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嗚呼、ウラ日本の裏のウラ♪

海猫が飛んでいる。ヤマネコじゃない、海雪じゃない。
それ懐かしい、ジェロじゃん。ジャロじゃない。公共広告機構じゃん。
金子みすゞのCM]あったなぁ。

……てゆーか寒い。痛い。体が赤らんでいる。
水平線を眺めながら、アタシの頭には邪念ばかりが溜まっていく。
それがアタシの地元の海だ。膿であり、熟みでもある。
だから冬に立ち入る人はいない。某国の人ぐらいだろうか。

東京で暮らして15年。33歳にしてアタシは地元の富山へと戻りついた。
鮭なら大往生だが、人間なら生き恥だ。

恥ずかしすぎて、ハローワークに行ったり、や就職活動に励んだりするのも辛かった。
だからなんとなくタクシー運転手を始めた。運転手は顔を見られることもない。でも地方は車社会だから暇だ。歩合制のタクシーはすぐに辞めて月給制に切り替えた。
とはいえ暇すぎるので、代行を始めた。代行は酔っ払いの車を代わりに運転する仕事だ。アタッシュケースに乗っかるぬいぐるみがこっちを見ているようで怖い。でも、それ以外は楽な仕事だ。

そんなある日、見たことのある人が代行を頼んできた。
カードの名前を見て、気づいた。高校時代に大学4年生で教育実習に来ていた石橋さんだ。
石橋さんはアタシの初恋の人。今もダンディで優しそうな目元は健在で、田舎で生き抜いてきた割には老けていなかった。
当然アタシには気付かなかったが、アタシの胸は久々にドキドキしていた。
「女性だといろいろ大変でしょ?」
「え……。あ、まぁそうですね」
やはりアタシに気付いていない。

モヤモヤしたまま、家に帰ってアタシは石橋さんをSNSで検索した。
どうやら離婚して今はバツイチ子なしの教師のようだった。
代行で送った帰り際、アタシに見せた笑顔がたまらなくいじらしかった。

好き……かもしれない。

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