィッチと緒川たまきによるユニットの第2回公演。安部公房の同名小説をベースとした演劇。色んなタイプの作品があるとは知りつつも、自分の観てきたケラ作品の中でも際立って物静かかつシリアスなトーンが貫かれていたように思う。砂、という舞台上では絶対に扱いづらい部類に入るであろう重要なエッセンスをセットと照明、音響や衣装を駆使して"砂に支配された世界"を表現。体温の上昇と喉の渇きなど、登場人物に及ぼされる体感をこちらもじっくりと味わうことができる作品だった。画面を超えて、砂が肌にまとわりつき、心が囚われていく様を余すことなく表現。

恥ずかしながら安部公房の作品に触れたのはこれが初めて。非常に突飛なところから、普遍的な感情の揺らぎに着地していくのが興味深かった。何でもかんでも繋げたくはないけども、こうやってコロナ禍に順応していく中で、例えばマスクとか、外す気になれるのかな、とか。大勢で一緒にどこかへ行くことを拒否できる良さ、とか。結果として世界のルールが離れることができるようになったこの環境への愛おしさがあって。そういう、ルールから離れた先にあった新しいルールの心地よさを嗅ぎ取れるような作品だった。いつの間にかそうなってしまう、怖くもあり、やけに穏やかにも見えるのだ。


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