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第2回 社長は自分でおわりを創らないとひどい結末が…【会社の着地論】

着陸する飛行場が見えない。
見ようともしていなかった・・・

あなたはパイロットだ。あなたは、着地点を見ることなく、なんとなく操縦桿を握ったまま飛び続けてきたのではないでしょうか。
「なんとなくとは、失礼な! ちゃんと目標をもってやってきた」と否定するかもしれない。
でもそれって、売上げ目標や会社の規模ではありませんか? 飛行機であれば、飛行高度や座席数にこだわってきたにすぎません。
ここで問うているのは、どこに、どうやって着陸するのか? です。

さあ、いよいよ雲行きが怪しくなってきました。強風があなたの操縦する小型飛行機をあおります。墜落しないよう何とか懸命に耐えようとしてきました。
しかし、燃料が尽きかけです。機体からもガタガタと悲鳴のような音が漏れます。乗員乗客の命を守るパイロットのあなたの精神も体力も、もう限界間際。これはどうなる・・・!?

全体像から攻める会社の着地論


学生のみなさん、こんにちは。社長をヤメる大学の2回目の講義です。
講義の大きな流れとしては、広い概念的なところからスタートし、徐々に個別の論点に踏み込んでいくつもりです。今回は、皆さんと全体像の共有を試みます。

思えば、世の中は細部の話ばかりが氾濫しています。
こちらは全体的な話をしているのに、すぐに細部の話にこだわってしまう人もたくさんいます。あれはなんなんでしょうかね。視野が狭いのか、どうも全体を見るのが苦手な人が多いような気がします。

原因の一つに、構造を全体像からおさえることなく、手っ取り早くことを済ませようとしてしまう悪癖の存在を感じます。ささっと自分の要望だけをかなえようとするわけです。
でも、世界は楽を許しません。しかも、これは危ない。
たとえば、何か問題があって、あなたはその解決策を探しているとしましょう。もし見つけたと思った解決策が、全体像から導きだされたものではなかった場合、それは単なる緩和処置にしかならない可能性が高くなります。本質的な解決策ではなく、部分的な改善にとどまってしまう場合もあります。

問題は本質的、根本的に解決させなければいけません。
緩和処置でも、部分的解決でも、「状況が前より良くなったんだからいいじゃないか」とあなたは主張するかもしれません。しかし、緩和措置や部分的な最適化が、結果、全体的かつ根本的な問題解決を不能にしてしまうことすらあるのです。
学生の皆さんにはこの点、十分に注意していただきたいところです。

「自分は最後、M&Aで会社を売って終わらせるんだ」
例えばあなたが、本音ではこう思っていても、他の道も含めた全体像をしっかり押さえておいてください。ご自身の判断の精度が高まり、大きな失敗を回避することにつながるはずです。

「会社の着地」という言葉


さて、冒頭の飛行の描写、あれは比喩ではあるものの、現在の多くの中小企業経営がおかれている環境です。
着地点が見えずに追い込まれています。事業承継をはじめとする「会社を最後にどうするか?問題」は、決着をつけないまま時間が立てばたつほど、経営者は追い込まれてしまうのです。

ちょっとここで言葉を共有しましょう。
ヤメ大では、会社を最後どうするか?というテーマのことを『会社の着地』と呼びます。そこから派生して、着地問題なんて言い方もすることがあるでしょう。ふさわしい言葉が存在していなかったため新しい言葉を作る必要があったのです。

新しい名前を付けることで、世界が変わることがあります。
かつて、リ〇ルート社が、フリーターという言葉を作り、はやらせました。新しさやカッコよさを感じた若者の中に、会社を辞めてフリーターになる人が激増したと聞きました。でもフリーターなんて名をつけたところで、なんてことはない。実態は単なる非正規雇用でしかなかったわけですが・・・。まあともかく、会社の着地という新しい呼び名が、社長さんの気づきや関心を呼び起こせれば、私としては“してやったり”でございます。

