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森七菜、あるいはその青春と一瞬について~「あのコの夢を見たんです。」第3話


あのコの夢を見たんです。」というドラマが毎週金曜日0:12からテレビ東京系列で放送中だ。山里亮太(南海キャンディーズ)が実在の女優をモデルに妄想を広げ続けるエッセイを原作としたドラマ。仲野太賀が主人公として山里亮太を演じ、実際の女優たち(芳根京子、飯豊まりえ、池田エライザetc..)と共に各話ごとに妄想ストーリーを展開していく。その10月16日放送、森七菜がヒロインを務めた回があまりにも素晴らしかったので語り明かしたい。

今や押しも押されぬ人気の森七菜。長編デビュー作であるAmazon Primeの園子温監督「東京ヴァンパイアホテル」が2017年だから僅か3年でここまで。学園ドラマの脇役で光り、新海誠のアニメ映画で主演を務めた後、岩井俊二に見出されて朝ドラ出演へ、、こういう話はしたくないが小さな事務所の所属とは思えない爆発的なブレイクっぷり。2020年10月20日から放送の初主演ドラマ「この恋あたためますか」直前に、今回のドラマはオンエアされた。

天真爛漫でいつも明るい人気者・七菜(森七菜)は、男友達は多いものの恋人ができず悩んでいた。幼馴染で内気なヤマ(仲野太賀)と話していると、七菜は、モテる女性は、少しか弱い悲劇のヒロインタイプであることに気づく。七菜は悲劇のヒロインになるべく、一大プロジェクトを立ち上げる。それから放課後、2人は自由にアイディアを出し合い、悲劇のヒロインに近付くために試行錯誤をするが、ヤマには秘めたる想いがあり......。

今作のあらすじはこう。何このむずがゆい設定!本当に2020年のドラマ?クソ冴えない、一人と友達がいない男子高校生の幼馴染が快活な森七菜で毎日のようにウザめに絡んでくる。流石は山里亮太の妄想、こうでなくてはというツボを押さえまくり。彼のワイフ(「スパイの妻」最高でした)がどちらかと言えば悲劇のヒロインタイプであることを考えると、その対極をにいる設定に森七菜を配置したところには勝手ながら並々ならぬ意志を感じてしまう。

森七菜の強さはこういったどうなのかと思う程にベタな設定をも自分の表現で乗りこなしてしまうところにある。喫茶店での放課後、夜の学校での肝試し、屋上でのハイライト、そのありふれたシチュエーションをも絶妙な温度感でリアルへと書き換える。鼻を大きく膨らませてパフェを頬張り、夜の学校に「おじゃましま~す」と入り、夕暮れ階段を駆け上がり屋上へ辿り着く動作。その小さな体躯を目いっぱい使って独自の表現を繰り出していく。

劇中、森七菜はどこまでも親しみやすい存在として躍動する一方でヤマの視点からはそこはかとない神秘性を持つ者として描かれる。この2つの要素を同居させる表情の演技がまた抜群。"皆には見えていないけど七菜には見えている"という事実のみで息をする"透明人間"のヤマは、Base Ball Bear「すべては君のせいで」や乃木坂46「君の名は希望」を彷彿とさせる痛みを抱える。そんな"君"の柔らかな眩しさを森七菜は一瞬の目線で表現し尽くしてしまう。

このドラマは毎週マカロニえんぴつが各話ごとに違うテーマソングを提供しているのだが、今回はミュージックビデオに森七菜が出演した「青春と一瞬」であった。これ、ドラマの後に観直すとその物語の延長上にある気がして物凄く切ない。いつの間にか一瞬で終わる青春、その光景を現在の視点とだぶらせながら描くMV。これも手法はベタだが、野暮ったく弾けまわる森七菜の姿を通して観ると確かにそこに在った現実として立ち上がっていく。

ドラマ中、ヤマが撮った森七菜の写真を「むっちゃいいじゃん」「カメラマンになればいいんじゃない?」と森七菜が軽率に褒めるシーンがあって。もしかしたらその続きにこんな世界が広がっているんじゃないか?と思わせる世界観だと思う。<誰にも 僕らの 素晴らしい日々は奪えない>という箇所はドラマ中、最高のタイミングで流れるのだけど、MVでも同様。最後の丘でのシーンはドラマのクライマックスに接続しても違和感ない輝きを放つ。

このドラマの構造上、すべては山里亮太の妄想だった、という所で幕切れとなるのだが、こんなにも終わって欲しくない世界はここまでなかった。自分のことを好きにならないはずだし喫茶店でも向かいに座ることはない、けど森七菜だけが自分を名前を憶えていて、偶然撮った2ショットに軽率に言われてニマニマする、ささやかだが紛れもない君と僕の世界。妄想の果て、山里亮太が自らの存在をクソみたいな現実の中で確かめるラストカット、永遠。

いつまでもあの世界の森七菜に執着していてはいけないと思いつつ、しかしどうにも離れがたい、そんな自分にぴったりな1st写真集「Peace」もようやくこのタイミングで購入した。まだぱらりとしか見てないけど、1カット1カットにストーリーが浮かんできてとんでもない作品だった。ひとまず暫くは青春と一瞬を体現した森七菜のことを考えつつ、本日の「この恋あたためますか」を待機することにする。次はどんな森七菜が現れるのだろうか!!

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