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胸の奥で歌って〜6.17 ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2022 「プラネットフォークス」@愛知県芸術劇場大ホール

アジカン、3年ぶりのホールツアー。個人的にも2019年7月の『ホームタウン』ツアー@福岡サンパレス以来、約3年ぶり。アジカンをこんなに観ないことがなかったので、さすがに待ち焦がれすぎてしまった。しかも3月にリリースされた大傑作の10thアルバム『プラネットフォークス』レコ発ツアーである。あの曲数をどうコントロールするかも気にかかる中、ライブは「De Arriba」のイントロから幕を開けた。「De Arriba」のMVのセットである、光る立方体がメンバー4人とその後ろで一段上にいるサポートメンバーを取り囲み光り始める。4人横並びのアジカンも珍しく、新鮮さに目を奪われる光景だ。

「De Arriba」という始まり方も意外であった。シリアスな『プラネットフォークス』の中でもそのサイケデリックなフレージングと重たいトーンが印象的な1曲。メロディこそ美しく運ばれるが<次はどうか僕を燃やして/焼き払ったっていいでしょう>と歌詞には絶望感や投げやりさが目立っていた。ここからどう展開する?と思っていると軽いアレンジを経てハードなイントロが唸る「センスレス」へ。楽曲のオープニング感も2曲目として相応しいが、この曲に込められた体温なき匿名世界の描写から<心の奥の闇に灯を>という決意に繋がる構成はまさに「De Arriba」とセットで新たな物語を紡いでいた。


ここで2013年の10周年記念公演のために書き下ろされた「ローリングストーン」が投下されたのでかなり驚いた。さして定番曲ではないがばっちり盛り上がっていたので、曲のポテンシャルと名古屋アジカンファンの玄人っぷりがよく際立っていた。思えば、<円になって回転するロックンロール>とはまさに新作のテーマとも繋がるし、少しユーモラスな描写を持つこの曲によって『プラネットフォークス』のテーマ性を別解釈で循環させているようにも思えた。恐らくプラネット繋がりな「惑星」という選曲も<青い星>へと帰結していく描写が新作の世界観にぴったり。過去曲セレクトがとにかく絶妙。


皆が違うこと、それを認めあうという新作を象徴する1曲としてアルバムのオープナー「You To You」が歌われる。芳醇なアンサンブルがホールを余すところなく満たしていく。アジカンのワンマンがホールで基本的に行われるようになって久しいが、このサイズ、この音響だからこそ受け止められるスケール感があるな、とひしひし思う。さらに立て続けに昨年のヒット曲「エンパシー」だ。何だったらクライマックス級の1曲だと思っていたのでこの出番順はとても意外。楽曲としてのアンセム感も凄まじくま横並びのセットゆえ、伊地知潔(Dr.)の手数多いドラミングを直に見ることがができたのも貴重だった。


伊地知のハイハット捌きからするりと立ち上がっていった「UCLA」も素晴らしかった。今回のライブはサポートメンバーにMop of HeadのGeorgeとRopesのアチコを迎えているのだが、この楽曲はアチコとのツインボーカル。原曲の畳野彩加の歌唱テイクの柔和なニュアンスも交えつつその凛々しさが際立つこのツアーでしか聴けない仕様に生まれ変わっていた。そしてここまで続いた巨大な楽曲の流れを緩やかにほぐす「ダイアローグ」のたっぷりとしたグルーヴも心地良かった。ラストにoasis「Rock’n’ Roll Star」を歌うアレンジもようやく生で観れた。アジカンを見れなかった3年、本当に長かったな。


ここでこの日最もサプライズな選曲「スローダウン」。白状すると正直一瞬なんの曲か分からなかった。こちらも2013年のメジャー10周年ライブ用に制作されたミドルナンバーだが、様々な風景が連なりながらslow down、つまり心休むことを歌うこの曲はシリアスな楽曲の多い『プラネットフォークス』をそっと軟着陸させるような役割を果たしていたように思う。この後のMCで音楽を通じてこの場に集まることのかけがえなさをゴッチは語っていたが、遠くの誰かに思いを馳せるようなこの曲が鳴った後だからこそより胸を打った。このような過去曲との思いがけぬ共振もワンマンの見所だろう。


山田貴洋(Ba)が作曲したアルバム屈指の新機軸なレトロポップナンバー「雨音」の跳ね回るリズムと喜多建介(Gt)による小気味良いギターワークは斬新すぎて面白さすらあるのだが、その絶え間ない実験精神の成果でもあると思うと遊び心と言い切れない凄みがある。山田がシンセベースを奏でる「触れたい 確かめたい」も同様だろう。この曲もアチコのボーカルが見事だった。原曲の塩塚モエカの浮遊感ある歌唱とは一味違う、言葉ひとつひとつがくっきりと輪郭を持つような力強さを湛えておりうっとりしてしまう特別さがあった。サポートメンバーの座組によってリビルドされる楽曲たち。贅沢の極みだ。