会社の着地なんて言葉を作らないでも、既存の言葉が十分じゃないかと思った方がいらっしゃるかもしれません。たとえば、「事業承継」という言葉。実際、私が会社の着地と呼ぶような場面で、たしかにこの言葉も使われていたりします。
でも、私からすると事業承継という言葉ではダメなのです。そこには「会社って、誰かに継がせるべきだ」というニュアンスが含まれしまっています。世間的な常識や正論が言葉に反映さえているのでしょう。しかし、誰かに会社を継がせない終わり方だってあります。
偏りなく、フラットな目で物事を見ていく必要性を感じています。偏った常識が、問題をこじらせてしまうことだってあるのです。ありのままを見るために「会社は誰かに継がせるべきだ」という前提を取っ払いましょう。


自らヤメるか? 強制的におわらされるか?


会社の着地の全体構造を見ていきます。
まず、大きく「任意の終わり」と「強制的な終わり」に分けてみましょう。

前者のグループの任意の終わり方には「社内承継」「M&A」「廃業」があります。
社内承継は、子供であれ、従業員であれ、社内のだれかに会社を継がせるゴールです。一方のM&Aは、外部に会社を売却して終わらせるゴールです。
もっと細かく定義が分けられているケースも見受けられますが、あまり細々と分けるのも意味がないと思います。
この社内承継とM&Aを含めて事業承継と呼ぶことがあります。


なお、事業承継と事業継承と、どちらの言葉も使われることがあります。特に意味の差はなく、どちらを使おうが間違いではありません。私たちのような専門家は事業承継を好んで使い、社長さんなど現場の人のほうが事業継承という言葉を使う傾向があります。
ここに廃業を加えて、任意のおわりグループとなります。会社が消失する廃業と、会社が存在し続ける他の二つが、同じグループに入っている点が面白いところです。

これらの3つのゴールは「任意のおわり」と表現するように“社長が自ら決断しなければたどり着けない末路”です。「俺の会社をこいつに継がせよう」とか「もう会社をたたむことにしよう」とか、自分で判断して実行しなければ実現できません。
社長の意思に反して、勝手に会社が誰かに継がれたり、売られたりすることはないのです。
なおヤメ大では、特段何も言わない場合は、社長はオーナー社長である前提に立ちます。ほとんどの中小企業がそうです。自らが代表取締役であって、株主です。オーナー社長であるがゆえに、自分で着地方法を選べます。逆に、自分で選ばないと、いいかたちで終われません。


逆側の強制終了グループを見てみましょう。何があるのでしょうか。
一つ目は「倒産」です。資金が尽きて、これ以上事業を継続できない状況に陥ることです。金が尽きて引導を渡される状況です。
社長がどんなに継続を望もうが。もうそれはかないません。経営の舞台から強制的に退場させられてしまうのです。
飛行機の例でいえば、燃料が枯渇してこれ以上飛べなくなったケースや、嵐の中で機体が壊れたケースのようなものです。自ら着陸することと比較すれば、これは墜落という結末です。
飛行機の墜落が大惨事になるように、会社の倒産は多くの人を巻き込み、傷を負わせてしまします。

倒産と廃業の誤解を解く


倒産という言葉については、もう少し解説しておきましょう。
実は、倒産は、法律用語ではありません。そういう状態を指す言葉です。

また倒産は、破産と同じ意味ではありません。倒産した会社が(自己)破産をする場合も多いのですが、必ずしもセットというわけでもないのです。
会社が倒産して、社長は夜逃げ。裁判所に破産を申し立てることなく、法律的な処理はほったらかし……こんな場合をイメージしてみてください。倒産はしていますが、自己破産はしていません。
このように、倒産したものの、負債を法的に処理しないままにしている会社は結構あります。破産をするにも金がかかります。金がないから破産をしないケースもあれば、あえてしないときも・・・このあたりは、またお話をする機会があるかもしれません。


もう一つ、どうしても倒産に関して押さえておいていただきたいことがあります。倒産と廃業は、まったくもって“別のもの”だということです。
たしかにどちらでも会社が無くなることは同じです。それゆえ、どちらも同じ意味だと認識し、さらにはどちらに対してもネガティブな感情を抱く人がいるようです。
でもこれ、現実では雲泥の差があるのです。強制的に終わらされることと、自分の意志で終わること、その差は後に大きく現れます。

