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7.15くるりライブツアー2022@ Zepp Nagoya/くるりを初めて観た夏に思いを馳せる〜2012 to 2022〜

くるり「ライブツアー2022」名古屋公演を観た。もう何度も観ているバンドだが、ふとそう言えば初めてくるりを観たのは10年前の7月ではないかと思い出した。そして今回のライブがちょうどその前後数年の曲が多めだったこともありここ10年くらいのくるりとともにあった景色や日々を思い返し続ける夜になった。ライブの感想と個人的な追想を並走させながら記していきたい。ちなみにこの日のライブTシャツは先日PARCOで開催されていた25周年ポップアップストアで購入してた名古屋限定、くるり×味仙Tシャツ。最高。

いつも通りぬるっと登場するくるり。岸田繁(Vo/Gt)、佐藤征史(Ba)に加えて、松本大樹(Gt)、石若駿(Dr)、野崎泰弘(Key) という昨年のツアーと同様の編成。1曲目が2005年のアルバム『NIKKI』のオープナー「Bus to Finsbury」でいきなり驚く。その後は2010年のアルバム『言葉にならない、笑顔を見せてくれよ」から「目玉のおやじ」「コンバット・ダンス」を畳み掛ける流れ。明らかに異様だ。しかし筋力溢れる現体制のグルーヴによって現役の曲として見事に仕上がっている。個人的にはくるりに出会った頃のアルバムと最も好きなアルバムからの選曲であるからだいぶブッ刺さってはいた。マイナー曲への単純な驚きと固有の喜びがひしめき合う不思議な時間が続いた。


ここで「ブレーメン」が来て会場にもちょっと安堵感が広がったような気がした。ホーンセクションを担う奏者はいないが野崎の鍵盤と松本のギターが激しくこの曲をうねらせていく。そう言えば初めてくるりを観た2012年の福岡の夏フェス「HIGHER GROUND」でもこの曲はやっていた。当時は加入したてのファンファンと吉田省念がいたなぁとか、ファンファンがトランペット1本でこの曲を担っていたなぁとか、あの日の晴天とか、色んなことを思い出す。この曲は時に岸田、佐藤、ファンファンの3人だけによる演奏やもっとリッチなアレンジでも聴いたことのある曲だがその編成ごとに旨味がある曲だと思う。ある意味、止まることのないくるりの変化を肯定するような曲。


2018年の『songline』収録の「忘れないように」はもっと定番化してもいいような普遍的な名曲だが久々の披露だ。この後のMCでこの曲がアマチュア時代に作られた曲であり2018年になって思い出してリメイクされた経緯があることが語られる。それに紐づき、今回のツアーでは忘れていたような古い曲やファンも知らないような曲を発掘して演奏するコンセプトであると伝えられる。岸田曰く"珍味”だという楽曲たち、続いたのは10年前、2012年のアルバム『坩堝の電圧』から「bumblebee」だ。さすがにこれは記憶から消えていた。原曲は鋭いトランペットが印象的なキメの多い曲で、このライブではよりファンキーな仕立てに。もはや新曲のような切味を備え直していた。


毎度おなじみの「Morning Paper」の激しさを引き継ぎ、2014年『THE PIER』からファストチューン「しゃぼんがぼんぼん」豪快に届けた後、間髪入れずに「青い空」が!この10年、どの現場でも出会えなかった1曲だ。中学1年生の頃『ベスト オブ くるり』を手にした時、当時大好きだったアジカンや9mmの匂いを感じて特にめちゃくちゃ聴いてた1曲。まさかここで出くわせるとは!いやしかし、納得感はある。今の5人体制はスター感溢れるプレイで魅了する松本と強靭な技巧を持つ石若を擁しており、ロックンロールバンドとしての地力が凄まじいのだ。2番でいきなり上擦る声とか、あの時よく分からないけど格好良かった部分はそのまま、最上の演奏で届けてくれた。


雄大なメロディを広げた「風は野を越え」の後、岸田が公演前に食べたお弁当の影響でトイレタイムに突入し佐藤がグッズ紹介をするという一幕もあり、このぬぼーっとしたムードはどんな瞬間も変わらなくて安心する。そしてこの日最もピンとこず、終演後に『Remembe me』のカップリングだと知り唸った「Time」。岸田の奏でるアコギと異国情緒漂うフレージングで、ここからゆるやかに優しい曲を連ねる流れへ。イントロでぐっと聴衆を惹きつけた「三日月」。野崎の奏でる鍵盤がある現体制はピアノ曲も美しく聴かせてくれる。これを聞いて思い出すのは2014年に観たフェス「WORLD HAPPINESS」だ。台風の影響で過酷な環境だったがこの曲に癒された記憶。

様々な記憶をくすぐる今回のライブ。「さよならリグレット」もキュンとなりながら、この曲を中学時代に文化祭で上演した演劇のエンディングテーマとして強行起用した思い出が蘇って呻いてしまった。僕が演出をしてたんでね、、、にしても誰も知らない曲過ぎたよな、、申し訳なかった。そんな胸の痛みに浸りながら始まった「ばらの花」。「色んなことはありますが続いていくもんです」と昨今の情勢を踏まえたMCの後に聴く《安心な僕らは旅に出ようぜ》の滋味に沁みつつ、この曲が来年の教科書に載るという偉大さにも感動する。あの日、くるりを全体行事で流してスベってしまった少年時代の月の人にも言ってあげたい。くるりを学校で習う世代も出てくるよ!と。

