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珈琲の大霊師

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シャベルの1次創作、珈琲の大霊師のまとめマガジン。 なろうにも投稿してますが、こちらでもまとめています。
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2019年2月の記事一覧

珈琲の大霊師120

珈琲の大霊師120

 モカナの改心の出来。新しい珈琲の一滴が口の中に入った時、ジョージは驚いて目を見張ってしまった。

 口の中から、頭の先まで一瞬にして珈琲で満たされたかのように錯覚する程の香味。今まさに舌の上で蒸発する湯気に含まれた珈琲がどんどん広がっていく様が手に取るように分かった。

 頭の中が急速に透過されるような、朝の目覚めの感覚にジョージは感覚が覚醒するのを感じた。

「うおぁっ!?なんだこの香り。うほ

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珈琲の大霊師119

珈琲の大霊師119

 数日後、その朝ジョージは妙に早く起きてしまっていた。

 テントからぼんやりした頭で出ると、ぐったりした2000人の貧民部隊が寝息を立てていた。

(本命が敗れたドグマってやつは、どう出てくるかな?うーむ、まだ眠くて頭が働かねえなあ。あー、こんな時はやっぱり珈琲だよなあ)

 そんなことを考えていたから、ジョージはとうとう自分が珈琲恋しさのあまり幻覚を見るようになったのかと思った。

 嗅ぎ慣れ

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珈琲の大霊師118

珈琲の大霊師118

「早めに決着しないと、こいつらの飯代だけでこっちが先にやられそうだな」

 と、ジョージは縛られた2000人の貧民部隊を前に呟いた。

「大丈夫ですよ。毎日の給水があれば、一週間に1つのパンでも生きられるそうですから」

 と、にこやかに隣に来たリフレールが言う。わざと大きな声で言っているような気がした。

 事実、貧民部隊がざわめき始めた。

「おいおい、聞かれたら面倒じゃないのか?」

「何言

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珈琲の大霊師117

珈琲の大霊師117

 その特殊部隊は貧民部隊と呼ばれた。

 サラクでも貧しく生きる為に手段を選べない者達を囲い、主に暗殺、諜報といった国の裏側を処理する部隊だ。

 前王の時代、ドグマは進んでその部隊の指揮を買って出た。野心あるドグマは、ハングリーな貧民出身の者達とウマが合ったのだ。

 彼らは期待に応え、ドグマが前王を病に陥れ、現王を精神的に追い詰めて操り人形にしようとしている事を知った上で、ドグマに付き従った。

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珈琲の大霊師116

珈琲の大霊師116

「あぁ~~、…………珈琲が飲みたい。飲みたい、ぐうぅ……」

「あんた何やってるさ」

 リフレールとエルサールが互いの近況を話している最中に、ジョージが机に突っ伏したので、ルビーがたしなめる。

「ぅぅぅ、あぁ、珈琲の香りが恋しい。モカナぁぁぁ、俺の珈琲淹れてくれぇ~」

 あまりに情けない声に、リフレールは苦笑いし、エルサールは目を丸くしてジョージに視線を移した。

「モカナは、ツェツェにいる

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珈琲の大霊師115

珈琲の大霊師115

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第18章

       抗う者

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 所変わってツェツェでは。

「おーい、モカナちゃん!こっちの袋はどの倉庫に入れればいいんだい」

 天日干しの済んだ豆を回収する作業が大詰めを迎えていた。アーファクテ砦の麓の街からツェツェの中央広場まで、ありったけの馬車がひっきりなしに行き来していた。

 事情を知らない者

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珈琲の大霊師114

珈琲の大霊師114

「さて、まず何から話したものか。……面倒だが、最初から話した方がいいだろうな。事は、俺が毒矢を受けた時から始まった」

 エルサールは、その日国境近くで盗みを働いて回る盗賊団の討伐に出掛けていた。

 討伐そのものは、練度の高い正規軍があっという間に片付けてしまったのだが、ただ一人の盗賊が逃げながら放った矢がエルサールの眼前に迫り、エルサールはそれを剣で叩き落としたが、運悪く矢尻が首を傷つけたのだ

