珈琲の大霊師110
「ええぇぇぇぇ!?そ、それ本当さっ!?」
「声が大きいっ」
「あ、ご、ごめんさ……」
真夜中不用意に発せられたルビーの声で、幾つかの牢屋で囚人たちが身じろぎする声が聞こえた。
が、それきり黙ったので気のせいだと思ったのか囚人達は再び眠りについたようだった。
「間違いない。詳しい事情は、後で聞けばいいだろうと思って聞いてこなかった。サラクの状況については、前王から聞けばいいだろう?ここを引き払う時だと俺は思う」
「……ちょっと驚いて頭が着いてってなかったさ。もう大丈夫。確かに、前の王様がこっちについてくれるなら目的は果たしたようなもんさね。で、どうやってここから出るさ?鍵開けて強行突破するさ?」
「いや、そうすると王と合流しづらい。それに、まずあんたを王に紹介しなきゃならないだろう。だから……そうだな、こういう時リフレールだったら……」
サウロはぐるりと牢屋の中を見回して思考を巡らせた。長い間リフレールの傍にいたせいで、思考の癖はよく覚えていた。
だから、こういう時リフレールならどう考えるかを想定すれば、本来のサウロには無い戦略性が生まれるのだ。
「……鍵を開けて、この扉は開きっぱなしにしておいて、この下から脱出しよう」
「逃げたって見せかけるわけー?サウロ頭いいじゃーん」
「物真似みたいなものだけど。俺が土を抉って、ツァーリが周りの土を焼いて固めれば……そうだな、明日の夜には下の通路までの道を作れると思う。抜けた後は、抉った土を戻せばいい」
「分かったさ。ホント、サウロがいて助かったさ」
「ホントホント~。あ、でもサウロってばちょっとまだまだ~」
「何か問題でもあったか?」
「牢屋のご飯、超少ないじゃん?ルビー言わないけど、実はめっちゃお腹減ってるんだよ~」
「そうだったのか?」
「あ、あはは。ツァーリ、余計な事言うんじゃないさッ」
「余計な事じゃないんですけど。最近、ルビーから貰える精気減ってるんですけど~?」
「おい、それは困る。湖からあの井戸まで行くしか安全に帰れる道は無いんだ。あんたが万全じゃないと、全滅するぞ?」
「そんな事言ったって、囚人のご飯なんて増えるわけないさ……」
「無ければ盗ってくればいいじゃ~ん。あたしとサウロが持ってくるし」
「……なんか、ここに入ってからあたい何もしてないさ……」
不満げに呟くルビーに、サウロはやや呆れ顔で言った。
「何もしない事が、今の仕事だろ?ここまで怪しまれなかったのも、そのお陰だ。動かないと気のすまないあんたにしては、上出来なんじゃないか?」
「……言われてみればそうさ。よしっ、じゃあ出てく前にたらふく食べてたっぷり寝るとするさ。ってわけで、ご飯頼んださ。できれば、焼いた肉が食べたいさ」
「あたしが焼いてくるし!行こ、サウロ」
「おい、引っ張るな。腕が伸びる」
みょーんと伸びた手を引っ張りながら、楽しそうに飛んでいくツァーリを見ながら、ルビーは柔軟体操を始めた。次の夜までに万全の体調にしなければならない。
久し振りに、ルビーの目に戦士の炎が宿った。
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