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インディペンデント・アーティストを支えるコミュニティ〈B-Side Incubator〉設立について

インディペンデント・アーティストの方たちを支援する一般社団法人〈B-Side Incubator〉を立ち上げました。

創設メンバーは、デサイロ代表理事でエディターの岡田弘太郎さんを中心に、音楽プロデューサーのstarRoさん、Vegas PR Group代表/ZAIKO創業者のローレン・ローズ・コーカーさん、SSW/プロデューサーのマイカ・ルブテさん、私の5人が参画しています。デザインリサーチャー/ライターの古島海さんも加えた6人で、皆それぞれの専門領域や得意分野を活かしながら取り組みを開始しました。

理念や事業内容などは、以下のオフィシャルサイトにまとめています。

普段様々なアーティストの方々と話す中で、今の音楽を取り巻く環境が危機的な状況になっていることを痛感してきました。受け手にとってみたら、すばらしい時代でしょう。2024年現在、音楽シーンには数えきれないほどの才能あふれる方たちがひしめいており、国内に限ったとしても、過去に類を見ないほどのクオリティの音楽が毎日のようにリリースされています。けれども、そこにどのような経済システムが絡んでいるでしょうか。Spotifyの収益分配についてのニュース、アーティスト独自のサブスクリプション・プラットフォーム設立のニュース、多くの出来事が日々起きており、その度に様々な議論がなされています。特にインディペンデント・アーティストについては、持続的な形で音楽活動をどのように成立させていけばよいのか、ほとんどの人がまだ答えを見つけられていません。

そのような中で、日々身と心を削られているアーティストが数多くいます。ようやく楽曲の視聴数が伸びてきたものの、マネジメントがずさんな事務所と契約してしまった。法律関連の知識がなかったため、不利益を被ってしまった。作品に関するコメントや評価などに振り回されメンタルに支障をきたしてしまった。プロモーションやSNS運用に追われて、曲制作もままならない。そもそも作品を聴かれる機会がない。スタジオ代やライブ費用など、資金繰りに苦労する毎日……等々。

私たちはB-Side Incubatorの設立にあたり、意見をぶつけあいました。まず、最も大切な理念として、このプロジェクトはアーティストを意思決定の中心に置くことで合意しました。そして、非営利団体である一般社団法人として活動を行っていくことを決めました。「非営利」とは利益をあげないことではなく、その利益を構成員に分配せずに、団体の活動目的の達成に充てることを意味しています。

さらに、アーティストを支えるために、多種多様なプログラムを作っていくアイデアを議論しました。創設メンバーだけでなく専門家も招きながら、法律・契約についての知識、変化するテクノロジーへの対応、メンタルヘルスのケアなど、包括的にサポートを行なっていくようなスクール展開を試みます。そうやって生まれた知見を、シンクタンクとして世の中に発信していくことも考えています。対象は、若手だけではありません。中堅もベテランも、優れたアーティストが数多くいる中で、年齢にとらわれず活動をしている多くの方にとってポジティブなサポートになれるよう、動いていきます。

スタートはフィランソロピストの方からの基金への寄付によって成り立っていますが、企業との共同プロジェクト、さらにメンバーシップ会員からの寄付も募りながら活動の仕組みを構築していきたいと思います。発生し得る様々なニーズにあわせて、協力メンバーを増やしていくことも考えています。

とは言え、私の主たる活動は文筆や企画です。メディアなどでアーティストの方々を取り上げることも多いため、立場上のことも考え、B-Side Incubatorで特定のアーティストへの金銭的サポートを行う場合は共同メンバーによる審査やオーディションといった手続きを踏みます。権限を権力にしないよう、ガバナンスを働かせます。そしてもちろん、文筆によるスタンスは変えません。私の執筆は主にジャーナリズム寄りのものとクリティーク寄りのものという二つに分類できますが、どちらも引き続き書いていくでしょう。双方を両立させることが文化の発展に繋がると考えるからです。

ペンでできることは無限大です。けれども、これだけ音楽を取り巻く環境が激変する中で/優れたアーティストが増える中で、応援したい人は次から次に出てきます。ペンでできることと、それ以外のアプローチでできること、やれる範囲でどちらも取り組んでいきたいと思います。

