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珈琲の大霊師107

 ルビーが牢に入れられて二日。サウロとツァーリの調査によって、この国の現状が少しずつ見え始めていた。

 その中でも最大のニュースは、前王が失踪したのではないか?という噂だった。

「侍女達が話してたんだが、どうやら毒で倒れたはずの前王が、いるはずの自室にいないらしい」

「えっ!?それ、本当さ?」

「だから、噂だってば噂~」

「侍女達は、どうも前王が倒れた後の流れに対して疑問を感じているようだった。その中に前王の病後の世話を見ていた女がいたんだが、数ヶ月前に突然転属させられたらしい。最近、近くを通りかかった時に顔を出したんだが、どこにも動けないはずの前王が部屋の中に居なかったそうだ」

「……きな臭いさ。もしそれが本当なら、前の王様はもう生きてないかもしれないさ……」

「まだ噂だけどな。まだこの厳重な警備の理由も分からないし。そっちは何か掴んだか?」

「そうさね。狙い通り、牢屋の見張りは外に比べれば大した事ないさ。抜けようと思えば、壁を壊してすぐ逃げられる程度さ」

「そうか。なら、いざって時でも安心だな」

「あと……ちょっとだけ気になる事があるさ。深夜、時々変な音で目が覚めるさ。コーン、コーンって低くて、遠くから響くような音さ。二人は気付かなかったさ?」

「うーん、俺は気付かなかった」

「あたしも知らないんですけど~」

「そう……。まあ、気のせいかもしれないさ」

 捉えられない不安を誤魔化すように、ルビーは笑ってみせた。

 しかし、その夜も、その音で目が覚める。

 コーン・・・・・・・コーンと、規則的なようで、少しずつずれているような音は靴音に似ている。だが、そんなはずはない。何故なら、この牢は地下にあり、この音は、地面を伝って聞こえてくるからだ。

 耳を床にぴったりとつけて寝ているから、遠くの音が床を伝って来ているのかもしれないが、ルビーの第六感はそれを否定していた。

 この固い、石でできた床の下。土ばかりのはずのその奥から、この音が聞こえてくるような気がしてならない。

 その音に、暗闇の底無し沼に引きずり込まれそうな不安が首をもたげ、蛇のようにそろりそろりと近づいてくる。そんな妄想に囚われ、ルビーは頭から毛布を被って音を遮断した。

 毛布で覆ってしまえば聞こえなくなる程度の音。普通なら気がつかない程度の音量なのだろう。

 だが、生まれ着いて五感が優れているツェツェ族の血の濃いルビーの耳は、それを当然のように拾ってしまうのだった。

「気のせいだと思うのももう限界さ。あたい、もうここ出たい」

「別に今の所害は無いのに……怖いのか?」

「良く分からない物が怖くて、何が悪いさー!?」

「開き直ったし……」

 ツァーリが呆れ顔でルビーを見ている。

 ルビーが捕まって、五日目。ルビーはどうしても夜中の不気味な音が気になって不眠症になっていた。

「あたいが本気になったら、こんな牢の一つや二つ……」

「で、その後どうするんだ?任務を果たせずに、おめおめと帰るのか?良く分からない音が怖くて逃げ帰ってきたと聞いて、リフレールがどういう顔をするか見物だな」

「もうツェツェに直接帰って寝る。あたい、もうここじゃ寝られないさ……」

 そう言って、ルビーは部屋の隅で丸くなってしまった。

「……多分、外では一日も早く情報を欲しがってるとは思うんだけど。ここで無理強いしても、続かないな」

「どうするわけ?」

「その音の正体を突き止める」

 ガバッとルビーが顔を上げた。

「要するに得体が知れないから怖いのであって、実際は取るに足らない物かも知れないわけだろ?だったら、正体が分かれば怖がる理由にはならない」

「そ、その通りさ。あたいは、自分じゃ調べに行けないし二人に頼むしかないさ」

「あ~、任務だから遠慮して我慢とかしてたわけ~?ルビーってば馬鹿じゃね?」

「う、うるさいさ。あたいだって、まさか寝られなくなるなんて思わなかったさ。でも、気持ち悪いものは気持ち悪いさ」

「あたしは、いつだってルビーの味方なんですけど。そういう事忘れちゃ困るって言いたいだけなんですけど~。サウロ、手伝ってくんない?」

「言い出したのは俺なんだ。当たり前だろ。今日は調査を早めに切り上げて、その謎の音について調べよう」

「……ありがとう……。悪いけど、二人とも頼んださ」

「あたしとサウロに任せとけってのー」

 ツァーリはサウロと繋いだ手でガッツポーズを見せた。

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