切なくなりきったこちらを惑わすように、激しく掻き鳴らされるギターで幕を開ける「white out(heavy metal)」。『坩堝の電圧』の1曲目を飾る曲でタイトル通りヘヴィメタル的な意匠もある楽曲。正直これも完全に存在を忘れていた曲だが凄まじい鋭さで知らない曲かどうかなど関係ないクールさ。続く「Giant Fish」は前作『thaw』に正規収録されるよりもはるか前、2006年『ベスト オブ くるり』の初回盤Disc3に入っていた曲だ。当時の僕はなんだか普通じゃない曲調すぎて怖い曲だと思い失礼ながらあまり聴いてこなかったのだが今聴くとその迫力溢れる演奏のうねりに大興奮。怖くなかった。しかしこの裏ベストとも違う絶妙に渋いマイナー曲の応酬に狂気は感じた。


「Giant Fish」は「尼崎の魚」(「東京」のカップリング)のアンサーソングだったという豆知識でコアファンを驚かせた後、岸田がおもむろにPC用の冷却ファンを取り出す。モーターが好きだという岸田は冷却ファンをアンプに繋ぎ回る音を増幅させたり、エフェクターをかけたりし始める。いきなりの奇行に戸惑っていたが続く「かごの中のジョニー」のアウトロのセッションでその音が織り交ぜられる。さらにそこからノンストップで繋げられたプログレナンバー「Tokyo Op」の中でも冷却ファンが唸りをあげて、正直かなりノイジーでイケている。思えばくるりは、いつだってそこにかつてなかった音楽を実験の末に生み出すバンドだ。その最新型を観ることができた、のか?


ライブは終盤に。大好きな「飴色の部屋」も聴けて嬉しかった。この曲もベスト盤で出会った曲だけど、好きすぎて夏休みの宿題の創作文をこの曲をモチーフにした短編小説で出したことがある、なんてことを思い出した。中学生の頃の情緒的な感性、僕はかなりくるりによって育まれているんじゃないか、と。そして"ジョゼ"繋がりで「ハイウェイ」も奏でられる。この曲は最初はサビがない曲だな、、と思ってさほどぴんとこなかったのだが年々どんどん好きになっていき車の免許を取る頃にはドライブソングの定番だった。ライブで初めて聴けたのは2018年、長い旅だった。いつだってそっとここじゃない場所へと踏み出す勇気をくれる曲。この日も噛み締めながら聴いた。


2014年リリースの「loveless」は近年のライブでは定番になりつつある曲だがここまでクライマックスを彩る曲になるとは。しかし《悲しみの時代を生きることはそれぞれ/例えようのない愛を生むのさ》や《許し合うこと 見えないことも 見ようとする 強い気持ちのこと》という言葉の節々に、この時代に必要なメッセージが宿っているような気がした。そしてラストは、また健康で会えることを祈って、というMCを挟んで輝かしい「ロックンロール」へ。最初はどうなることかと思ったマニアックな選曲だが、終盤はすっかりくるりの懐にすっぽりと入り込むような温かなライブへと変わっていた。どこまで玄人ウケに行きそうなところをしっかりと普遍性で包むバランス感。


アンコールではグッズのキャップを被り、ストリート感溢れる岸田がハンドマイクを握る。そして直近の大ヒットナンバーである「琥珀色の街、上海蟹の朝」が。この曲、ひょっとすると最近のヤングなリスナーからすると「ばらの花」や「東京」よりも知名度があるんじゃないかと思ってしまう。2019年に「Sunset Live」で久々にフェスでのくるりを観たのだけど、この曲で上がる歓声の数が凄まじかった。ここにきて再び求心力を増した凄みを実感した瞬間だった。そしてフェスという場所でくるりが求められている!ということを実感して強く感動したのだ。というのも、フェスで観るくるりにはやや苦い記憶がある。2014年、福岡の「NUMBER SHOT」に行った時のこと。


その日は他のラインナップがヒットチャートを賑わすアーティストばかりで前の時間帯が湘南乃風だったりして、くるりの時間に立って観ているのは周りで僕だけのような状況だった。岸田は後のブログで目の前で座ってゲームをしている客がいたことを綴っていたり、なんだか申し訳なくなった。しかし、あの時は心の中でくるりが特別なバンドになっていくのを感じた。オーディエンスの反応に関係なくただ良い音楽を尖った感性で届ける姿は頼もしく思えた。あの日「東京」を聴きながら思ったことを、この日のエンドソング「東京」を聴きながら思い出した。「ばらの花」が教科書に載ろうとくるりが広く届くとは限らない。しかしクラスの誰か1人が、もしかしたらくるりの音楽を大切に抱きしめてこれからの人生を生きていくのかもしれない。そんなことを思うと胸が熱い。謎曲ばかりのライブだけど不思議とノスタルジックになり、今までとくるりと僕、を振り返ってしまう夜だった。

<setlist>
1.Bus To Finsbury
2.目玉のおやじ
3.コンバット・ダンス
4.ブレーメン
5.忘れないように
6.bumblebee
7.Morning Paper
8.しゃぼんがぼんぼん
9.青い空
10.風は野を越え
11.Time
12.三日月
13.さよならリグレット
14.ばらの花
15.white out (heavy metal)
16.Giant Fish
17.かごの中のジョニー
18.Tokyo OP
19.飴色の部屋
20.ハイウェイ
21.loveless
22.ロックンロール
-encore-
23.琥珀色の街、上海蟹の朝
24.東京


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