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珈琲の大霊師113

珈琲の大霊師113

 顔を真っ赤にして蹲っているリフレールを尻目に、ジョージがその肩をぽんと叩いて立ち上がり、エルサールと対峙した。

「リフレールの知り合いか?悪いな今……あんた、何者だ?」

 言葉の途中で、ジョージは何かに気付いたように目を細めた。

 それに興味を抱いたエルサールは、リフレールが色ボケしていた衝撃から立ち直って、興味の対象をジョージへと移す。

「俺か?俺は、その娘の親戚だ。職業は、まあ元軍人

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珈琲の大霊師112

珈琲の大霊師112

 行きより1人増えたが、それ以上にサウロとツァーリ間の精気の流れが円滑になっており、危なげなく湖底を通過したルビー達は、2日後、リフレールと合流予定のオアシスに到着する事ができた。

「話には聞いていたが、精霊というのは実に便利だな」

「所によってじゃ珍しくもない」

「色々できるのは、優秀な精霊だけですけどー?」

 偉そうにツァーリが胸を張って見せた。サウロに褒められて以来、自信がついたのだ

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珈琲の大霊師111

珈琲の大霊師111

 深夜、音も発てずに鍵を開けたルビーは、サウロ達が床に掘った穴の縁に手をかけ、ゆっくりと体を降ろした。

 下ではツァーリが僅かな火を起こして通路を明るく照らしていた。

 ルビーが地下通路に下りると同時に、ツァーリは火を消し、サウロが穴を塞ぎにかかった。まず、大きく開けた牢屋の床タイルを元通りに直し、間を土で埋めてその土をツァーリが焼いた。

 これで、薄い煎餅のような地表部分ができるのだった。

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珈琲の大霊師110

珈琲の大霊師110

「ええぇぇぇぇ!?そ、それ本当さっ!?」

「声が大きいっ」

「あ、ご、ごめんさ……」

 真夜中不用意に発せられたルビーの声で、幾つかの牢屋で囚人たちが身じろぎする声が聞こえた。

 が、それきり黙ったので気のせいだと思ったのか囚人達は再び眠りについたようだった。

「間違いない。詳しい事情は、後で聞けばいいだろうと思って聞いてこなかった。サラクの状況については、前王から聞けばいいだろう?ここ

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珈琲の大霊師109

珈琲の大霊師109

 さっき外したレンガの先には、石レンガの通路があった。松明や灯りの類は一切ない真っ暗な空間だ。

 辺りをぐるりと見回すと、カツーンカツーンという固い音が響いてくる方向があった。地下では風も殆ど吹いていない為、ツァーリでも火をつけない限り辺りを見る事はできない。とはいえ、こんな秘密の通路で火をともしたら確実に相手に警戒される。

 よって、二人は音を頼りに進むしかなかった。

 音は段々遠ざかって

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珈琲の大霊師108

珈琲の大霊師108

 侍女や、兵士達の間では奇妙な音に対しての噂話はなかった。

 ということは、この牢にいてしかも相当耳の良い人間しか気付けないものだということになる。

「あとは、音の方向に行ってみるしかないな。ルビー、音がしたら教えてくれ」

「……あ、うん。分かったさ」

 丸二日寝ていないルビーは、意識が朦朧とし始めていた。集中力は極端に減っているのに、それでもまだ寝られないのだ。恐らくそれは、ルビーの中に

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珈琲の大霊師107

珈琲の大霊師107

 ルビーが牢に入れられて二日。サウロとツァーリの調査によって、この国の現状が少しずつ見え始めていた。

 その中でも最大のニュースは、前王が失踪したのではないか?という噂だった。

「侍女達が話してたんだが、どうやら毒で倒れたはずの前王が、いるはずの自室にいないらしい」

「えっ!?それ、本当さ?」

「だから、噂だってば噂~」

「侍女達は、どうも前王が倒れた後の流れに対して疑問を感じているよう

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