先ほどはパイロットでしたが、今度のあなたは戦国時代の武将です。戦を取り仕切っています。
戦局は思わしくありません。押されてしまい、兵はどんどん減っています。その時です。ある武将は「根性出せ。死に物狂いで戦え!」と、とにかく前に進もうとしました。
戦局なんて見えていません。見ようともしません。ただ前に進むことだけが自分たちに残された道と信じて疑いません。
そして、全滅です。武将も部下たる兵も、命を落としました。国に残してきたものもすべて奪われました。これは倒産と同じ結末です。

一方で、状況を冷静に判断し、撤退を選択した武将もいました。ある段階で致命傷を避け、徹底することを選びました。死ぬまでがんばるではなく、死なないで済むようにしたのです。
もちろん戦としては負けです。失うものもあるでしょう。でも部下と自分の命を温存することができました。
こっちは経営でいえば、廃業です。

どちらがいいですか? 
こう問われたら学生の皆さんはほぼ全員撤退(=廃業)が良いと答えるはずです。でも現実では、引くべき時に引かず、とにかく前に突進してしまう社長が実に多いのです。
私は、周囲を見ず、未来も見ず、ただ勢いに任せて前に進むもうとするバカ者を心底憎みます。そんな人のせいで、どれほどの人が巻き添えをくらって地獄に落とされたか。本当に害です。

以前「退路開拓セミナー」たるものを企画したことがありました。
「社長はいざというときでも撤退できるよう、事前に退路を作っていた方がいい」という考えが根底にありました。
で、そこに参加したある社長が「知人の社長にも一緒に行こうって声をかけたら『退路なんて考えて経営なんてしれたれるか!』と怒られてしまった」と懇親会で話をしていました。

なんということでしょう。その人は、第二次世界大戦の時の陸軍の上官かなにかでしょうか。時代は変わったのに、いつまでも変われない精神論を感じました。
都合の悪いこと、気分の悪いことは、こうしてかたくなに否定するのでしょう。こんな人が組織のトップにいることが恐ろしいです。

ちょっと熱くなってしまいましたね・・・
ヤメ大の精神は、「いざとなれば玉砕覚悟」なんてものとは無縁です。とにかく、うまくやろう!です。
カッコつける必要ないし、きれいごとなんていりません。我々は現実を見ながら、したたかに、虎視眈々とやっていこうじゃありませんか。

社長が死去するおわりもある


そうそう、もう一つ強制終了のパターンが残っていました。それは、パイロットたる「社長の逝去」です。
会社を残したまま社長が倒れ亡くなってしまうことがあります。
きっと、学生の皆さんの周囲の会社でも、こんなことが起きた会社は1社や2社はあることでしょう。珍しい話ではありません。

これまで操縦桿を握っていた社長が亡くなれば、今度は誰かが操縦を代わらなければいけません。でも、飛んでいる飛行機がパイロットを交代しようというのだから簡単なことではありません。下手したら、あっさり墜落してしまうのです。社長逝去は会社経営上の最大のリスクと言っていいでしょう。

また、社長が追っていた借金の連帯保証が、悲劇を招くこともあります。
起きる可能性とそのときの危険性を考慮すれば、準備をしておいてしかるべきなのが社長の逝去ではあります。でも、それができている会社はほぼないというのが実情でしょう。

アンチ「なり行き任せ」で自力決着!


