つやちゃん

文筆家。音楽誌や文芸誌、ファッション誌などに寄稿。著書に、女性ラッパーの功績に光をあて…

つやちゃん

文筆家。音楽誌や文芸誌、ファッション誌などに寄稿。著書に、女性ラッパーの功績に光をあてた書籍『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』(DU BOOKS)等。2022年~オルタナティブな美の在り方を考える活動『コスメは語りはじめた』を発起。

最近の記事

櫻井敦司さんの訃報によせて

不思議なことに、私がBUCK-TICKを聴くとき、必ずと言っていいほどその音は櫻井敦司の映像とともに再生されていた。聴覚と脳と視覚が瞬間的につながることで櫻井敦司のあのたたずまい、身振り、所作、表情、全てが一瞬にして想起され、音楽が「イメージの櫻井敦司から」鳴らされた。そんなのよくある話だよ、と思うかもしれない。確かに、音楽を聴いていて何かしら景色が想起されるというのはよくあることだ。ただ、私におけるBUCK-TICKを聴くという体験は「音楽を聴くことで景色が想起される」とい

    • 新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』

      醒めやらぬ感動を書き殴るべくいつもの通りnoteを開いたのだが、今回は新国立劇場バレエ団の『白鳥の湖』全幕上演について。2021年のピーター・ライト版の再演ということで、6月10日から18日にかけて7日間に渡って公演中である。連日twitterのアートカテゴリのトレンドに「白鳥の湖」が現れるという盛り上がりを見せているが、私が鑑賞した6月11日13:00~の回も満席で熱気を生んでいた。 実は初日の米沢唯&福岡雄大の回に行こうと思っていたのだが、チケットを手配したのが二か月ほ

      • 2022年7-12月Works

        2022年下半期の全作品と振り返りコメントです。 【書籍】 ◆【共著:『現代メタルガイドブック』(P-VINE RECORDS)】 和田信一郎 a.k.a s.h.i.さんからは日頃大いに刺激を受けているが、何よりも共感するのは、メタルを起点にしつつ彼が意識的に広げている俯瞰的な視座。ポップミュージックからの視点をメタルに還元しながら――逆も然り――常に対象に迫ろうとするまなざしに学ぶことが多い。メタルとハードコアは自分の大切なルーツの一つなので、そういった点でもこのジャ

        • 笑えない喜劇――プルカレーテ×佐々木蔵之介『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』の素晴らしさ

          池袋は、いつ行っても殺伐としている。 『リチャード三世』以来、五年ぶりとなるプルカレーテ×佐々木蔵之介のタッグ。11月23日から東京芸術劇場で公開されている『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』は、音楽や美術が渾然一体となったプルカレーテ組の作家性みなぎる演出がヴィヴィッドな表現で迫ってくる、素晴らしい舞台だった。 様々な対比関係が見られた。舞台を仕切っていた簡素なセットがひらひらと風に揺れ、その狭い空間を貧相な格好のドケチ主人公・アルパゴン(佐々木蔵之介)が歩き回る。けれど

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          カンパニーXY withラシッド・ウランダン「Mobius/メビウス」を観て考えたhyperpopのこと

          世田谷パブリックシアターで観たカンパニーXY with ラシッド・ウランダン『Möbius/メビウス』にいたく感動したため、筆をとっている。 フランス拠点に活動する人気の現代サーカス集団「カンパニーXY」とコンテンポラリーダンスの振付家ラシッド・ウランダンのコラボレーションということで、老若男女が集まり会場は盛況。東京から始まり名古屋、京都へと続く日本公演ツアーである。冒頭から、息をするのもはばかられるような緊張感あふれる無音の中で演者が一人、二人、三人……と現れる。皆が固

          カンパニーXY withラシッド・ウランダン「Mobius/メビウス」を観て考えたhyperpopのこと

          『The Concert』(スターダンサーズ・バレエ団)が素晴らしかったという備忘録

          先日体験したUKラッパー・Little Simzの<粋>なライブの余韻がまだ身体に残りつつ、今日もまた新たな興奮が抑えられないまま性急にnoteを開き整理されていない思考を書き殴ろうとしているのだが、とにかく凄かったのだ。東京芸術劇場プレイハウスで観たスターダンサーズの『The Concert』は、今年観たバレエ公演で一番心を持っていかれ、一番笑った舞台だった。 ニューヨーク・シティ・バレエ団による映像 もちろん、国内バレエ団による初上演(当初2020年に予定されていたも

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          『日本語ラップ名盤100』(韻踏み夫)最速レビュー

          ついに届いた、韻踏み夫氏の単著が。多くの文字を紙面からぼろぼろこぼしながら、とにかく次のページへと進みたい欲望に駆られ紙をめくり、まためくり、一気に読み終え、そのまま衝動にまかせて筆を走らせはじめている。私は執筆においてポスプロを大事にしている。文章をいかに磨いていくかが好きだ。けれども、この文は読み直さず、ただただ勢いに任せて書きたい。たまにフリースタイルをやりたくなる時があるだろう、今がそれだ。   まず、どこから話そうか。タイトルのギミックからいこう。『日本語ラップ名盤

          『日本語ラップ名盤100』(韻踏み夫)最速レビュー

          【2022年1-6月Works】

          【書籍】 ◆単著『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』(DU BOOKS) ◆寄稿『BIBLIOPHILIC BOOK  本のある生活』(DU BOOKS):「2011年に刊行され、その後の10年を予見していた3冊」 【対談記事】 ◆【サイゾーWeb連載 Vol.1】渡辺志保×つやちゃん対談「私の中ではAwich以降。日本語ラップが迎えた新時代と裏面史」 ◆【TV Bros. WEB】宮崎敬太×つやちゃん対談「いま日本のフィメールラッパー批評に