ここでは、素敵なことはいくらでも言えるでしょう。理念や未来の構想を語る場なので、むしろ素敵なことをたくさん掲げています。ただ、どんな活動にせよ続けていくのはとても難しいことで、たいてい二、三年が経過したタイミングで苦しくなってきます。それを承知の上で、私たちは少なくとも十年はB-Side Incubatorを続けていきたいと話しています。中長期的な目線で試行錯誤を繰り返しながら、インディペンデント・アーティストにとってポジティブなシステムを作り出すことができないか、様々な取り組みを仕掛けていきます。

……というわけで、立ち上げについてのイントロダクションは以上。詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。なんだかちょっと固くなってしまったけれど(?)、議論し決めたことをきちんと伝えたかったので。私たちの大好きな音楽が、これからも末永くありつづけますように。いつも記事を読んでくださる方々、まじであなたたちの熱いリスナー魂にたくさんのアーティストが救われていると思います。そしていつもフロアで会った時に話してくださる方々、これまで通り今後も見かけたら声かけてね。そして素敵な音楽を教えて!

【キックオフイベントを開催します】
5月16日(木)19:30~21:00にイベント「B-Side Incubator Launch Party」を開催します。プロジェクトの紹介や理事メンバーによるトークセッションを起点に、会場にお越しいただいたみなさんと「インディペンデント・アーティストの未来」について議論。参加費は無料です。メディアの方でも一般の方でも学生さんでも、ご興味ある方はぜひ。

開催場所:MIDORI.so SHIBUYA / CryptoBase (旧 NIB SHIBUYA)
東京都渋谷区桜丘町16-13 桜丘フロントビルⅡ3F    JR山手線 渋谷駅 徒歩7分

https://b-side-launch.peatix.com/


【ちなみに…】
B-Side Incubatorに関連して。とりわけ、私にとってASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文さんが立ち上げた音楽賞<APPLE VINEGAR - Music Award ->の影響は大きかったです。2022年から後藤さん・小熊俊哉さん・矢島由佳子さんの四人でAPPLE VINEGARポッドキャストなるものを発信していますが、そこで見聞きしてきた音楽賞に対する後藤さんの想い、選考の難しさ、さらにはアーティストの方たちの音楽制作へのこだわりからは、大きな刺激を受けました。今後私の中でB-Side IncubatorとAPPLE VINEGAR関連で知見が相互に行き来し、何かの役に立てるかもしれません。

発表されたばかりのAPPLE VINEGAR2023大賞の選考会では、後藤さんから以下のようなコメントが!
アップルビネガーは現在、NPO設立の申請をしていまして、賞は賞で続くんですけど、近く「Apple Vinegar Music Support」という名前で、音楽支援機構としての役割を強化したいと考えています。静岡県に宿泊型の音楽スタジオ、アーティストレジデンスだったり、コミュニティスペースだったり、みんながあまりお金のことを心配せずに集まって音楽が作れる施設を作る予定です。僕がこれまでに集めた機材やマイクを自由に使ってもらえるようにもしようと考えています。賞とともにまたそうやって、みんなが音楽活動をしやすくなるような現場をこれからも整備していきたいと思います。準備ができたら、報告しますね。その際は、皆さんの力を少しずつ、貸していただけたら嬉しいです。

アーティストを応援するという目的に近いところではもう一つ、〈R&B Lovers Club〉というプロジェクトにも参画しています。優れたR&B作品が多いものの、国内では専門メディアも少なくなってしまい、情報が点在しておりなかなかまとまって可視化されない——そういった状況において、ジャンルとしての盛り上がりを作るために始めた有志の活動です。R&Bシンガーのaimiさん、音楽ブロガー/ライターのアボかどさん、ダンサー/DJ/ライターのYacheemiさん、R&Bブログ「Respective」運営のCookieさんとともにスタート。〈R&B Lovers Club〉も同様に、何かB-Side Incubatorでの知見を活かしていけるかもしれません。


最後にもうひとつ、次の単著を七月に出すから楽しみにしてて!きっと面白いはず!

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