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吉澤嘉代子『赤星青星』と「3.24 赤青ツアー2021(配信)」

吉澤嘉代子、レーベル移籍を挟んで2年半ぶりの5thアルバム『赤星青星』が段違いの傑作だった。言ってしまえばウェルメイドなポップス集、その一言に尽きるのだが、多彩なメロディラインと独特の浮遊感を持つ神秘的なサウンドメイクは派手さはないものの確かな美学が貫かれた、"慎ましき傑作"と言い切れるだろう。世界に小さな宇宙を広げるような豊かな情感がある。

吉澤嘉代子の楽曲は一貫して物語であり、歌唱はその物語の登場人物に憑依するようにして表現する。演じること、それ自体を中心に据えた『女優姉妹』と比べ、様々な形の"恋"を描くことに特化した『赤星青星』はより直情的な作品だ。誰かが誰か、何かが何か、誰かが何か、何かが誰かに寄せる想いが様々な装飾とともに言葉になり、物語になり、寄り集まった短編集だ。

思いを伝えることが作品の中心になったのはやはり会いたい人に会えなかった2020年の日々が大きく反映されているように思う。『赤星青星』というタイトルも"違う星に住む2人"というイメージから引き出されたもので、そんな距離でも音楽ならば飛んでいける想いはある。人ならぬ者だろうと、ゲームの中の登場人物だろうと、想いは軽やかに空気を揺らして次元を超える。

大阪と東京で開催された本作を引っ提げてのコンサート「赤青ツアー」では想いを伝えるアイテムとして電話が効果的に用いられていた。楽曲の転換ポイントとしても勿論だがMCで呼びかけたり、このライブへの想いを語ったり。観客の目を見て話しかけるだけではないコミュニケーション。電話口で喋っているMCは、会場のみならず配信先にもちゃんと届いてるような画だ。

想いを執念深く問い直す6/8バラード「リダイヤル」、<受話器の向こうの顔が思い出せない>という相手に離別の想いを訥々と歌う「流星」といったアルバム曲は勿論、内緒のコールで約束を果たさんとする「えらばれし子供たちの密話」や、"秘密の交換"を描いたミニアルバム『秘密公園』の楽曲を3曲も披露されるなど、これまでの”伝達”を表現とした曲も再発掘されていた。

<離れ離れの日に泣いたのは/寂しいからじゃなくてあなたといられる幸せを思った>という核心を優しく歌い上げる「リボン」と、<もう私には貴方しかいないの 運命の人よ>と結ぶ「刺繍」に収束する流れも素晴らしい。多様性という言葉が市民権を得るよりはるか前から、様々な恋の"想い"を結晶化してきた彼女の音楽はこれからはもしかすると、恋文のお手本として、熱い気持ちの代弁として、人々の日々にもっと浸透していくのかもしれない。

<setlist> 
1.ルシファー
2.綺麗
3.ユキカ
4.運命の人
5.鬼
6.胃
7.ゼリーの恋人
8.リダイヤル
9.ニュー香港
10.グミ
11.えらばれし子供たちの密話
12.サービスエリア
13.残ってる
14.曇天
15.流星
16.リボン
17.刺繍
encore
18.らりるれりん


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