          【2022年1-6月Works】

          “身体レベルのサンプリング”という行為について――ASOBOiSMをヒントに

          先日、シンガーソングライターのASOBOiSMにインタビューさせてもらった。会議室でかしこまって話を伺うよりももう少しフランクな場で本音を聞きたいと思ったので、その旨を伝えた結果、用賀のとあるカフェレストランでじっくり対話できることになった。そういった環境も作用したのか、普段とは違う、色々と考えることの多い取材になった。今回は、裏話とともに備忘も兼ねてその思考の跡を残しておこうと思う。(本稿はアーティストサイドには見せており公開の許可をいただいているのでご安心を) ※【iF

          “身体レベルのサンプリング”という行為について――ASOBOiSMをヒントに

          【インタビュー】私たちは、「妖艶金魚」っていうジャンル。

          ラップが巧い人、リリックが鋭い人、ビートが面白い人……このヒップホップ戦国時代、光る才能を持ち合わせたラッパーは数多くいる。しかし、新人で明確な世界観を確立している存在というのはめったに現れない。その点、妖艶金魚は注目に値するユニットだろう。  著書『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』で、私はその新たな才能について次のように記した。「フィメールダンサーやDJといった才能を続々輩出している近年の国内ヒップホップ文化が生んだ結晶のような、わくわくする

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          『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』ができるまで

          本稿は、このたび刊行した書籍『わたしはラップをやることに決めた  フィメールラッパー批評原論』がいかにして生まれたかを、(備忘も兼ねて)記したものです。今回の書籍は、女性とラップにまつわるあれやこれやを、“カルチャー素材のサンプリング”と“論理のトリッキーな飛躍”という極めてヒップホップ的なアプローチのもと、平易なことばで、時にエモーショナルに書き連ねた断片集でもあります。それはまさに、日常や歴史の様々な破片を集め、リリックに落とし、現代口語を操りリズムを奏でる昨今のヒップホ

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          2021年寄稿記事まとめ

          【対談】◆宇野維正×つやちゃん特別対談 ザ・キッド・ラロイから(sic)boyまで繋ぐ“ラップミュージックによるロックの再定義” 【インタビュー】◆宇多田ヒカル インタビュー「時代、そして自分自身と向き合いながら。ポップミュージックの最前線を更新し続ける、2020年代の宇多田ヒカル」 ◆宇多田ヒカルインタビュー完全版 前半 ◆宇多田ヒカルインタビュー完全版 後半 ◆SMTKインタビュー「予測不能な“新SMTKサウンド”の誕生ーー石若駿らメンバーに聞く、アルバムSIRE

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          月と崎山蒼志――“上京者の詩”が描いてきた都会の街について

          音楽は、詩は、都会の街で育っていく。 喧噪の中ですれ違う人々の群れは都会らしさを声高に強調し、適度に保たれた人と人の距離感は都会の緊張感を浮き彫りにする。人の体温をまとった生ぬるい空気の香り、建物と建物の間をすり抜けてふわりと入ってくる風の感触、ふと窓に射す屈折した月の灯り。様々なものが都会を都会たらしめている。 「変わっていく世界を/変わらない寂しさを/月のように吹き抜けた明かりを/あの/自動販売機を/見ている」(「過剰/異常 with リーガルリリー」より)と歌う崎山

          月と崎山蒼志――“上京者の詩”が描いてきた都会の街について

          正しきストーナー映画としての『ビーチ・バム』(ハーモニー・コリン監督)

          二種類の反復がある。 一つは意味のあるもの。もう一つは、意味のないもの。 例えば、反復とはブレイクビーツである。反復とは、プリーツスカートの襞(ひだ)である。反復とは、フリークエンシーn回の広告である。反復とは、似たような色恋沙汰を次々に描くホン・サンスの映画である。反復とは、軽いショットをばんばん撮ってその場で捨てていくような思い切りの良さに溢れた近年のイーストウッド映画である。 フリークエンシーn回の広告は、一回一回に目的をもっている。認知させたい、理解させたい、購

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          メタリカ『St.Anger』を再考する(10,101字)

          はじめにD'Angeloは出るか出るかという期待が高まりながらも『Black Messiah』を出すまでに14年かかったし、Guns N' Rosesは様々な曰くをつけながら『Chinese Democracy』を17年がけでリリースしたし、Dr.Dreの『Detox』は結局(Detoxという形では)世に出ることはなかったし、そういうわけで私たちは大抵の「待つ」行為には慣れているので、Playboi Cartiが引っ張って引っ張って『Whole Lotta Red』をついに発

          メタリカ『St.Anger』を再考する(10,101字)

          2020年に寄稿した記事まとめ

          ★単発記事【TikTok論】 TikTokは震えている──本音でも建前でもない「2.5」的ストリート空間 【KOHH『worst』コラム】 KOHH、最終作『worst』に至るまでーー動物性のゆくえ 【舐達麻論】 舐達麻、聴き手を熱狂させるリリックの神秘性ーー覚悟と信念、そして発露する叙情と哀愁 【Awich紹介PRコラム】 Awichはどこまで昇り詰めるのか メジャーデビュー作『Partition』で辿り着いた表現とスタンス ★連載【痙攣としてのストリートミ

          2020年に寄稿した記事まとめ