2010年『マジックディスク』より「ラストダンスを悲しみを乗せて」は本来であればアッパーな部類の曲なのだが、この並びの中で聴くとその“届かなさ”や“物悲しさ”のほうが印象づくから不思議だ。よってこの後にアルバムでも随一の諦念と枯れた侘しさが息づく「Gimmie Hope」へと連なっても何ら違和感はなかった。隙間の多いサウンドと、鈍く残るゴッチの歌声が胸に迫る1曲。『プラネットフォークス』にある切迫感は、こういったどう足掻いても届かない/伝わらないという想いが礎になっているのだと実感する。ズンとなった心に、一抹の清涼感をもたらすイントロが降り注ぐ。「ソラニン」である。


思いがけない流れだった。しかし、喪失と思慕を歌うアジカンの青春的な1曲だと捉えると青かった日々ともう1度繋がろうとするような意志を感じる。その次が1stアルバム『君繋ファイブエム』収録の「無限グライダー」だったことも納得する。細やかな想いをどうにか見つけてもらおうと奮っていた時期ゆえのソリッドな切実さだ。この次の「マーチングバンド」はサビで<開け心よ/光れ言葉よ>と歌われる。「Gimmie Hope」で地の底まで落ち切ったかのような気分を過去のアジカン楽曲たちが温めていく、鼓舞していく。そんなイメージすら浮かんでいく。そんな流れはこの後から更に劇的なものになった。


ビートシーケンスが鳴り響き、この流れで歌われる「新世紀のラブソング」は至高だった。<それでも僕らは愛と呼んだ/不確かな思いを愛と呼んだ>という言葉、アチコのボーカルを搭載しよ神聖さを高めたこのアレンジは祈りとしての意味合いが増幅していた。この後のMCでゴッチはライブがくれるエネルギーについて語っていた。残酷な現実も逃げず描いたアルバムだからこそその反面にあるポジティブさも輝いているのだ。珍しく終盤に演奏された「荒野を歩け」は心を突き上げるパワフルさが迸り、否応なしに拳をあげてしまう。長尺かつピークポイントとなる曲が続く流れは更に追い討ちをかけていく。


<小さな願いは今日スタンダードだ>と歌う「スタンダード」は、「Gimmie Hope」から連なった願い歌い続けるタフな信念をリブートしていくテーマの帰結点としてこのうえなかった。7年前の楽曲であるが、少しずつ何かを変えていく意志を込めたこの曲は今のアジカンに至るまで地続きである。そして本編ラストは「解放区」、あまりにも美しすぎる曲順である。この曲の謳う自由が約束され、圧倒的な安心感と心昂ぶる場所をくれるアジカンのライブ。此処こそが解放区であると強く噛み締める数分だった。最後の<解放!>の絶唱とともにメンバーを囲んでいた立方体が上方にあがり、本編は終了。


アンコールではまずアジカン4人が登場。『サーフ ブンガク カマクラ』の完全版が来年夏前にリリースされ、秋にツアーが行われることをゴッチが勝手に宣言するほどハイな幸福感があった。その流れで『サーフ』収録予定だという「柳小路パラレルユニバース」が。似た名前の「出町柳パラレルユニバース」がついこの間「四畳半サマータイムマシンブルース」の主題歌として解禁されたばかりではないか。つまり、江ノ電と京阪本線をワームホールとして設定してパラレルワールド化した曲ってことではないのか。並行世界を扱う作品のタイアップだからこそできたセンス溢れる面白さ!最高の寄り添い方だ。

そんなホクホクした気持ちの中、陽気なビートが鳴り響いて「今を生きて」だ。様々な日替わりアンコールがあるこのツアーだが、この日がこの曲でよかったなと思う。この日集った我々はもう集うことはなく、ただこの瞬間は同じ空気を共有したかけがえなさ。ゴッチのMCも相まって胸が熱くなった。再びサポートメンバーを呼び込んでから「C’mon」が歌唱。歌詞はかなり辛辣だが、ビートルズライクなボーカルエディットなど楽しく聴ける1曲でライブではギターソロに被せて喜多建介がトークボックスで口フレーズを連ねるという面白すぎる一幕も。最後はゴッチもカモンカモンと歌いまくり、燃えあがった。

最後はゴッチがハンドマイクに持ちかえてゴスペルフィーリングで歌う「Be Alright」。アルバムでも大団円に相応しく鎮座しているが、ライブだとゴッチがステージを動き回り語りかけるように歌うからより一層、深く繋がれたように思えてくる。仲間はずれでも、散りぢりになっても、ここにまた集うという、アジカン史でもこれほどまで直接的にライブという場所を歌った曲はないだろう。そんな曲が久しぶりのライブの終わり際を抱きしめるように歌われる。これ以上のエンディングはあろうか。<胸の奥で歌ってよ それで We gon be Aright>、これに尽きる。いやでも次はきっと声を出して歌いたいな。

<setlist>
1.De Arriba
2.センスレス
3.ローリングストーン
4.惑星
-MC-
5.You To You
6.エンパシー
7.UCLA
8.ダイアローグ
9.スローダウン
-MC-
10.雨音
11.触れたい 確かめたい
12.ラストダンスは悲しみを乗せて
13.Gimme Hope
14.ソラニン
15.無限グライダー
16.マーチングバンド
17.新世紀のラブソング
18.荒野を歩け
19.Standard / スタンダード
20.解放区
-encore-
21.柳小路パラレルユニバース(新曲)
22.今を生きて
23.C’mon
24.Be Alright




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