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珈琲の大霊師112

 行きより1人増えたが、それ以上にサウロとツァーリ間の精気の流れが円滑になっており、危なげなく湖底を通過したルビー達は、2日後、リフレールと合流予定のオアシスに到着する事ができた。

「話には聞いていたが、精霊というのは実に便利だな」

「所によってじゃ珍しくもない」

「色々できるのは、優秀な精霊だけですけどー?」

 偉そうにツァーリが胸を張って見せた。サウロに褒められて以来、自信がついたのだろう。

「ほう。俺は精霊が能力を発揮する所を見るのは、お前達が初めてだが、どうやら運が良かったようだな。さて、久しぶりにここまで来たな。前は公務をさぼってよく来ていたものだが」

「おい、王様仕事しろよ」

「ハッハッハッハッハ!!さて、リフレールはどこだ?」

「少し待ってくれ……。オアシスを挟んで向こう側にキャラバンがあるな。そこにいる」

「探索もできるのか。ううむ、俺も精霊と契約したいものだな」

「サラクは、昔精霊使い狩りをしただろ?」

「俺の先祖がしたらしいな。雨乞いのシャーマン達の事だろう?」

「それ、当時は衝撃的な事件だったらしいぞ。数百年経っても当時の精霊が、現役の俺達にサラクとだけは契約するなって言うんだ」

「あたしも聞いた事あるし、ま、難しくなーい?」

「……お前は、何故リフレールと契約したのだ?」

「昔の話は興味が無いからな。単純に俺を使いこなす才能があると踏んだからだ。精霊は、契約者の才能が無いと、覚える技術の幅が狭くなるからな。直接的な理由はそれじゃないけど、リフレールならっていうのは本心だ」

「そうか。リフレールは、運にも助けられたようだな」

「助けられたなんてもんじゃない。リフレールは、あなたが思っている程完璧じゃない。まだまだ精神的に未熟な所が多いぞ?道中、何度周りに助けられたか。まあ、話は本人から聞くといい」

「あの気位の高いリフレールが話せばな」

「違いない」

 そう言って、2人は笑みを交わした。

 その横で、1人浮かない顔している者がいた。ツァーリである。

 サウロと繋いでいる手をじっと見つめて、不満そうに口を尖らせている。

 ルビーは、そんなツァーリが可愛くて仕方なく、いますぐ抱きしめて撫でまわしたくなったが、それを今やると焼かれそうなので我慢していたのだった。

 しばらく歩くと、前方にラクダの集団が見つかった。各々が木に繋がれている。

「ふむ。キャラバンを装って侵入する気だったと見える」

「そんな所だな。リフレールは……、そっちのテントの中だな。……食事中らしい。あー、マルクから同行している男も一緒だ」

 珍しく言葉を濁してサウロが呟く。そこから何かを感じ取ったエルサールは、にやぁっといやらしい笑顔を見せた。

「ほう?リフレールが男をな?それは、是非とも見てやらねばな!ふはははは!」

 唐突に、これまで見せなかった俊足で音も気配も無くテントに駆け寄るエルサールを見て、ルビーが吹き出しそうになる。その横でツァーリも呆れ顔だ。

「……ガキみたいじゃね?」

「男はいつになっても子供って聞いたさ。親父も、たまにああなるさ」

「……リフレールは、俺がいない間に色々あったらしい」

「ん?どういう事さ?」

「何というか……、同じ人間とは思えない程、何か変なものが出ている」

 眉を寄せて怪訝な顔を見せるサウロ。

 その目の前で、テントの入り口がぱっと捲られた。

「ふはははは!久しいなリフレー……ル?」

 偉大なる前王が固まった。

 リフレールが、スープの入った器を持って、輝く満面の笑みで、ジョージの口元に、スプーンを寄せていた。対するジョージは、口を開けたまま、乱入してきたエルサールを見て固まっていた。

「……?どうしたんですか?ジョージさん、はい、あーん」

 全くエルサールに気付かずに、スプーンを口元に近づけるリフレール。

 ジョージは、一瞬考えてとりあえずスプーンを口の中に入れ、両手でリフレールの頬を挟む。

「えっ?」

 リフレールが顔を赤くして固まる。目が潤んでいて、実に美しい。

 その顔を、ジョージはかくっと入り口に向けて、曲げてやった。

「へ?………………………………ぴっ?」

 入り口で石像のように固まったエルサールを、リフレールは見つけた。

「ひっ、へぁっ……。~~~~~~~~!!」

 暫く固まった後、リフレールは声にならない声で呻きながら、両手で顔を覆ってうずくまってしまったのであった。

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