さて、そろそろ今日の講義をまとめてまいりましょう。
まず、会社の着地には、任意の終わりと、強制的な終わりがあることをお話しました。そして、任意の終わりにたどり着くためには、社長が自らおわりを決断しなければゴールを迎えられません。
これ、別の見方をすればどうなるか。社長がいつまでも決断しなければ、いつか強制的な終わりがやってくることを意味しています。

廃業で会社をたたむなり、誰かに会社を継がせるなり、決着をつけなければいつか強制終了となります。会社が倒産するか、社長が在任中に逝去してしまうか、なのです。
そして、倒産と社長の逝去は、痛いし、危ないし、苦しい結末です

ここまで話を聞いても、あなたは成り行き任せに身を任せることができますか。強制終了を待てますか。
ヤメ大の哲学では、なんとか回避していただきたい末路です。

というわけで「社長は自らの意思で会社の着地に決着をつけましょう」というのが本日の一つ目の結論となります。
家に帰るまでが遠足であるように、会社の着地問題に決着をつけるまでが社長業なのです。社長には定年がありません。自分のおわりは自分で創造するものです。

自力でできる「廃業」を中心に組み立てる


次に任意のおわりグループの細部に目を向けます。
社内承継とM&Aと、廃業があります。これらの関係性をどのように考えるか。任意終了を実現することは当然として、その中でどういうスタンスをとるべきか。

ここ基準となるのは、廃業だということです。廃業こそが会社の着地におけるスタンダードなのです。

意外に思われた方も多いのではないでしょうか。「廃業数が増えていてヤバい!」みたいなニュースが表すように、廃業って世の中では相当悪者扱いされています。
かわいそうなことです。こんなに忠実で確実な奴はいないのですから。

考えてもみてください。社内承継やM&Aは、たしかに理想的なエンディングかもしれません。
でも、相手がいなければ実現できません。会社を継いでくれる人、買ってくれる人がいてこその話です。

今時、社長の子供であっても「親の会社を継ぐ気はない」なんてケースばかりです。M&Aで売ろうといったって、お金を出してまで買ってもらえる会社がどれほどあるでしょうか。
社内承継やM&Aでは、相手がいなければゴールを迎えられないのです。そして、誰かに継いでもらえることを求めていつまでも決着をつけなければ、いつか強制終了がやってきてします。最も悪い結末です。

そこで、廃業です。
廃業であれば、相手がいなくても、自分だけで完結させることができます。また、その気になればいつでも実行できます。
なお、廃業は自分でコントロールできる裁量の部分が大きいので、残したいものを温存できる可能性も高まります。この点、強制的にすべてを奪われる倒産との差が生まれるところです。このあたりの詳細は、また後日の講義で語ることとなるでしょう。

廃業のこと、ちょっとは見直していただけましたか。「頼れるたしかなリセットツール」というキャッチフレーズを贈ってあげたいところです。
事業承継やM&Aという理想ばかりを追いかけるのではなく、いざとなれば最終的には廃業を選んで粛々と整理する。強制終了を回避するため、最悪でも自らの手で廃業させて着地を実現する。
経営者が押さえておくべきマインドセットです。これが本日2つ目の結論となります。

入学金が納められた!?


最後にビッグニュースをお伝えして、本日の講義を終わりにしましょう。
な、な、なんと!ヤメ大の入学金を納めてくれた学生が、ついに、ついに現れました!

いやー、驚きました。まさか、本当に納めてくださるとは。ヤバイですね。払わなくても学べると宣言した入学金です。なのに、納めてくださる善意。世の中何が起きるかわかりません。私は未来を明るく感じました。

こちらの学生さんを勝手に、名誉教授ならぬ、『名誉学生』に認定させていただきました。学業を修める前からすでに名誉学生です。最高です。
名誉学生さん、ありがとうございました!! 
さあ、他の学生さんは、どうしますか? 学長は次の波を待っています! (笑)

さて今日は少し宿題を出しましょう。
本日の講義を受けて、自分の会社の着地についてどのように感じたか、考えたか。簡単にでかまわないので書き出してみてください。提出するか否かは各自の判断にお任せです。
本日もお疲れさまでした。


《事務局からの連絡》

①宿題

テーマ:本日の講義の感想や気づきを書き出してみる。

②入学金の納付手続きについて

入学金は随時募集しています。
納付は、リンク先のシステムで決済してください。
 → 入学金決済システムへ

③次回の講義

次回の講義は「2024年2月2日(金)」にアップする予定です。
終末にじっくり学んでいただきたいから、金曜日に新しい講義を発信しています。
ぜひ、著者のフォロー等しておいてください。
記事のシェアの協力もお願いいたします!



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